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森の屋敷

ルーデンとルカナはゆっくりと道を進んで行った。

庭はまだみすぼらしい姿だが、きっとこれから綺麗な庭になるだろうとルーデンは思っていた。

それに比べて、ルカナは庭に置かれている岩の方が気になっていた。

一つ一つ大きさも色合いも違う岩がいくつも置かれ、それぞれには宝石を思わせる結晶が見え隠れしていた。


「これ、たぶん金剛石(ダイヤモンド)だわ。しかも、見えているだけでもかなりの大きさやで!この岩一つで人財産や。」


「こっちもすごいわよ。今まで気が付かなかったけど、普通の植物に交じって「マジカルフラワー」も植えてあるわ。魔力が豊富にある土地でしか根を張らず、魔力が足りなければ花を咲かさないと言われるこの花がすでに蕾の状態で生えてるなんて・・・。」


二人は、この庭をよく見れば見るほどに普通ではないことを知ってしまう。それはひとえに豊富な知識により得られる情報である。

普通の発明家やギルド職員、行商人ではこの庭にある物の価値など理解できようもないのだから・・・。

二人はあまりの珍しいもの、貴重なものが並んでいたため気が緩んでしまった。


「ルーデンさん!ルカナさん!危ない!!!!!」


門の外から大声で呼ばれて「ハッ!」と周りを見渡すと、傍にあった金剛石の岩がまるで地面から這い出るゾンビのように手足を生やし動き出した。

そして、そのままその体で倒れこんできた。

二人はとっさに距離をとるために飛びのく。


「なんや、ルーデンはんもその図体でよう動きますなー。」


「こんな時に茶化すんじゃないよ!私はもう、あんたらみたいに飛んだり跳ねたりするのがしんどいんだからね!」


二人は、非戦闘職として生産と商業の世界に身を置いていた。しかし、それだけであり戦いが全くないわけではない。

良いものを作り出せば、それを手に入れようと武力を行使するものもいる。そればかりか、正々堂々と大衆の面前で横暴を働く者も極僅かではあるが存在する。

行商など、もっとたやすく想像できるだろう。

行商人の下隅(したずみ)時代など村から村、街から街への往復による商売から始まる。

それはユラギの居た進んだ世界のように、一日で長い距離を進み大量の荷物を運ぶことなどができないからである。

長い時間をかけて物を運び、それを狙う者たちを退けなければない在らない。


二人はそのような経験を今までにしており、戦闘職の冒険者たちのようにはいかないが自分の身を守ることができる程度には心得ていた。

そのため、急に動きだした岩を交わすことができたのだが・・・・・・。


「あかんな・・・。これは。」


先ほど倒れた金剛石の岩は、再び起き上がり段々と距離を詰めてくる。これだけの魔力が豊富な土地ならばと、二人の脳裏に一つの答えと不安が走る。

この岩は、「ゴーレム」だと。

ゴーレムは長い時間をかけて魔力がその身に蓄積されて生まれる。蓄積されるものにより、発生するまでにかかる時間は長くなり時間をかけて生まれた個体ほど強いと言われていた。


「無理やな、ゴーレムとは・・・・。私らが逃げるだけなら問題ないやろうけど、倒すとなるとそれなりの人数を用意せな。あの護衛三人が中には入れれば何とか倒せたやろうけど。」


「それでも無理でしょうね。庭にたくさん置かれていた岩すべてがゴーレムの可能性があるのよ。あれだけの数相手は、街の冒険者たち総出で当たらないと!」


二人の顔に汗が流れる。

二人は外の門に向かって、ゴーレムから目をそらさず段々と下がっていく。


「ゴーレムかどうかも見分けがつけられないなんて・・・。これはゴーレムじゃありませんよ。【ガーディアン】です!」


二人の後ろから声がして振り向くと、誰もおらず。門の外にいる護衛が二人の上を見上げているのを見て、真上を見上げると少女(ノーム)が宙に浮きながらため息をついていた。

少女(ノーム)はふわりと地に降り立つと、ガーディアンと言った金剛石の岩に触り犬猫のようになでる。


「これは私の作ったガーディアン。この屋敷に入ってきたこと後悔させてあげる。」


「待ってちょうだい!私はルーデン。生産ギルドサブマスターよ。今日はあなたのマスターでいいのかしら・・・?ユラギに用があってきたの。お願いだから合わせてちょうだい!」


「確かに私のマスターはユラギです。でも、この庭に勝手に侵入したのは変わりません。お前たち、さっそく仕事です!」


ノームの掛け声で庭にあった岩たちが真の姿を現す。

金剛石以外に藍玉(アクアマリン)黄玉(トパーズ)紅玉(ルビー)翠玉(エメラルド)など多くの宝石を含んだ岩たちがガーディアンとなって動き出した。

二人にとっては、今まで経験してきた恐怖にも勝る状況に全力で門まで逃げ出そうか判断しかねている。


「ノーム、何してるの?あ、それがガーディアンね!いろんな宝石があって綺麗だね!」


逃げ出そうと足に力を入れ構えた時、ユラギが屋敷から出てきた。

ユラギにとっては、ノームがまじないの石の試運転をしているように見えていたらしい。


「あの!!!助けてください!!!!!」


「へっ!え、えっとどちら様ですか?」


「わ、わたしは・・・。」


「私はルーデン!生産ギルドのサブマスだよ!!こっちは、商業ギルドのサブマスのルカナだよ!さっさとコイツらを止めとくれ!」


「え!サブマス!?ノーム、ストップ!ストップ!!!はぁ、とりあえずガーディアンは元に戻しておいて。十分試験運用には事足りたでしょ?」


「まだ、ダメ。肝心な戦闘能力に関して実験できてないわ。」


「いいから!!!!」


ルカナが慌てて自分の紹介をしようとしたところにかぶせるように話し出したルーデン。

ユラギは、自分が手紙を出したサブマスと知るやガーディアンの動きを止めるようにノームに言ったが、ノームは不服そうにじーと見つめてくる。

やっとのことでガーディアンたちは元の岩へと帰り、庭のオブジェとなった。


ノームを引き続き作業に戻らせ、二人を屋敷に招く。

客間に案内された二人は、ユラギに出された紅茶を飲んでやっと緊張がほぐれた様子だ。


「ふぅ。色々と騒ぎ立ててしまってすまなかったね。改めて、私は生産ギルドサブマスのルーデン。一応、今までアンタにいろんな仕事を斡旋してた者だよ。」


「私は商業ギルドのサブマスのルカナ。直接の面識はないけどいつもギルドで買い物してくれてありがとね。本音を言えば、一度のまとめ買いよりもこまめに買いに来てくれたほうが助かるんやけどね。」


「す、すいません!えっと、私はここに住んでいるユラギです。て、知ってて来たみたいですけど・・・。今日はどういってご用件で?」


ユラギの問いかけに、ルカナはルーデンの答えを待った。

ルカナ自身は、会った事のないが信頼性の高い情報を多く調べることができるユラギとコネクションを手に入れるためについてきたので、すでにここである意味目的は達成されていた。


ルーデンは、持ってきたユラギからの報告書をテーブルに広げる。

広げられた報告書の内容は、細かく様々な情報を含めて書いてあるため要約して簡潔に説明すると「魔物の反乱」が起こるというものだった。


「魔物の反乱」は迷宮(ダンジョン)や魔物たちの生息域で発生する一種の大移動。その土地に住む魔物が一斉に動き出し、行く手にあるものを次々と飲み込んでいき、その勢いは街を飲み込み国でさえ傾かせるほどの大規模なものが起こったこともあるという・・・。


このような情報をはじめは信じられなかった。信じたくなかったルーデンは、こうして足を運び見て見ぬふりのできない事柄に向かい合おうとしていた。

しかし、結果など分かっていた。

報告書に書かれていたことは、反乱の主な発生場所にそれを構成する主な魔物、向かうであろう進路に、かかるまでの時間予測、そして何よりその規模であった。


「中型規模の「魔物の反乱」。この報告書はすでに領主のとこにも届けられているわ。でも、これが事実であったとしてこの街がすぐに対応できるわけでもない。この報告書では一週間ほどと書いてあるけれど、それは本当なの?あと、知っている最新の情報も教えて!」


「わかりました。ちょっと待ってくださいね。最新情報によりますと・・・。すでに先走った小隊規模の群れがこの街に向かってきてますね。群れの数は3つ。一つの群れに大体8体ほどのようです。」


「そ、それは本当なのか!?なぜ、そんなことが分かる!」


「そういう能力としか言えません。すいません。」


ルーデンはユラギの説明に納得はできなかったが、無駄に話している時ではないことを冷静に理解していた。

ルカナに、外にいる護衛たちに街までこの情報を持ち帰るよう伝えに走らせ、2人きりになった部屋で「魔物の反乱」に対策するためユラギに意見を求めた。


「すでにその報告書に書いたと思いますけど?」


「この報告書では、被害をできるだけ抑えるための方法しか書いていなかった。そして、その方法は住民の一部を囮に使い魔物の気をそらし、大多数の住民を逃がすための時間稼ぎとともに冒険者や領地を守る騎士たちを使い魔物の量を減らすと言うものだったけど・・・。ユラギ・・・。あなた本気でこんなことをさせる気でこの報告書を書いたの?」


「それが一番良いと判断したからです。上に立つものならば、瞬時に損得の計算ができるものではないですか?今回も同じですよ。「魔物の反乱」と言う大きな消耗戦をいかに耐えるのか。そして、いかに民を生き残らせるのか。それを考えれば、書かせていただいた内容が一番効率的だと判断したまでですよ。」


「よくも、こんな残忍な作戦を考えたものね。確かに最終的に取らなければいけなくなるであろう作戦ではあるけれど・・・・。それでも、もっと別な作戦はなかったのかしら?この街に住む人たちが犠牲にならずに済む方法が!!!この作戦を取らないようにするための別の作戦が!!!」


「ふふふ。分かっているのですよね。でも言わずにはいられない。とても優しい方です。ですが、私は仕事として最も効率的な方法を提示させていただきました。仕事分の報酬をしっかりとこなすために。もし、ここに私情をはさむのなら、それは私のポリシーに反します。」


「つまり、仕事としてなら動いてくれるってことね。いいわ!私が、あんたに依頼を出すわ!!私の依頼はただ一つ!!「魔物の反乱を何とかして!!!」報酬は金貨5000枚!私の資産と保有している物を売り払ってでも払うわ。だから、何とかしてちょうだい!」


「わかりました。お受けします。ではまず、値引きの交渉からしましょうか!今までここで静かに引きこもれたのは、言ってしまえばルーデンさんの存在が大きいですからね。この街に初めて来たときに生産ギルドに誘ってくれたのは、ルーデンさんでしたね。引きこもり、外での仕事ができない私に出来る仕事を斡旋してくれましたね。しかも、10年間も。日頃の感謝とこれからの良い関係も含めて・・・・、金貨50枚でお受けいたします!」


ルーデンは驚きを隠せないでいた。思わず口が開いてしまい、ふさがらない。

思考が追い付かないとはよく言ったもので、今まさにそれだ。

そこに、護衛たちに話を伝えに行ったルカナが帰ってきた。

ルカナは動かなくなったルーデンを見て驚いて、ユラギに事の次第を聞いた。


「馬鹿じゃないの!!!そんなこと一人でできるわけないやろ!ルーデンもしっかりするんや!よく考えてみ!こんなところに一人で暮らしてるコネもなさそうな冒険者に何ができるねん!うちは知ってるんやで。あんた冒険者登録だけして何も依頼をこなしてないやろ。あんたのこと、少し調べさせてもらったことがあるんや。だから、あんたはさして実力はないんやろ!」


「ついさっき、庭でガーディアンたちにおびえてたのはどちら様でしたっけ?」


「うぐ・・・。」


「私自体には確かにさした実力はありません。ほかの方のように剣を振ることも弓を打つこともしたことがありません。獣人のように身体能力が高いわけでもないです。でも、私のお友達は結構強いですよ。それに、魔法なら心得ていますから・・・・。」


不敵に笑い、威圧するユラギに庭での出来事も含めて油断できないと思うルカナは考え、気を引き締めるように心に思う。

ルーデンが復活してルカナは、直接話を聞いてユラギが何をしようとしているのか話を二人で聞く。


「今考えているのは、魔物たちが街に来るまでの間に精霊たちに手伝ってもらって魔物たちを削り減らします。あと、庭にあったガーディアンたちを連れて行って街の警護をさましょう。「魔物の反乱」の本体の到着はあと5日ってところだと思います。だから、私の準備は十分に間に合う。住民の避難は領主に任せて、守ることに徹してもらいます。メインを私が、うち漏らしを冒険者の皆さんねお願いしてもらうことになるでしょう。」


ユラギは仕事とプライベートはしっかり分けるタイプである。

紅茶をすすり、一息つくと再び二人の気になる作戦の詳細を話し出し質問に答えて話を終了させた。

森の館、ユラギの家を後にして二人となった護衛に守られながら街に帰る。


「ルーデン。ユラギの話、本気にしてるんやないやろな?あんな荒唐無稽な話、現実させるなんて不可能や。それに、ユラギになんとかできるだけの実力があったとして、街の方の説得はどうするん?領主に今の話をして聞いてくれるやなんて思えへんけど。」


「そこは私が何とかするわ。領主の説得は何とかなる・・・いえ、させるわ。問題はそこよりも冒険者たちの説得よ。特に、あの頭の中まで最強バカのサブマスをどうにか説得しないと。」


ルーデンの自信と本気ぶりに「本気なん!」と顔に出さず驚くルカナ。そして、問題に上げた名前を聞いて納得する。

直接的な戦力を有するギルドは、世の中にいくつか存在する。その中でも、すべてにおいて門を開いているのが冒険者ギルドである。

魔術ギルド、テイマーギルドがいい例で、適性がなければ入ることができないギルドと違いそれなりに戦えるだけの実力があるものは能力の適性がある者でも冒険者ギルドに登録でき、登録する者も多い。


人が集まれば、それだけ変な輩も多い。

それらをまとめ上げている冒険者ギルドのサブマスは、暴力狂と異名をつけられるほど肉体言語で話をする。

冒険者ギルドに登録しているものに対しては、間違っている、よくないと判断した者に容赦なく語り掛ける。一般人には向けないのが救いであり、冒険者たちは下手に逆らおうとしない。

戦闘力で言えばこの街で最も高いだろう。

そんな相手と話をして、今までの内容を分からせ協力させることを想像するとうまくいくイメージにつながらない。

仕事以外であまり話したことのない相手だけに、正確なことは言えないがルーデンが本気でやり遂げようとしていることを邪魔するつもりもない。

ルカナはルーデンにどう動けばいいのか指示を仰ぎながら笑顔で語り掛ける。


「うちも協力するけん。なんでも言ってや!」


ルーデンは、「ありがとう」とひと声かけ作戦始動のために動いてもらう内容を話し出した・・・・・・。


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