第124話 ヤガミの特質
――――氷月 愛依視点――――
どういうこと? どうしてこいつらが天渡先輩を狙うの?
それに先ほど天渡先輩の父親の名前まで知ってた。ということは、天渡先輩の父親は特務警察官だったってこと?
それに天渡先輩がホルダーになった経緯も全て計画の上であるような事を言っていた。それはすなわち、天渡先輩は連中の仕業によって特務にさせられたということ。
私は何も知らずに一方的に天渡先輩を恨んでいただけ。全く......ほんと一つしか見えなくなる性格が嫌になる。
でも......それでも、私にできることはある。少なくともまだ奴らの前で天渡先輩の名前は口にしていない。
となれば、私が天渡先輩がすぐ近くにいることを黙っていればバレることはない。
何もわからないままに特務に入った天渡先輩を一方的に恨んでおきながら助けられてばっか。そんな私でも天渡先輩が守れるのなら、たとえこの命に代えても!
「愛依、あなたは知らないみたいだけど、隠し事をするとき大抵目に力がはいるのよね」
お姉ちゃんが凍り付かせるような声で近づいてくる。そして、右腕を大きく横に掲げると背後の空間から無数の剣を出現させる。
「今、何を隠したの?」
「......っ!」
伝わってくる威圧で体が痺れそうになる。そういえば、昔に温厚なお姉ちゃんを怒らせた時も似たような感覚したっけな。
あの時はただ泣いて謝って許してもらったけど、もうこうなった以上タダでは済まなそうね。
でも、もう決めた。もう迷わない。本当はお姉ちゃんから真相を聞きたかったけど、それ以上に守りたい存在があるから。
右手と左手に氷の剣を作り出す。こっちも本気よ。ほんと最後の人生になるかもしれないって時に人助けなんて.....いや、これは警察官とすれば名誉ある死......と思いたいだけね、実際はただの償いのようなもの。
「あくまで戦う気なのね。もう昔みたいな姉妹ケンカには戻れないわよ」
「怖気づいてただ従う女じゃないわよ。たとえ昔の戦歴が全戦全敗だったとしても、昔は昔次は勝つ」
「気概だけは昔のままね。エンテイ様、どうかこの愚かな僕に戦う許可を」
「いいだろう。姉妹であるならば、話してみなければわからないこともあるしな。それに、俺は少しだけあちらの戦況が気になるしな」
そう言ってエンテイは下にいる天渡先輩の方に注意を向ける。まずい、今は静観の姿勢だけど、気づいたらいつ反撃されたかわかったものじゃない。
それに見てる限りだと天渡先輩が押されてる。今だって吹き飛ばされた。
「いきなり余所見とは随分余裕ね」
お姉ちゃんから空中に漂う無数の剣が飛んでくる。
まあ、かといって天渡先輩の様子を気にかけれるほどこっちには全く余裕ないしね。
天渡先輩、今は頑張ってください!
「余裕が格好つく女なのよ!」
*****
――――主人公視点――――
.....ぐ、痛てぇ。それに冷てぇ。ここはどこだ......ああ、ここはトイレか。さっき吹き飛ばされて思いっきりトイレにゴールインされたんだよな。
冷たいのは水か。トイレの水道管が破壊されて溢れた水がシャワーのように頭からかかってるってことか。
あまりにも熱くなった体には丁度いい冷たさだが、止まりかかっていた傷口が水によって再び流れ出し始めちまった。
前髪から滴る水の先には同じくボロボロのくせににやけた面をしているヤガミがいる。
「ハハハ、もう終わりかぁ? いやまだだよなぁ? 俺達の戦いはよぉ?」
「このタフ野郎め」
痛みをこらえつつ、地面に手を置き立ち上がる。
それにしても、あのヤガミって男は本当にタフだ。さっきからずっと過激な肉弾戦やってて俺のように体力付き始めていいはずなのに、ダメージを追うごとに動きのキレが良くなっていきやがる。
そういう異能かもしれないが、だとするとヤガミが最初に言った言葉が気になる。
―――――俺はホルダーであって、ホルダーじゃない
矛盾したようなその言葉。そして、それを裏付けるようなことはいくつかあった。
俺が戦っている際、俺は雷の異能を使っているにもかかわらず、あいつは全く異能らしきものを使わなかった。
単純に舐められているのかと思ったが、普通に殴られてボロボロになるまで異能を使わない奴はいない。下手すれば死ぬ可能性があるからだ。
しかし、あいつはそれでも見せなかった。その上で段々と動きの速さと威力が増してくる。
だから、唯一変化があったこれを異能による効果だと睨んでいるが、それだと先ほどの言葉に矛盾する。
別にあいつの言葉を信じるわけじゃねぇが、少なくともあいつはただの戦闘狂のように思えて嘘をつくとか卑怯な真似をして戦わないはずだ。
だったら、さっきからずっと肉弾戦の殴り合いなんかしてない。くそ、わからない。はっきりしたことが言えない。
思考力も鈍り始めた。血が減っているせいか。だったら、いっそのこと聞いてみるか? 案外答えてくれるかもしれねぇ。
「なあ、お前はホルダーなんだよな?」
「あぁ? なんだ急に? 回復のための時間稼ぎか?」
「まあ、聞けって。もう何ラウンド目か知らねぇけど、少しでも全力で戦いたいだろ? お前だって」
「はっ、まあいいだろう。で、さっきの質問にだよな?」
本当に答えてくれるんだ。立場が違わなければ割りに話せる相手だったかもしれないな。
「まあ、立場的にはホルダーという扱いになる」
「立場的には?」
「俺はいわば強力な異能を出現させるために使われたモルモットだ」
「なっ!?」
いや、考えればその可能性は大いにあったはずだ。
本来異能の根源であるアストラルは異界の生物ファンタズマを倒すために作られた特別な薬品。とはいえ、それがファンタズマのために使われるかと問われれば別だ。
特務のようにちゃんとファンタズマ相手に使うような者もいれば、一般人より優位性を見出して支配しようとする違法ホルダーだっている。
そして、特務はほとんどで利用には安全性を計らっているために、強い異能を作り出すのはその人の真意次第。
しかし、違法ホルダーは違う。ヤガミが言っていたように一般人を使って作為的に強い異能を発現させようとする人もいる。
きっとどこかにあるのだろう。そう言った人間牧場をやっているようなイカレた研究者どもがいる研究施設が。
「モルモットはまさしく判別するための道具といった感じだ。異能が発現すればいいが、大体はARリキッドの拒絶反応によって死ぬかそれに近い状態になる。
発現しても能力がショボかったら強い能力者の試し斬り死体と変わらねぇ。結局優遇されるのは強い異能を持つだけ」
「......」
「俺はそんなモルモットと同じだったが、唯一違かったのはARリキッドを打ち込まれても発現しなかった」
「発現しなかった?」
「なんでかはさっぱしだ。あの研究者どもでもその原因は掴めなかったんだからな。そしたら、次はどうすると思う?」
「どうって.....まさか!?」
「そのまさかだ。もう一度ARリキッドを使うんだよ。本来一人一つに使うはずのものをな。しかし、それを打たれ手も何も起きなかった。それじゃあ、もう一度ってな。
三回打ったところで打ち止めになった。あいつらにもARリキッドの完全製法まではわからないから、無駄に使用したくなかったんだろう」
「そうか......お前の異常な身体能力とタフさはARリキッドを三回も打ったことにより体の過剰発達」
「ってことみてぇだ。結論だけ言えばな」
俺が一回打っただけで火事場の馬鹿力を常時発動状態っていうのに、その力が20パーセントぐらいだとすると打たれたあいつの体は単純に3倍すると......嫌になるな、肉体レベルの半分は引き出せるってことか。
「その力で後は脱走したって感じだが、もうその先は話す必要はねぇだろ。なあ、お前の立ち話に付き合ってやったんだ。今度は俺に付き合ってくれるんだろうなぁ?」
こいつはこいつで可哀そうな奴ってことか。まあ、だからといって手心加えるとこっちがやられかねない。
それに本人が気にしてないようならこっちが気にするのはおかしな話だろう。もし、話をするならあいつを一度叩きのめす必要がある。
「いいぜ、付き合ってやるよ。それに、もう尻なんかつかねぇぜ!」
読んでくださりありがとうございます(*'ω'*)




