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魔物たちの反乱

「なんてことだ!魔物の反乱が、なぜこの街に・・・。この報告書が事実なら色々と備えなければ!!!」


今騒いでいるのはこの街の領主である。

彼は普通に良い領主で、不正をすることもなく街の運営を潤滑に回し栄えさせてきた。しかし、そんな街だからこそなのか魔物たちに標的にされてしまった。

彼は焦った。この情報をもたらしたのは生産ギルドのルーデン。

今までにも大きな不利益となる前に情報をもたらし街のために貢献してきてくれた人物だ。

そんな彼女の言葉は信じるだけの実績があるものの、この情報ほど信じたくないものはなかった。

領主は初めに街を防衛するにあたって警護してくれている騎士団長を呼び出した。事の次第を説明し理解させたが、どうにも信じていない様子だったのでさらに追加で追加情報を話す。


「も、もしこれがほんとならこの街は終わりますぜ・・・。」


「わかっている!!!!だからこうしてお前を呼び出したんだ!これから街の防衛に関して策を興じてほしい!一刻も早く!」


領主の強い言葉と緊張は、頭の回転を鈍らせ不安が強まることばかり考えてしまう。

恐ろしい・・・。

責任が直接重荷となってのしかかっているように肩に力が入ってしまう。


「今いる兵士の数は1100ほど。この報告書は中型規模の反乱とのことでしたが数で示すと一万ほどでしょうか、、、。正確な数は確かめようもありませんが、その前後の数でこられた場合、籠城して3日、短ければ一日持たないでしょう。仮に、攻めたとしても5000以上の差がある状態で攻められた場合、勝機を見出せる結果に繋がることは難しいかと、、、。」


「つまり、敵の数によっては手も足も出せないということか、、、。」


両者の間に流れる沈黙。

それはお互いの知識や頭では、打開する方法を思いつかないことによる絶望を意味する沈黙。

どうすることもできない自分の不甲斐なさもそうだが、両者が抱いているのは恐怖。

街に住む、今も笑っている民たちが殺され蹂躙されていく姿を想像してしまう。

もし自分がその立場になってしまったら、、、。


恐怖はさらなる恐怖を増長させる。

頭から血を流し、悶えながら地面を這って逃げる自分。

自分の腹に顔を埋めて腹わたを美味そうに食べる魔物。

助けるものはおらず、辺りを見れば同じ様な民が、仲間が、家族が涙を流し苦しんでいる。

そう想像すると、今にも叫びたくなるほど緊張し背中を伝う汗を敏感に感じられる。


「コンコンコン」


そんな緊張感の張りつめた空間にドアをノックする音が響いた。

その音に大の大人二人は「ビクリ!」と体を震わし、ドアに視線を向ける。


「は、は、入れ!」


思わず声も震え、強弱すらもうまく調節できないまま返事を返してしまう。

挙動不審な返事であったが、ドアは普通に開かれ中に初老の執事が入ってくる。


「旦那様、生産ギルド:ルーデン様と商業ギルド:ルカナ様がお越しになられました。至急とのことでしたがお通ししてもよろしいでしょうか?」


突然のことに焦りを見せてしまっていたが、ルーデンたちが来たのはなんともちょうど良いタイミングだ。

今回の前例のない事態にどう対応すべきなのか「意見を聞かなければ」と、執事に二人を連れてくるように指示を出す。


「領主様、突然の訪問をお許しくださいませ。生産ギルド:サブマス:ルーデン・ベルクートでございます。隣は、商業ギルドのサブマス:ルカナ・トーレルです。今日は、先に送りました手紙についてお話ししたく・・・。」


「前書きはいい。ルーデンも今更、ふざけるな。私たちも、ちょうど「その報告書」について話していたとこだ。お前の意見を聞きたい。」


ルーデンは焦り話を促す領主に従い、ユラギと話したことについて説明を始めた。しかし、話をすればするほどに領主の顔は曇っていった。

ルカナは思っていた。

あったこともない相手の話を、生き死にがかかった状況で信用できるのかと・・・。

思っていたことは正しく、領主はルーデンの話を聞けば聞くほどに騙されているのではないかと思っていた。


それもそのはずだ。

たった一人の人間に、万単位で襲ってくる魔物の相手ができるはずもない。

もしできのであれば、それはもはや物語の中の話であると。

洗脳でもされているのではないかと、思い始めたような疑っている顔でルーデンを見つめだしたことに気が付いたルカナはすかさず別の角度からフォローを入れた。


「私も屋敷へ行ったさかい、ユラギの実力はこの町で一番といっても差し支えないと思いますわ。なにせゴーレム・・・。もとい、ガーディアンを複数体庭に放ち警護させているくらいですから。それに本人も魔術の心得があると言ってました。戦力を少しでも集めたいこの状況では、参加してもらわなければもったいない実力者と思いまっせ。」


ルカナの説明を聞き、考えを少し改める領主。

ユラギという冒険者の実力が、話通りならばかなりの物に違いがない。

それだけの実力者がいれば少なからず状況が変化し、また別の打開策を興じることができるかもしれない。


「しかし、話によるとユラギは自分一人で事に当たるつもりのようだが。そこのところどう考えている?ルーデン。」


「彼女の口ぶりからして、何かしらの手があるのでしょう。それに、彼女の保有している戦力は少しですが魔物の数を削ることができます。どのようなことをするつもりかはわかりませんが、信じることしかできないかと・・・・。」


あまりにもあいまいな答えに領主も頭を抱えたくなる。呆れていると隠そうともしないその顔を見て、自分の甘い考えでユラギにかけてしまったことを少し後悔しだすルーデン。

しかし、自分が信じ行うと決めたこと。今更投げ出すことなど、まったくもって無駄。

ルーデンは当初の予定通り領主を説得し、冒険者ギルドに全面的に協力を要請できるように領主に許可をもらうことに成功した。




「本当に、ユラギという一介の冒険者に任せて大丈夫なのでしょうか?」


「わからん。そして、私はそれを信じられるほど立場の軽い人間ではない。冒険者ギルドに協力を要請し魔物の反乱に備える。騎士団のお前たちにも命を張ってもらうことになるが、どうか民のために全力を尽くしてくれ・・・・。」


領主は騎士団長に頭を下げ、何もできない自分ができる最大の誠意を見せた。

その姿に、怯えを持っていた心を振り払いキリッと背を伸ばし答える騎士団長。

2人は自分ができることを行い、街を守ることに全力をささげようと奮起しだすのであった。

____________________________________

領主から許可をもらったルーデンたちは、冒険者ギルドに来ていた。

ルカナも「ここまで来たら」と最後まで付き合ってくれるそうで、一人で来るよりも心強く感じていた。

暴力狂と異名を持つ「冒険者ギルドのサブマス;ウバリ」はこの街一の実力者だ。基本的には誠実でサブマスとして職務をこなしているが、絶対敵に回してはいけない存在であるウバリを、どう説得するのか。これが今回の一番の問題だったが案外簡単に協力してもらえることになってしまった。


「領主様からの要請じゃ仕方がない。協力できることは何でも言ってくれ。」


冒険者ギルドの執務室で話し合う三人。このギルドのサブマス:ウバリは、屈強な肉体を持つ慎重2mを越す男だ。

見た目からわかる強者の風格を持つ男が、二つ返事で了承したことが腑に落ちない二人に説明を付属する。


「そんなの簡単なことだ。すでに領主様から、魔物たちの反乱について先ほど連絡をもらっていたからだ。街と共に俺たちは暮らしている。街を守るのは当然だろう。」


ウバリは何をしたら良いかと、簡潔に用件を聞くとそれを了承して話し合いは終わった。


「案外、難所に考えてたとこが簡単に片付いたね、、、。」


「ほんま、信じられんわ。でも、ウバリはんも街のことを考えてくれてるっちゅうことやないん?いいことやん!これで私らは早く片付いた分、別のことに集中できるんやし。」


ルカナはすでに終わった話だと考えているようだが、ルーデンはそう考えるにはうまく飲み込められなかった。しかし、裏をとっている時間もなくここは引き下がるしかできないことも事実だったので言葉にすることはなかった。


話がまとまり、ユラギのもとを訪れたルーデンたちは、それぞれの行動を開始させた。

ユラギの支配下にあるガーディアンたち100体が、街を取り囲む壁沿いに並ぶさまは壮観であったがそれまでにはそれなりの問題も発生した。

街の住人や話のいきわたっていない者たちが、魔物たちが攻めってきたと勘違いしガーディアンたちに攻撃を仕掛けたり、逃げまどい街の門周辺が一時的な混乱状態に陥ってしまった。

しかし、そこは領主の権威やサブマスのウバリの言葉もあり落ち着きを取り戻すことができた。

しかし、問題はそれだけにとどまらなかった。

ガーディアンたちは宝石でできていることを失念しており、夜には人もいなくなり門も閉ざされるため問題ないと思っていたが見事に悪事を働く者たちが翌朝山となっていた。


「これは一体・・・。何があったんだい?ユラギ。」


「どうやら夜のうちにガーディアンたちの宝石欲しさに盗みを働こうとした者たちみたいですよ。ノーム、そうなんでしょ?」


「すでにこの子たちは魔物を殺すように術をかけ直しておきました。強化もばっちりしておきましたので、悪意に関しては容赦なく力をふるいます。記録を確認しても、つるはしを突き立てたり攻撃を仕掛けてきていたようですので自業自得です。ホント、人間とは愚かですね・・・。」


「もう、明日には「魔物の反乱」が起こるというのに・・・。こんなことでは先が思いやられる。」


すでに準備や手はずを用意しているルーデンが溜息を吐く。

それに合わせるようにユラギが小声でつぶやき、その場を離れていく。


「別に住人を避難させる必要なんてなかったのに・・・。」





翌日・・・・。



街は厳戒態勢にあった。門を閉ざし、住人たちは街の中央に近い避難所に集められたり、街から離れようと逃げ出している。

そんな街の外にいるのは100体のガーディアンと呼ばれるゴーレムたちと、冒険者たち。そして、そこから少し距離を開けユラギとウバリであった。


「まさか、私のそばでうち漏らしを処理するつもりですか・・・?もっと、距離を開けて狩った方が効率的だと思いますけど・・・。」


「いいんだよ。すでに冒険者たちをチームを組ませて配置している。俺は、お前さんの未届け人だ。手が足りなければそちらに入るつもりだ。」


現在、ユラギは居心地の悪い状況にあった。ウバリとの面識はない。

冒険者ギルドに所属していることもあり、ウバリのうわさを聞いて何をされるのかと内心少し怯えているのはうまく隠さなければ。


そんなことを紛らわすため、精霊たちと話をしたり打ち合わせを確認したりしていると、そんなユラギをウバリはただ見つめる・・・。

ウバリはルーデンたちと会った後、領主にも会っていた。その理由はただ一つ。「街を守ってもらう!」その目的のために、自ら足を運びウバリの元を訪れ頼む間れた。また、ユラギが失敗した場合に備えて「鬼人化(きじんか)」のため秘薬まで渡されている。報酬もかなりの額を用意してくれると言うことで受けた。


成功することに越したことはないが、鬼人化の薬を使うのはできるだけ避けたかったのだ。

この薬は一時的に鬼のごとき力を引き出す反面、寿命を削るだとか、弱く成るだとかデメリットの話も絶えないからだ。

別に臆しているわけではないので、必要となれば躊躇なく使うつもりだ。

ただ、もし弱くなった場合、このままサブマスの座に居座ることはできなくなるだろうと考え辞職も視野に入れて考えをめぐらすのであった。


「ユラギ、来ましたよ。」

「もう時期くるぜ!」

「もうすぐそこまで来てるよ!!!」

「来ても、私が吹き飛ばすわよ!」


精霊たちが騒ぎ出す。

ユラギはその合図に合わせて一つの本を取り出した。

黒い皮を基盤に金の骨組みで補強されている独特な雰囲気をまとっている本。

それを見たウバリは、この本が「魔導書」であることを瞬時で見抜いた。


魔導書とは魔力を宿した本であり、その最低基準がが魔法使い10人分を超えるほどの魔力を宿しているものである。

保有している魔力量は物によりさまざまではある物の、ウバリの見立てでは個人が持っていては問題になるクラスの物だと判断した。


「ユラギ・・。そ、それは!!!」


「あ、わかりました?魔導書ですよ。攻撃手段の少ないのが私の弱点ですからね。こういうものを作ってみました。なかなか大変でしたよ。」


ウバリはユラギの言葉を疑った。

魔導書を作る・・・。そんなことができるのだろうか?この危機迫った状況であっても、その疑問は刹那の時間を何倍にも長く感じられるほどに考えさせるものだった。

しかし、その一瞬の隙が危険を招いた。

茂みから飛び出してきたオーガが、ウバリに襲い掛かってきたのだ。

経験豊富にして、実力者のウバリはとっさに剣で伸びてくる腕をいなし距離をとることができた。

そして、切り返そうと構え踏み込もうとするとユラギのガーディアンがオーガを押さえつけているのを目にした。

オーガの身長は3mを越す。対して、ガーディアンは2mほどであった。

本来であれば、体格の大きな方が勝つが力は拮抗していた。


「そのまま押さえつけてろよ!!!お”お”お”り”り”り”ゃ-!!!!!」


ウバリは剣をガーディアンの隙間をぬって走らせ、オーガの胴体を両断した。

一瞬のうちに命を奪われ、そのまま上下で別れたオーガの死体が大地に転がる。

オーガは、その体格と怪力から一匹でも十分脅威になる魔物だ。

それをこれほどまでに簡単に倒せたのはこのガーディアンのおかげに他ならない。しかし、オーガを両断できるだけの力と腕を持つウバリも、また街一番の実力者として嘘偽りはなかった。


「えっ!?」


「へっ!?」


ウバリとユラギの言葉がまじりあう。

目と目が合い、ウバリは驚きのあまり思考が一時停止しユラギは、何もないとわかると再び自分の仕事を再開した。


ウバリは、オーガを倒した後ユラギの方にも来ていないかと目を向けたのだが思いもよらない光景が待っていた。


ユラギの僕であるガーディアンたちが、魔物たちをウバリの時と同様に止めている。そこに、魔導書を持ったユラギが近づき魔物たちを杖で軽く小突いていく。すると、魔物たちは次々と姿を消し、手の空いたガーディアンたちがまた次の魔物たちを捕まえる。

ユラギはそれを繰り返していき、その姿をウバリはしばらく見つめていた。


「ウバリさん!!そっちの方に魔物たちが抜けていったので処理をお願い押します。ウバリさん!!!!しっかりしてください、戦闘中ですよ!」


「す、すまん・・・。て!なんだその魔導書は!!!魔物を消し去っているのはその本の力か!!!」


「そうですよ。この本は私の作った「魔獣封縛書(まじゅうふうばくしょ)」というものです。理性がない魔物であれば、この本に封じ込めることができるように作りました。でも、あくまでも閉じ込めるだけなので時間をおいて外に出しても入れた時と同じ状態なんですよね・・・。」


その話を聞いて、ウバリは完全にフリーズしてしまった。自分の考えていた常識を覆され、自分ではできない、手の届かない力をいともたやすく行使されたことに・・・・・。


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