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絶対捜査戦のアストラルホルダー~新人特務官の事件録~  作者: 夜月紅輝
第5章 ギャルゲーみたいになったんだが
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第118話 氷月愛依の目的

「ごちそうさまでした」


「お粗末様です」


 俺は氷月さんが作った夕食を終えると少し前から考えていたことを話そうと話しかけた。


「それじゃあ、お風呂の準備がもう少しで終わるのでそれまでゆっ――――」


「氷月さん、少し話がしたい。今後のことで」


「......わかりました」


 俺の言葉に氷月さんは少し考えてから目の色を変えて返事をした。いわば、お仕事モードって感じのキリッとした目だ。


 しかし、自分がこれから話すことは仕事にもかかわってくる可能性もあるが、それ以上に氷月さんのプライベートに踏み込んだ話。


 まあ、簡単に言えばさっきのは建前だ。話をできるきっかけづくりの一つにすぎない。

 今回の氷月さんの奇妙ともいえる行動にはきっと何かが隠れている。純粋な好意だけじゃない何かが。


 そんな気がしてならないのだ。実際の真意はわからない。だから、話してそれを解決しようってわけだ。

 杞憂ならそれでもいい。だけど、何かが引っ掛かっているなら、それが俺の言葉で変わるのならば、知っておいても損はない。


 もっともそれを氷月さんが話してくれるかどうかは全くもって別問題であるけど。

 いくら好感度を上げていこうとこれはゲームじゃない。話してくれない可能性だってある。

 まあ、その時はその時。こちらが追ってまで暴こうとするものじゃない。


 氷月さんはテーブルの皿を俺の分まで洗い場に持っていくと洗うのを後回しにして、俺の方へを優先させた。


 恐らく「仕事」ということに反応して優先させたのだろう。そんな氷月さんを騙しているのは申し訳ないが......後の処罰は何でも受けよう。


 氷月さんは俺の目の前の席に座ると「それで話というのは?」とまじめな表情で聞いてきた。

 それに対し、少しだけ唾を飲み込むと返答する。


「先に謝っておく。騙してごめん。実は俺が話したいのは仕事の話じゃないんだ」


「......そうですか」


 氷月さんの返答はやや遅れ気味ながらもそれほど驚いた様子はなかった。

 恐らく自分の今日の行動に対してある程度聞かれることは想定済みだったのだろう。そうならば、話が早い。


「質問していいか?」


「なんですか?」


「氷月さんはどうして一人で仕事をこなすことをそんなに意識してるんだ?」


「え?」


 意表を突いたような質問に氷月さんは思わず声を漏らしキョトンとした顔をする。

 まあ、それを狙ってたんだけどね。どうせ正面から質問してもはぐらかされる可能性はあるし、なによりずっと頭の片隅に残り続けてるのがあの夜の行動。


 俺と氷月さんが違法ホルダーを捕まえに行った時に、最後に氷月さんが見せたまるで誰かに優しくしてもらいたいといわんばかりの行動だ。


 ただ頭を撫でただけであるが、それがどこか母親に求める子供のような感じがして、ずっと何かに寄りかかりたかったようなそんな感じ。


 それが頭に残り続けてから、今日という膨大な時間が与えられてその間に冷静に考えていたらいくつか繋がりがありそうな項目が上がった。


 俺が氷月さんと組んでから氷月さんの見せた一人で仕事をこなせるというプライドのこと、必要以上に干渉しなかったこと、自分が弱いことに対する焦りのこと、どこまでも非情になろうとしたこと。


 どれもずっと一人で何かを抱えて、そして目的のためにただそれだけのために動いていたような感じだ。


 そう考えれば、最初の時期に一人で部屋に閉じこもっていたのも合点がいく。氷月さんは一人で何かをなそうとしている。


 きっとこれが氷月さんの隠していること。といっても、考えられるだけのことで出した推論でしかないけど。


「見せたいものがあります。ついてきてください」


 氷月さんは神妙な面持ちで席を立つとそう告げた。そして、そのまま歩き始める。

 その後ろをついていくとリビングを出て廊下へ、それから二階へと上がって辿り着いたのは氷月さんの部屋の前。


「私が口頭で伝えるよりもまず見てもらった方が早いです」


 氷月さんがドアノブに手をかけガチャっとドアを開ける。中は明かりがないので当然暗い。

 手招きされて部屋に入り、氷月さんが部屋の電気をつけるとそこには――――大量の捜査情報があった。


 壁一面に貼り付けられた文字が打ち込まれたA4の紙があり、その一部にはメモしたような手書きの部分もある。


 乱雑にも貼られたその神の中心には一枚の写真が貼り付けられていた。

 仲のいい姉妹の写真。姉であろう方は黒髪のロングで美人だ。そして、特務のみがつけるチョーカーを付けている。

 もう一人は姉の半分ほどの背丈の方は黒髪のツインテール――――氷月さんだ。


 たった一人で十数人と警察官が集めた捜査資料のような量が貼り付けられている光景にあっけにとられていると氷月さんが声をかけてきた。


「すみません、こんなに壁に貼り付けてしまって。この写真の人物は恐らくわかってると思いますが、私の姉です。そして、姉は特務捜査官でした」


 ああ、そういうことか。これだけの数の資料があって、氷月さんの姉であって、氷月さんが一人で決着をつけようとしている何か。それは――――


「違法ホルダーなのか」


「.....はい」


 氷月さんは悲しそうな声で返事をする。顔は俺の後ろにいるから見えないが、それでも恐らく俯いているような感じがする。


「姉は優秀な捜査官でした。私の家は両親から特務の家系でしたので、優秀な姉の存在は家族の誇りであり、私の憧れでした」


 俺がその言葉に振り向くと氷月さんはとぼとぼとした足取りでベッドへと腰をつける。

 その顔はどこか光を失ったような感じだった。いや、実際に憧れ(ひかり)を失った状態なのだろう。


「姉は優秀であるが故に難しい捜査に配属されることが多かったんです。しかし、それでもあの時までは無事に戻ってきました」


「あの時?」


「はい。5年前に愛知の方で大きな事件があったんです。それに駆り出された姉は満身創痍ながらも帰ってきましたが、まるで何かに憑りつかれたようになっていました」


 5年前.....ニュースぐらいでしか情報は知らないが、確かに愛知で大きな事件があったのは覚えている。

 しかし、覚えている限りだとあれは漏電による出火で研究施設の一つが爆発したって感じだったが、まさかそんな裏があったとは。


「それは敵の異能によるものじゃなくてってことだよな?」


「そうですね。姉が入院したその時に一緒に検査は受けましたが何の以上もなく.....医者も戦闘によるストレスからくるものだと言っていました。

 しかし、姉はずっと虚空を見つめ、まるで狂信者のように同じような言葉を呟いていました。そして、ある日病院を抜け出して失踪しました」


「その言葉っていうのは?」


「“エンテイ様”だそうです。恐らく敵の大将に対しての言葉でしょうけど、私が調べても詳しいことは出てきませんでした」


 これだけ調べている氷月さんが何の手掛かりもないというならば、それはもはや上層部が隠しているとしか思えないよな。


 もっともその隠していることを暴くほどの権力もなければ、暴こうとすればタダでは済まないのは確かだろう。


 しかし、“エンテイ様”とはまた変な名前だな。来架ちゃんの件で宗教がらみの事件があったが、まさかそれも宗教がらみか?


 いやでも、氷月さんの姉はただ事件解決に出向いただけ。そして、帰ってくればただただ憑りつかれたようになっていた。

 となれば、考えられることは一つ。


「氷月さんの姉さんは一体何を見たんだろうな」


「やはりそこに行きつきますよね」


 まるで憑りつかれるほどの何かを見た。それは氷月さんの姉にとって大事なものだったから?

 うーむ、ダメだ。情報が少ない。この辺りの事件について知ってそうな人をあたるぐらいだな。


 そんなことを考えていると氷月さんはバシンッと強く自分の頬を叩いた。

 そして、キリッとした目で俺に告げる。


「私は姉に会ってその時の真実を知りたいです。そして、できるならば姉を連れ戻したいと思っています。なのでどうか、力を貸してくれませんか?」

読んでくださりありがとうございます(*'ω'*)

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