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サブマス

冒険者のまとめ役であったウバリを失った冒険者ギルドは小さな混乱の中に陥っていた。

気性の荒い者も少なくない冒険者たちを、信頼や力でまとめてきたウバリという柱を失い、乱れ荒れているのだ。

この街を離れ別の所へ行こうとする者も少なからず現れ出してしまう事態に、ギルドの職員たちは休む暇もなく奮闘していた。


「みなさん!魔物の反乱は収まりました。その尊い犠牲として当ギルドのサブマスが殉職されてしまいました。しかし、私たちは歩みを止めるわけにいきません!皆さんには、これからも多くの冒険をしていただきたいと思っています。どうか、サブマスが命を懸けて守ったこの街を共に支えてください!!!」


一人のギルド職員の演説に、その場にいた多くの者たちが共感した。誰もがあの荒れ狂った魔物の反乱へ立ち向かい生き残った者たちだからだ。

自分が、仲間が、サブマスが、逃げまどい涙を流す民たちのために戦ったあの日のことを思い出し足を止める。


ギルド職員たちは、このような演説じみた説得を今迄に何度も行い、それぞれの冒険者と言葉を交わし、仕事を丁寧にサービス向上を意識して行ったこともあり、冒険者たちの大流失は回避できた。




「で、なんであんたはわざわざルーデンさんまで連れて、ここまで来たのかしら?しかも、なんでそんなに離れているのよ・・・・。」


「いえ、街を救った一番の功労者であり・・・ウバリさんを上回ると噂のユラギさんですから・・・・。すいません・・・。ご、ごめんなさ・・・。涙・・・」


怯え切った様子でルーデンの後ろに隠れ涙ながらに話すギルド職員。

それを、やれやれと言う表情で呆れているルーデン。

ユラギの屋敷の庭先で、こんな小芝居を見て秘かに笑っている精霊たち3体と庭にいる二人を睨むような視線で見つめるノーム。

そんな事とはつい知らず、ユラギは二人を屋敷へと招き入れていく。


「二人とも入ってきたぜ!俺たちも行く?」


「私は行かない。ユラギのために、もっとこの屋敷を強化しないと。」


「もう十分でしょ!いい加減ユラギ離れを少しでもしたら?ノームがユラギのことをだーい好きに思っているのは知ってけど、過剰なほど接すれば距離を置かれるわよ!」


「まあまあ、そんな言わなくたっていいじゃない。シルフも。自分だってユラギが大好きなくせに~。」


「べ、別にそんなんじゃないし!!!ウンディーネもうるさいのよ!それに、私たちは少なからずユラギのことが好きなんだから、当たり前じゃない・・・・。」


「そうだな。俺もユラギのことは好きだしな。やさしいし、面白いしな!wって!、早く行こうぜ!どんな話をするのか興味あるし!俺はいくーーw」


小さな子供のように、興味をそそることに正直なヴルカン。それを追いかけていく、シルフとウンディーネ。

一人残されたノームだけが、庭のゴーレムたちのメンテナンスを行い、土地の調整に精を出すのであった。




ルーデンたちを招き入れたユラギは、さっそく用件を聞くことにした。


「えっ、えっと私の名前は「マリ」と言います。今回冒険者ギルドからユラギさんにお願いがあってまいりました。それで、かいつまんでお話ししますと・・・えっと・・・。」


「要するに、ユラギに冒険者ギルドのサブマスになってほしいってことらしいわよ。この子の言いたいことは。」


「はぁ!?なんで私が!!!」


ルーデンは、緊張から本題をうまく言葉を紡げないギルド職員のマリに代わり説明をしてくれた。

冒険者ギルドでは大々的に動いてしまったユラギのうわさが独り歩きしているのを確認していた。

それは、戦いに参加していた冒険者たちだけではなく、その者たちを通じて町に住む人々にまで広がり居なくなってしまったウバリを悲しみつつも次のサブマスが誰になるかという話が日に日に大きくなっているそうだ。


その中で一番候補として上がっているのが「ユラギ」というわけだ。

その実力は暴走したウバリを一騎打ちで倒していることや、それを見ていた信頼熱い冒険者たちの証言も後押ししている。

しかし、街に生きる人々がユラギをサブマスにと押す一方で冒険者ギルド内では意見が分かれているのもまた一つの事実らしい。


「私がウバリさんを倒してしまったから・・・。」


「確かに、その事実が今回の大元となっていることは否めません。しかし、サブマスの判断も内容を他の者たちから聞くに少し変に感じます。今、ユラギさんをサブマスにという話に反対しているのは、昔からウバリさんと親しくしていた者たちが中心です。どの方も経験年数が長く、ウバリさんとも様々なことでかかわりを持っていた人たちです。」


「でも、反対派の連中の場合ほとんど私情じゃないのかい?私の聞いた限りだと、いまいちウバリの言い分に疑問を持つし、反対派よりも賛成派の方が数が多いんだろ?」


「はい・・・。そこが問題で・・・。」


「あの、盛り上がっているところ申し訳ないんですけど。私、「サブマスになる気ありませんから!」。第一、ウバリさんに恨みはありませんけど私の本を奪おうとしたのが亡くなる原因でしたし、ウバリさんが変になったのも別のことが原因だし。」


「サブマスに成って頂けないんですか!?!?」


「なるわけないでしょ。私はここで静かに暮らしていたいの。この小さな庭で・・・。」


一人遠くを見つめるユラギに、「あれだけの実力を持っているのに!」と言いかけそうになったがルーデンはそれを言わせなかった。

窓の外を穏やかで、どこかさみし気な雰囲気をまとい見つめるユラギにあまり触れてはいけないと感じとったようだった。


「ところで、なんで、ウバリがおかしくなったのか心当たりがあるような口ぶりだったけど、何か知っているのかい?」


「ええ、知ってるわ。」


ユラギは、インベントリから本を取り出して説明しだした。

ユラギの作りだした魔導書がどんなものなのか・・・。

そして、ほどなくして二人はユラギの屋敷を後にした。


ユラギは二人に出したティーカップを回収して台所に向かう。


「ウンディーネ、片づけをお願い。」


「え~~!!!なんで私が!!」


後ろで、騒ぐウンディーネには気にせず台所を後にするユラギは、頭の片隅で家事全般を任せるメイドが必要かもと少し考える。

そして、庭を見て外に出た日のことを思い出す。


「大分きれいになったわね。まだ、思い返すほど長い時は経ってないけどw。」


ユラギの見る庭には、荒れた果てた庭だったなどと思えぬほど美しく花が咲き乱れ、すがすがしく幻想的空間であった。

花に紛れるように、宝石を蓄えた鉱石の岩が花と調和するように飾られ、庭の象徴のように美しき水を流れさせている噴水は足を止め、水の流れを触れて感じたいと思わせる優雅さを醸している。


「ノーム、ここまで庭の手入れをしてくれてありがとう。昔よりもすごく良くなったと思うよ!」


「ありがとう・・・ございいます。マスター。私、もっと頑張ります!!」


恥ずかしいけど、うれしいという感情が分かりやすく表されているノームの表情にユラギも自然とうれしくなり、「クス」と笑う。

そうしていると、「なんだなんだ」とヴルカンたちが現れてユラギの周りをにぎやかにする。

そして思う、私は今のままで十分幸せだと。


_____________________________________________________________________


「で・・・・、なんで私がサブマスになってるわけかな?ねぇ、教えてくれない?」


ユラギはギルドの受付に肘を立て、受付嬢の胸倉をつかみながら物申す。

顔は笑っているが、声は静かに力強く、あふれ出ている怒りが隠しきれていない。

今、来ているのは冒険者ギルド。

色々な思惑の話を聞いたせいもあり、気になって様子を見に来たのだが案の定サブマスにと祭り上げられていた。


「えっえっとですね。結局のところ、ユラギ様のサブマスに賛成派が多数を占めましてですね。すでに、仮でも名だけでもと話が進みこのような形へ・・・・。はははは・・・。」


必死に笑ってごまかす受付嬢。隣や奥にいる者たちにも、視線を向けるが一様に顔をそらし、目を合わせようとしない。

この受付嬢をこれ以上捕まえておくのはユラギもまずいと考えたのか、文句はここまでとしてその場を去ろうとした。


「おい!お前。サブマスになったからって、でかい面するんじゃねーぞ!俺たちはお前なんかを認めねえ。」


普段であれば問題なく流せたユラギであるが、今日は虫の居所が悪いのは話の流れから想像できるだろう。

ユラギは、喧嘩を売ってきた冒険者たちと向かい合う形で睨みつける。


「私は好きでサブマスになったわけじゃないの!知らないうちにされてたのよ!!それに、なんで私にそんなに怒ってるの知らないけどね。あんたらみたいな三流が何、大きな口叩いてるのよ!!雑魚は黙ってなさいよ。今、私は機嫌が悪いから!」


ユラギも悪態をつきながら、煽るように言葉を返すと瞬く間に怒りの炎は燃え上がった。


「ギルベルトさん!これ以上騒ぎになるようなことはやめてください!!!!」


受付嬢のマリが大声で叫んだ。

マリは、現在の冒険者ギルドをまとめている上級職員の一人だ。その職員の言葉に、一瞬意識を向けたがそう簡単に怒りは収まることはなった。


「黙ってろ!俺は!今!こいつと話してんだ!!!俺は冒険者を辞めさせられたってかまわねぇー!こいつには、自分のしでかしたことの落とし前をつけさせる!」


「黙ってい聞いてれば、言いがかりもいいとこね!その大きな口も開いてふさがらないようね。ここまで騒いでくれたおかげで、少し余裕ができたわ。ありがとう!」


さらに重ね掛けするように挑発を繰り返し、その行動、視線、言葉からギルベルトの連れ立っていたほかの冒険者たちにも怒りの色が見えてくる。


ここまで来ては取りまとめられる人がおらず、止める手立てもない。

となれば、とことんやらせるしかないと判断したマリは、彼らをギルド裏にある練習場で勝負をつけるように提案し、被害を押させることを優先した。


「マリさん、この勝負大丈夫なんでしょうか?ウバリさん以上の力を持つユラギさんと、ギルド内でも上位に数えられている「冒険者チーム:風切り」のリーダー:ギルベルト。あの調子じゃ、チーム対個人ってことにもなりかねないですよ。」


「もう、私にはどうすることもできないわよ!私ばかりにいろいろ言わないでよ!!!!!」


すでに、マリ自身いっぱいいっぱいなのである。涙を今にも溢しそうになりながら叫ぶしかできないほどに。


ギルド裏の練習場にて向かい合ったユラギ達は、職員の想像通り個人VSチームの構図が出来上がっていた。

こんな危機迫るイベントはないと、野次馬が数多く練習場に集合していた。


「私を殺すんでしょ?ウバリさんの弔い合戦?ま、どうせ勝てないと思うけど

。」


「残念だが、俺たちはお前が強いことを知っている。だから殺すまではできないだろう。仮にもおかしくなったウバリを倒したところに居たからな。だからこそ、どうすることもできなかった。あんなに近くにいたのに・・・。そして、俺たちはこの矛先を誰にも向けることのできないこの感情をぶつけさせてもらう!八つ当たりだと、言いがかりだと言えよ。」


「あんがい子供なのね。精神的に。丁度いい実践の機会かと思ったけど難しそうね。変に冷静になっちゃって・・・。」


ユラギが話終わる前に二本の矢が頭を狙って放たれた。

しかし、ユラギに当たることはない。シルフによって起こされた風がこれをはじいたからだ。

この矢を皮切りに、風切りのメンバーが動き出す。

魔法使い、弓使い、盾使い、盗賊、剣士で構成されている風切りのメンバーは、息の合った連携攻撃を初手から繰り出した。

魔法使いにより火球(ファイヤーボール)が飛来し、その合間を縫いつつ的確に当たる位置に矢が放たれる。

盾役は、重そうな盾を自在に動かし距離を詰めどのような攻撃をも受けきる体制をしている。


水の槍(ウォーター・ランス)!こそこそ後ろを取ろうとしないでよ。」


火球をかわしながら作り出した水の槍を、後方に向かって飛ばす。

その攻撃に、驚いたように退き姿を見せたのは盗賊の役割をしているメンバーだった。

静かに忍び寄り、隙をつくのが盗賊のオーソドックスな戦い方だが、悟られてしまったら意味がない。

姿を隠すのを止め、盗賊は闇魔法の「影縛り」を試みるも、火球によって光源が多く影を的確にとらえることができなった。

しかし、そこはベテラン。影の動きを読み、刹那とも言える一瞬に魔法を発動させユラギをとらえることができた。

この時を待っていましたと、ギルベルトは渾身の力を込めてユラギに切りかかった。


血しぶきが上がり、ギルベルトの体や顔を赤く染める。

やった!とギルベルトは確信した。浴びた血や剣から伝わってくる感覚。そして、何より目の前で全力をもって振り下ろしたという事実に基づいて。


「やった・・・。」


「誰を?私をなんて言わないよね?」


ユラギはそこにいた。剣を突き立てた肉の壁の向こうで、血まみれになりながら・・・・。


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