第114話 さすがにそれは不意打ち過ぎる
「う.....んん......今何時だ?」
不意に目が覚めてしまった。まあ、そういう日もあるだろう。とはいえ、昨日の今日でもう少し寝たいものだ。
そう思いながら、俺は近くの目覚ましを手に取って時間を確認する。時刻は6時48分。まあ、いつも通りよりは遅めの起床であり、いつもなら既にキッチンで朝飯を作っている。
なぜ俺が朝飯を作る担当になってしまったのかは定かではないが、まあ氷月さんはあまり家事に関わろうとしなかったから俺がやってただけでそれが定着したってだけなのだが。
とはいえ、昨日はなんだかんだで夜遅くまで動いていたし眠い。ひたすらに眠い。せっかく休日をもらったんだ。こんな日があってもいいだろう。氷月さんもたまにの休日はゆっくりしたいだろうしな。
「二度寝しよ......」
半開きになった目でそっと目覚ましをもとの位置に戻すと二度寝に移行する。
昨日からする気満々であったために目覚まし機能を切っていいたというのにこの早起き。
正直、氷月さんが来て意識し始めた生活習慣の見直しがもう体に染みついてきてしまっていることに残念さがあるものの、二度寝すればいいだけなのでもはや今の俺を止められるものは誰もいない。
そして、重たいまぶたを閉ざして気持ちの良い朝におさらばを告げようと掛け布団に潜った瞬間、ガタンと扉が開く音がした。
誰か来た。え、誰? いやまあ、ここに来るとすれば一人しかいないんだけど......え、なんで?
俺はその突然の非日常に頭を混乱させながらも、別に見られて困るものはそうそうバレる位置に隠してはいないのでそのまま無視して寝ようとする。
と思ったものの、突然の来訪者過ぎてすぐに眠れそうになかったので寝たふりをすることにした。結果的には寝るので問題ないはず。
「よし、起きてないわね。それにしても、ここが天渡......先輩の部屋なのね......」
なんかいろいろ物色してそうな物言いだけど、ほんと何しに来たんだろうか。
それに昨日の俺に対する「先輩」呼びは一時的なものだと思っていたけど、今も呼んでる......すげー今更感あって逆にむず痒いな。
「それにしても、聞いたと事はあるけどやっぱりあるのかしらエロ本。特務に入ったとはいえもとは一般人だしね」
え、やっぱそれ目的!? いやまあ、エロ本はないんだけど、見られては恥ずかしいものではあるし.....って何? それでどうするき? それを「結衣先輩に突き付けるぞ」とか言って俺をゆする気か?
「いやいやいや、気になるのは山々だけど」
結局気になるのね。
「今回の目的はそれじゃないわ。私が訓練学校時代に潜入調査で鍛えたテクを披露する絶好の機会だし、やってやるわよ!」
なんか気合に燃えている氷月さんの姿が目に浮かぶ。とはいえ、氷月さんがここまでやる気を出したことって仕事以外にあるだろうか。
いや待てよ? これが仕事であればどうする?
俺が定期的に行わされている報告会。俺がこの家で氷月さんに不健全な行動を取らないようにという警告みたいな意味合いで捉えていたが、実はすでに結衣と氷月さんが繋がってて情報をやり取りしているとしたら!?
結衣も氷月さんも同じ訓練学校出身だ。そこで鍛えられるテク......テク......テク......はっ、尋問!?
しかも、俺が睡眠中と見込んで部屋に入ってきた。となれば、俺が寝ている状態で必要な情報を引きずり出す術があるということだ!
そう考えると、俺は寝てていいのか? いやでも、起きてても厄介なことにならないか?
昨日の氷月さんの行動の不可解さがあったのも、実は盛大なフリだったり!?(※彼は混乱しています)
「とはいえ、結構久しぶりだから上手く行くかしら。それになんか天渡先輩にやるとなると恥ずかしいし」
ん? なんか俺が思っていた方向と違ってきたぞ?
「ちょ、ちょっと練習してみようかしら。おはようございます、ご主人様」
――――ガタッ
「ん? 今、動いた? まあ、たまにある高い場所から落ちる感覚のやつか」
あ、あぶねー! 思わず起き上がってツッコミそうになった! なんか勝手に勘違いして見逃してくれたけど、なんだ今の言葉?
もしかして、昨日の俺が来る前の戦闘で頭を強くやられたのか?(※彼は混乱(ry)
とりあえず、俺はもう少し聞き耳を立てることにした。
「これじゃあ固いかしらね? 日頃の恩を返すためとはいえ、私と天渡先輩は1コ差なんだし、もっとフレンドリーに。おはよう、ご主人☆」
「ぶふっ」
「また動いた。どんだけ落ちる夢見てるのよ。しかも、それで起きないって」
やべっ、思わず吹いちまった。姿形こそ見えていないものの、普段ツンで冷めた感じが印象的な氷月さんがそんなこと言うと思わなくて......く、くふふふ。
しかも、マギ探知したからわかるがしっかりとポージングまでしてる。ただ起こすだけなのに。
と、とはいえ、日頃の恩なんて氷月さんも実は気にしていたりしたのかな? それならば、個人的には普段の家事を手伝ってくれるだけで十分なのだが。
「う~ん、これじゃあ近づぎるわよねさすがに。私と天渡さんの距離感って最近割と他愛もない会話をするようになったけど、互いの何かを知っているとかあんまりないのよね。
っていうか、私が一方的に遠ざけていただけなんだけど.....」
そこは自覚あったのか。というか、本当にどういう心境変化なんだ? これまで一切考えてなかったようなことを今更になって考えるなんて。
まあ、個人的には親しくなること自体は都合がよくて助かるけど。
あれかな? 少しは俺のことを捻くれずに捉えてくれるようになったってことかな? そう思うことにしよう。
「ここは思いっきって......おはようございますにゃん、ご主人様!......いやいやいや、自分でやって何この恥ず――――」
「ぶふー」
「......」
やばい。それは不意打ち過ぎた。思わず我慢できなかった。きっと普通に可愛いんだろうけど、単純にキャラにあってない感じが.....あ。
被っていた掛布団がバッサーと取り除かれた。そして、俺は顔を真っ赤にした氷月さんと目が合う。
氷月さんはなぜかメイド服を身に纏い(まあ、メイドといってもコスプレみたいな感じだが)、俺がよく使う水玉のエプロンをつけている。
あれ? メイド服にエプロンって必要だっけ? ってそんなことより!
ど、どうしよう。すごい形相で睨まれてる。とりあえず、なんか言わないと空気がキツイし、俺の精神もキツイ。
「お、おはようにゃん......」
「今すぐその記憶を忘れて命を捨てろおおおおおお!」
「がぶぅっ!」
鋭い右拳が顔面に突き刺さると同時に俺のベッドがバキッと盛大に谷折りに割れた。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




