第133話 罰と願い
目覚めると天井が白かった。もう驚きやしない。ここが病院であることなんて。
案の定に包帯グルグル巻きである。ただまあ、今回は与えられたダメージというよりマギによる反動による自爆ダメージの方が大きい気がする。
まあ、極端な言い方すれば“生きているからそれでいい”のだが、それで全ての片が付くほど簡単な話じゃない。
エンテイに関しては聞きたいことが山積みだ。どうして俺を狙うのかさっぱしわからなん。
俺はあいつに会ったことがないし、見たこともない。しかし、一方的に狙うとなれば明確な理由があるはず。
その理由がわからず仕舞いなんだよな~。一方的な因縁をつけられちゃたまったものじゃないし、それになによりあの圧倒的な強さ。正直、理解を超える強さだった。
まさしく手も足も出ない。一方的に攻撃され、反撃するもダメージは1って感じの負けイベ。
あと少し所長達が来るのが遅かったらここにいないんだよな~。ほんと生きててよかった~。
こうしてふかふかのベッドで寝られるのが凄く久しぶりに感じる。せっかくだしもうひと眠り――――
「凪斗、起きてる?」
「結衣か。起きてるぞ」
そう返答すると結衣はカーテンを開けて俺のベッドの横にある丸椅子に座る。
その表情は暗いという感じが伝わってきた。明らかに雰囲気が沈んでるし。
「とりあえず、お疲れ」
「ああ、お疲れ」
「大変だったね」
「苦労自慢はあまりしたくないが大変だった。特にあれはもうラスボスだ。現段階で絶対に戦っちゃいけないレベル」
「それは痛感した。私も初めて見てやばい人だって」
......どうにも会話のテンポが悪い。普段の結衣ならもう少し積極的に話してくるが、今はただ俺の言葉に対して同意してるだけみたいに。
「......結衣? どうかしたか?」
「前回もそうだったけど、今回も任務で一緒に行動できなくて......また凪斗をボロボロにしてしまった。それが悔しくて」
結衣は自分のスカートをクシャッと握る。その手は小刻みに震えていた。
結衣がここまで表に感情を出すとは珍しい......いや、きっと自分の信条をまた破ってしまったからなんだろうな。
結衣の特務官としての目的は一般市民を守ることもそうだけど、もともとは一般市民であった俺を守ること。
しかし、それが叶わなくなってしまった今、結衣は俺を死なさないように守ることにシフトチェンジした。
だが、結衣を助けに行ったり、先生と理一さんのところへ遠征に行った時だったり、今回のことも含めて俺は満身創痍で戻ってきた。
主には俺自身の無茶によるものなのだが、結衣の信条としては俺がそう戻ってくるだけでもカウントされるのだろう。
となると、結衣をこうさせてるのって結衣の責任というよりほぼ百パーセント俺の責任なんだよな。
勝手に感じるな......というのも無理な話だろう。結衣がそう思って意識を変えない限り、そう思い続ける。
となると、「気にするな」も同じ意味で捉えられるだろうな。「そう思うなら思わせておけばいい」というのも俺の勝手でそうなったのにあまりにも結衣が可哀そうだ。
しかし......う~ん、どうしたものか。そう考えているとふいに結衣が立ち上がる。
「ごめん。ケガしてる凪斗の前でこんな暗い顔じゃ治るもんも治らなくなっちゃうよね.....外の空気吸ってくる」
「あ、結衣......」
結衣は颯爽とこの場を離れていってしまう。そんな結衣に対して、俺はわずかに体を浮かせて手を伸ばすことしかできなかった。
時間をかけすぎてしまったらしい。しかし、あの言葉をどうやって処理すれば良かったというのだろうか。
「ダメダメですね。先輩」
「その声は氷月さんか?」
結衣と話した反対側の仕切りカーテンが不意に横に移動していく。そこには患者服を着た氷月さんの姿があった。
しかし、目立った外傷は見当たらない。声のハリもあるようで、健康そのものに見える。すると、そんな俺の考えを読み取った氷月さんは答えた。
「検査入院ですよ。一応、あの空間で戦ったということで入院させられたんです。ですが、先輩のおかげでピンピンしてますよ」
「そっか。それは良かった」
俺が笑みを浮かべて答えると氷月さんは初日の頃のようにキリッとした目つきをして、ベッドの上で正座し始めた。
「あの時は助けていただき本当にありがとうございました」
そして、深々と土下座したのだ。そのことに慌てて声をかけようと起き上がるも、体に激痛が走って咄嗟に声が出ない。
「私は自分の強さを奢っていました。能力の奢りもあったせいで、結局私は自分の身内の愚行すら止められず先輩に尻拭いをさせてしまいました。
このお詫びは何としてでもしなくてはいけません。先輩が望むならどんな願いでも叶える所存であります」
「痛ててて......いや、別にそんな願いはないよ。それにそもそもあれは二人で挑んだ任務だろ? カバーするのは当たり前じゃないか」
「ですが、それでも! 私は結局一人で何もしませんでした。できませんでした。先輩に頼りっきりで、挙句には先輩が狙われている時も何もできませんでした。むしろ、最後まで守ってくれました」
「エンテイに関しては次元が違うからもはやしょうがないというか......むしろ俺は氷月さんにケガがなくて良かったと思うだけだ。正直、エンテイを殴れた時は意識がハッキリしないし」
俺は顔を掻きながらできる限り雰囲気を明るくしようと努める。
結衣も氷月さんもどうにも重く受け止めすぎだ。被害者の俺が大丈夫なんだから大丈夫......と思ってくれるのが嬉しいが、それも無理な話か。
今の氷月さんにしても、そして結衣に関してもわかったことがある。それは二人が罰を受けたがっているということ。
罰を受けることはいわば一つの懺悔をしたということになるんだと思う。
(俺の自爆だが)自責の念に駆られてる二人は自分ではその責任に対してどうにも踏ん切りがつかないから、その罰を俺に委ねているのだ。
それがわからなかった俺は結衣に対して何も声をかけられなかった。安易な慰めでは本当の意味で立ち直ってもらうことはできないのだろう。
なら、俺が今すべきことは氷月さんに罰を与えること。別に氷月さん自体が悪いことは何もしてないのだが、それでいつもの氷月さんに復活してもらえるならそうしようじゃないか。
「わかった。今から氷月さんには罰を与える」
「何でも言ってください。例え、え、エッチなことでも甘んじて受ける所存であります!」
「言わないから。それと甘んじても受け入れないで」
俺ってそんなに性欲高めに見えた? 人並みだし、それにそんな罰はさすがに与えられん。
とはいえ、罰の内容は考えてなかったな。まあ、軽めのやつにする気がだけど、軽すぎても意外にキッチリしてる氷月さんが納得するかどうか......そうだ!
「それじゃあ、毎日1個。俺に菓子パンやドーナッツやプリン......要するに甘いものを奢ってくれ。起源は1か月。軽そうに見えて意外に重い罰だぞ?」
「......ふ、ふふふ、そんなに甘いもの食べたら糖尿病になっちゃいますよ?」
「若いから大丈夫だ。それに甘いものは俺のエネルギー源でもあるからやめられない。それともう一つ、これは罰とかじゃなく個人的なお願いなんだけど......」
「なんですか?」
「名前で呼んでいいか? せっかくこう仲良くなれたんだしさ。お互い名前呼びで」
「わかりました。その罰と願い。必ず叶えます」
そう言う氷月さんは罰を受けたとは思えないほど満面の笑みであった。どうやら納得してくれたようだ。これで残すは結衣にだが......
「話は変わりますが、結衣先輩とあのままは私も気まずいですからアドバイスをしてあげます」
「よろしく頼む」
こちらも何とか行きそうだな。
読んで下さりありがとうございます(*≧∀≦*)




