街へ
ウンディーネを見送ったユラギは、一人残された庭で魔法を使って花壇に水をかけていく。
この際、「私が自分の力で育ててみるのもありかも」と考えながら。
「ぐう~~~~~。」
「そう言えば、ご飯を食べてなかった。でも、手元にある食材ももう底をつきそうだし・・・・。やっぱり街に行くしかないか。はぁ・・・。」
ユラギは水かけを止め、体を「生活魔法」をかけて綺麗にするとその足で街に向かった。
今向かっている街は、ユラギの家から30分ほど離れたところにある。しかしそれは徒歩で向かえばの話である。
「飛んでいけば早いけど、この際だから少し道を直しながら行こうかな?」
ユラギは元々仕事熱心な性格で、効率的に動くことを信条としている。そのため、一度スイッチが入るととことんことを終わらせようと動き出すのだ。
今回の場合、人と関わらずに生きていくことを辞め、昔のようにまともな生活をしようと言う気持ちの変化であった。
「でも、まったく引きこもらなくなるつもりはない。とりあえず、必要なものを集めて~、適度に生活できる程度に周りを整えて~、静かに暮らしていけたらいいな~。」
ユラギは自分のこれからの方向性を考え、空想しながら道を進ん行く。しかし、ただ進んでいるわけではない。
庭をきれいにした時のように、「サイクロン」を複数個発動し道に生えた草木を切っているのだ。もちろん、切った草木は風で道の端に寄せて躓きそうな石すらもきれいに除けていく。
こうして、ユラギの通った道は美しくしっかりとした道となり、ついでにと「硬化魔法」を道にかけ草木が生えないように加工までしていた。街までの道のりは少し遠いと感じるくらいの長さだ。距離にして2~3kmほどだ。
それでも、それだけの距離をあっという間に道にしてしてしまうユラギの力は普通ではない。しかし、本人は何一つ気にしている様子はない。
ユラギが道を作りながら進んで行くと、すでに作られた道にぶつかった。
そこからは魔法を止め、道に沿って進み街を目指した。
ほどなくしてレンガ造りの小さな塀が姿を見せ始め、さらに進むと街に到着した。
落ち着いた雰囲気の街並みが広がっているがユラギはお構いなしに街を突き進んでいく。ユラギには目指すべき場所が決まっていたからだ。風景など興味はない。
向かっていたのは【ギルド】。
仕事斡旋所のような場所である。登録している人達にあった仕事を斡旋し、また時には仕事を発行する場所である。
このギルドにはいくつか種類がある。
農作、畜産、鍛冶などの生産関連からなる【生産ギルド】。
様々な物を売買、物品の流通などを行う【商業ギルド】。
戦闘、調査、採取など危険を伴う【冒険者ギルド】。
これらをはじめとし、魔術や治療、テイマーなどのギルドも存在する。
ユラギが向かっているのはその中でも、生産ギルドに向かっていた。
ユラギの場合、【冒険者】、【テイマー】、【商業】、【生産】、【魔術】のギルドに席がある。
ちなみに、登録したのは引きこもる前なのでかなり昔のことである。
「すいません、カードの更新に来たんですけど、、、。」
ユラギはカウンターの受付嬢に、金属製のプレートを差し出しながらお願いした。
生産ギルドは大きな三階建て建物で、木造だがレンガや漆喰なども使われてしっかりとした作りだ。
生産ギルドと言うこともこともあり、様々なものが保管貯蔵され協力関係にある商業ギルドの職員も多くここにいたりする。何より、隣にあるここよりも大きな倉庫と一体化している建物が商業ギルドである。
「ようこそいらっしゃいました!プレートの更新とのことですので、このままお預かりいたします。更新にしばらくお時間いただきますので、それまで端のほうでお待ちください。・・・・!あ、あの!お客様!!申し訳ありません!こちらのプレートの更新はいつ頃からされていなかったのでしょう?」
「そうですね、私が引くこもる前にしたので最後だから・・・・、10年くらい前ですかね?仕事は家で出来ることをしてましたけど。」
「そ、そんなに昔から!今、プレートの中にある情報を読みだしたところかなり古い記録で止まっていたのですが、こちらを更新するとなると通常以上に長い時間がかかってしまうと思います・・・。それと、大変申し上げにくいのですが。あまりにも古い記録のため、盗難品ではないかっという話が上がりまして確認のためにいくつかの質問と魔法照合をさせて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
ユラギは、自分の引きこもっていたことによる弊害に少し驚きつつ、それを承諾した。
ギルドプレートは、すべてのギルドで共通の物を使っている。一つのプレートは、それぞれのギルドの所属を示し、何よりその身分を証明する大切なものだ。
新たにギルドに入る際は、プレートに新しく情報が付け足されるようになっており、このプレートはユラギがいた世界のように、これ一つであらゆる情報が引き出せる情報にアクセスするための鍵となっている。
ユラギの世界でも身分を証明することができるものを盗み犯罪に利用されることなどの事例は普通にある。また、本人の知らぬ間にお金を盗むことすらできてしまう。
そのため、プレートは命の次に大切なものと言っても過言ではなく、プレートがなければできないことも多い。
ユラギは受付嬢に連れられて奥の部屋に連れていかれた。
「それではいくつかの質問をさせて頂きます。【まずあなたのお名前は?】」
「ユラギ。登録名はそれだけで登録していたはずよ。」
「では次。【情報更新されていなかった期間に取り扱ってきた仕事内容を簡単で結構ですので教えてください。】」
「私が引きこもったあとやっていた仕事は、大雑把にまとめると【情報を集めること】よ。依頼内容や報酬にもよって内容の量や質は違ったけれど、色んな情報を集めたわ。自国他国問わず国際的なことも、魔物の分布も生き物の育て方から、普段見かけない魔物の情報や加工方法、街にいる飼い猫探しってのもやったこともあったと思うわ。」
「ありがとうございました。それも、記録されていた情報と間違いありません。では最後に、魔法照合をお願いします。」
ユラギは言われるがまま、用意された魔法陣の書かれた紙の上に手を重ね魔力を流した。すると、手の形にあとが付きプレートをその紙で包んだ。
そして、その包んだ紙ごと火をつけ燃やすと、プレートは何事もなかったかのように健在だった。
「「?」これで、何かわかったの?」
普通に思った内容を口にするユラギ。
受付嬢もすかさす答えていく。この方法でわかることは持ち主か持ち主でないかの判別である。
あの紙に書かれた魔法陣は持ち主の魔力を記録し、プレート内の魔力と照らし合わせるようにできている。もし、魔力が違う場合プレートごと消滅し燃え尽きてしまう。
ユラギのプレートは燃え残ったということで、本人のものであると証明されたのだ。
「結構面倒なやり方をとっているんですね。」
「何分大切なものですからね。幾重にも保護をかけてありますし、慎重に判断していかなければなりませんので・・・。長らく時間いただいてしまって申し訳ありませんでした。このまま更新をさせて頂きます。ギルド用の大型装置を使いまして時間を短くなるように致しますので、夕方までには終わると思います。」
「わかりました、では夕方にまた寄らせていただきます。それと、こちらをサブマスの「ルーデン」さんにお渡しください。頼まれていた情報の報告書です。私の名前を出せばすぐにわかると思いますので。では・・・。」
ユラギは生産ギルドを後にして、隣の商業ギルドに向かう。目的の一つを終わらせたがまだまだ、やらなければならないことがある。
それは食料の確保だ。
長らくの引きこもりで食料は底をつきかけている。無いといっていいレベルだ。
そのため、商業ギルドで大量購入するつもりでいたのだ。
「すいません、食料を買いたいんだすけど。」
「はい!いらっしゃいませ!食料品ですね。なんでもございますよ。何に致しましょう?」
「それじゃあ、小麦粉200kg、干し肉500kg、馬鈴薯、人参、玉ねぎを300kg、香辛料を5kg、リンゴ、トマト、100kg、ニシンの酢漬け10瓶、あと豆を700kg!あとは~・・・・。」
「ちょっ!ちょっと待ってください!お客様!!!あまりにも量が多すぎます。ここで確かにすべてそろえることができますけど、それらを運ぶとなると馬車二台を超えてしまうかも。それに金額だって馬鹿になりませんよ。買うものだけでもかなりの額になりますし、運搬費も入れますと・・・・・。金貨20枚から25枚ほどかかるかも!」
「あー、運搬に関しては自分で持っていきますから問題ありません。それを差し引けば金貨22枚前後で収まると思いますけど?それに、私の頼んだ品もその気になれば夕方までには取り揃えることが可能でしょ?あ、忘れてたわ!こう言う大量に買い付ける時は割引をしてくれるのよね?それに、値切りの交渉もしないと!」
ユラギはわざとらしく大きな声で注文の内容を言った。そして、「今から交渉しますよ」宣言するかのように声を上げると、周りにいたお客や商人たちがその言葉にひかれて耳を傾け、目を向ける。
ユラギを相手にしていたギルド職員も、その意図が分かった時にはすでに遅く野次馬が二人の周りを取り囲んでいた。
「さて、ギャラリーも集まってきたし交渉を始めますか!」
「ちょっと待った!!!!!!」
これから盛り上がろうとしていたところに待ったをかけたのは、中年の男性職員だった。どうやら、二人の会話がカウンター奥の部屋にも聞こえたらしくわざわざ出てきたようであった。
これもユラギの狙いの一つであった。
交渉をするうえで立場の低いものに話を持ち掛けても、動かすことのできる権限は多くいはない。それならばことを大きくしてより上の者を呼んだ方が交渉は大きく変化をつけることができるようになる。
「私は商業ギルド、交渉担当:最高責任者のゴードンと申します。ここから先は私が交渉させていただきます。」
方眼鏡をかけ綺麗なお辞儀をした、紳士的なイメージを抱かせるゴードンと名乗った男は、先ほどの職員から私の注文内容を聞いて確認すると話を始めた。
「これだけの量の物を個人で購入し、持ち帰るとの話でしたが、こちらの利用に関してはどうするおつもりですか?一人で食べていくには一年以上かかる量ですし。お店を経営している方にあなたの見覚えがありません。商人でもない方に、これだけの物をお売りすることは無理です。それに誰か商人を還さず取引となりますと信用にも・・・・。」
ユラギは今現在プレートを隣の生産ギルドで情報の更新中であることを伝え、その証明として用意してもらった仮の証明書を差し出した。
それに目を通し、理解したゴードンは、話を切り替えて話し出す。
「わかりました。では購入に関しては問題ありません。昔の記録にも、同規模の大量購入がありましたので。では、交渉と行きましょうか。」
「ユラギ様のおっしゃられた通り、これだけの注文であっても当ギルドであれば夕方までには問題なくそろえることができます。で、肝心な価格のお話ですが・・・・。私どもといたしましては、まず金貨20枚と通常の価格での計算を致しまして。そこから、心わずかではありますが金貨一枚分と、現物で馬鈴薯、小麦、豆をさらに50kgのおまけつきで契約したいと思います。」
「確かに、悪くない内容ね。でも、まだね。まだいけるでしょ?今の内容で話をまとめるなら金貨は18枚おまけつきでなら考えてあげる。」
「・・・・金貨19枚馬鈴薯、小麦、豆60kgではどうでしょう?」
「金貨19枚で買うならもう一押しおまけが欲しいわね。人参とリンゴ、香辛料に玉ねぎもおまけしてほしいな~。【ゴードン・ゼリル・マヌン】さん!」
「なぜ私の名前を・・・・。」
ユラギは静かに近り、耳元でごにょごにょと何かをゴードンに話しかけた。
「・・・・・・・・!!!!!!!。・・・はぁっ、わかりました。ご注文の品を金貨19枚で、馬鈴薯、小麦、豆、人参、リンゴ、玉ねぎを60kg、香辛料を5kgおまけにつけて「交渉担当:最高責任者のゴードン」がユラギ様にお売りいたします!」
「ありがとう!さっきの話は内緒にしておいてあげる。頑張って調べてね!それと、気になることがあれば私に聞いていてちょうだい。今回サービスしてもらったから、こちらもお返しするから。」
「こちらこそ、先ほどの話が本当であれば私としては九死に一生を得るも同じことですから。これからも、よき友でありますように。」
「よき友でありますように!それじゃあ、注文よろしくお願いしますね。夕方に取りに来ますから、ではでは・・・。」
ユラギがゴードンにこっそり教えたのは、【情報魔法】で調べたゴードンの息子の恋人についてだ。もともと、ゴードン自身息子に恋人がいることは知っていたし、彼女にも会ったことがある。ユラギが教えたのはその彼女が秘密にしていることだった
実はすでに子供を二人出産しており、旦那も健在。要するに浮気をしているということであった。挙句、彼女の家庭には借金があり、その返済のために結婚しようとしているといったのだった。
もちろん、そんな話をすぐに信じることはできないが、もし事実であれば信用にも傷がつき、悪い噂が立ち、ゴードンの家も金銭的にただでは済まなくなる。
失うものがお金だけでなく、家族や息子などとなってくると無視することはできない。
そして最後の一押し、「こちらに彼女さんたち家族が住んでいる場所を書いておきました。少し深くまで周辺を調べれば見えてくると思いますよ。」これだけ、言われればゴードンはギルドの些細な損失などどうでもよくなる。
金貨数枚の損失で家族が守れるならば安いものだ。
結果、ユラギはこの交渉を収め最低価格で多くの食材を出に入れたのだった。




