第128話 姉妹ケンカ#3
「さて、状況はどんなもんだ?」
「最悪ですよ。お姉ちゃんはまだ全然余力を残していたみたいで、ボスの第二形態みたいなものです」
「嫌だなぁそれ」
俺は一先ず抱えていた氷月さんを下すと状況を確認した。
まあ、想定内のことではあった。氷月さんでは氷月姉には勝てない。そして、それは氷月さん自身もわかってる。
だからこそ、一時的に痺れさせたこの時間を使って作戦会議するしかないよな。
「先輩はどこまで動けますか?」
「どこまでも動けるさ。正確には動かなきゃいけないだけど」
「それだけ言えるならその言葉を信用します。
お姉ちゃんの能力を簡単に説明しますと、お姉ちゃんは剣をいくつも召喚させ、自在に放つこともできます。そして、お姉ちゃん自身も剣の腕は立ちます。
今のところ、普通の剣を飛ばしたりしてるだけですが、先輩が加わったので変化を加えてくるかもしれません」
「はぁー、やるっきゃないってことだよな。初撃は俺が務める。氷月さんはできる限り俺についてきてくれ。
剣を飛ばすというのならば、自由が利く空中を取られるよりもこっちの間合いでもある接近戦で挑んだ方が良いからな」
「なら、私は基本的に接近戦で合わせますが、隙あらば氷で隙を埋めていきます。放つ時はチョーカーで知らせます」
「オッケー。最後の問題は二対一という状況であの包帯野郎が動かないことだが」
俺はチラッと包帯野郎の方を見る。しかし、あまり眼中にないように遠くを眺めている。
あくまで静観姿勢ならば、このまま各個撃破と行きたいところだ。当然、連戦もきついけどな。
「さて、痺れが解ける前に倒そうか。殴ること、先に謝っとく」
「仕方ありません。もう身内である私が剣を向けてる時点で恨むことありません」
「それじゃあ、いくぞ」
俺は最初っから全力で行くことにした。身体電圧は全身で使える力は40パーセントほど。半分とまではいかないが、まあまあだろう。
俺は前傾姿勢になって一気に飛び出す。正面にいる氷月姉との距離を高速で詰めていく。
そして、アルガンドまでつけた右腕を大きく振りかぶり殴った。
「この瞬間を待ってたわ」
「俺もな」
氷月姉は右手に剣を作り出すと俺が間合いに入り殴りかかった瞬間に、下から上へと斬り上げようとした。
麻痺して体が動かないと見せかけてのカウンターであろう。だけど、それは俺も見越してた。俺よりも纏っているマギの量が多い時点で感電麻痺もあまり期待してなかったし。無駄に長いとも思った。
俺は振るった拳を咄嗟に下げて氷月姉の右手首を掴んでカウンターを防いだ。氷月姉からの舌打ちが聞こえる。先制はこっちの勝ちだ。
そして、右手で掴んだまま左拳を振るっていく。しかし、それは氷月姉の左手で受け止められる。
『大きく体を反らして』
脳内から氷月さんの言葉が送られてきた直後、氷月姉の背後に回り込んだ氷月さんは氷の大剣を横なぎに振り回す。
それに合わせてわずかに重心を後ろに傾けたその時――――
「ぐっ!」
しかし、氷月姉は俺の足を柔道の小内刈りをするように左足にひっかけてきて、素早く左手で俺の顔面を掴むとその勢いのまま氷の床に叩きつけた。
その動きによって、背後から横に振られる氷月さんの攻撃にも同時に避けていく。
その叩きつけられた威力は相当のもので鉄骨が衝撃だけで凹むのと同時にわずかに観覧車が傾いた気がした。
なんて身のこなしだ。俺がほんのわずかに移動しただけでその動きを逆手に取りやがった。丁度この場所が氷月さんの能力で凍ってなければ叩き落されるところだった。
けど、俺に近づくのは仕方ないとはいえ悪手だったな。ゼロ距離感電ならマギにより防御値も超える。
「俺の放電を食らいやがれ!」
「ぐあああああ!」
俺は咄嗟に顔面を掴む氷月さんの左手を離れないように掴むとそのまま全身の電撃を流した。
電気を周囲に拡散させるだけであるなら、自分自身にあまり負荷はかからないので電圧を上げることが出来る。
そして、その電撃でまともにダメージが入ったように声を上げながら氷月姉は感電していく。
そこにさらに氷月さんの追撃。
「氷塊拳」
氷月さんは大剣を鉄骨にさすとそれを人の腕に変形させた。氷月さんの身長の二倍はありそうだ。
そして、その腕で握られた拳で感電した氷月姉を殴り飛ばす。
氷月姉は鉄骨の上を打ち付けられながら転がっていくが、ある程度したところですぐに立ち上がる。
まともに電撃食らって痺れてるはずなのにあんなスッと起きれるってバケモノか。
「まさかあなたも自然だなんてね。その能力自体珍しいというにも......案外世間は狭いのかもしれないわね」
「割と渾身で放ったのにそれだけしゃべれるってなんか凹むなぁ」
「ふふっ、その冗談めかした言い方昔のエンテイ様みたいで懐かしいわ」
氷月さんは口の橋から流れる血を手の甲で拭うと不敵に笑う。
別にエンテイ様と一緒だからって全然嬉しくないんだよな。むしろ、こんな現況にした相手だから嫌なんだけど。
「それであなたの名前は? せっかくだから知っておきたいわ」
「俺はあま―――――」
「草薙颯先輩ですよ。まあ、後にも先にもこれが最後の先輩の自己紹介でしょうけどね」
「愛依には聞いてないのだけど」
俺も突然氷月さんが言葉を遮ってきたことには驚いた。
そして、氷月姉から注意を逸らすわけにはいかないので通信で「どうした?」と聞いてみると「名前だけはしゃべらないでください」とすぐに返答された。
それはどういう意味か。もしかしてあの包帯野郎の能力? 名前を知ることが発動条件の特別な何かがあるということなのだろうか。
それなら、氷月さんはすでに影響を受けている? だけど、氷月さんに目立った変化は特にみられない。
なら、一先ず何もないと信じて戦闘に集中するべきか。さて、これからどうする?
一番いいのはヤガミと戦ったみたいに強力な一撃を当てられるということ。しかし、あの瞬時の判断からはその隙を生むにはかなり困難だ。
こっちのアドバンテージは能力もそうだが、二人であるということがかなり大きい。
連携が取れなければ二人とて赤子のように弄ばれるだろうが、俺と氷月さんならいけるはず。
「さて、呼吸も整ったし、そろそろ行くぞ」
「あら、優しいのね。戦闘の準備を促してくれるなんて」
「いつ仕掛けても変わらないんじゃ、俺に余裕があった方が良いと思っただけだ。心の準備がいるんだよ」
俺は体を前に倒すとクラウチングスタートの体勢になる。そして、目の前の氷月姉は空中から数多くの剣を出現させる。
緊迫した空気が流れる。上空にいるために風も強く吹いていく。そして、その風によって凍ったゴンドラがわずかに傾き音を立てた。
その音を合図に俺は一歩目からトップスピードに乗って高速で氷月姉に接近する。
それに対し、氷月姉は俺に向かって剣を放ってくるが、その剣は俺の背後にいる氷月さんの撃ち出した氷によって弾かれていく。
周囲に剣と氷が接触し、音を立てながら下に落ちていく。そのアシストを受けながら俺は氷月姉に近づくと両手を小指から巻くようにして強く握りしめた。
「雷速拳」
「数で勝負ってわけね。付き合ってあげる」
俺は氷月姉の間合いに入ると鋭く右拳を突き出す。それに対し、氷月姉は両手に双剣を握ると左手ではじく。
次に左拳を出せば右手の剣で弾かれ、素早く戻した右拳を出せば躱されカウンター。それを躱して左拳を突き出す。
そして、その互いの攻撃はすぐに目にもとまらぬ速さとなり、互いに弾き仕掛け、躱されカウンターと殴り合い斬りあっていく。
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