265Dead『呼び掛け』
「フフフ、兄貴の玉を潰した報いを受けさせるにしてもこうやって余興として見せるのもなかなかどうして……悪くない……そう思わない? 京?」
と瑛代は京に言った。
京は
「そうですね、さすがです瑛代様、会場も盛り上がっています」
と言って笑う。
会場の客達は
「ハハハハ!! さっさと逃げろよ! 逃げてるだけでもこっちは楽しめるからさ!」
「そうだそうだ! 戦うか逃げるか! ほらほらあ!!」
と言ってトーラスを煽る。
トーラスは
「糞が!! 悪趣味すぎる!」
と言ってキメラのジェシカを見る。
剣を手に取らずトーラスは
「ジェシカ!! 思い出すんだ! お前は人間だ! キメラに無理矢理されて……辛かったな! すぐに! すぐに助けてやるからな!」
と話し掛ける。
それを聞いて他の観客は
「……アハハハハハハハハ!!」
「馬鹿だ! 馬鹿がいる! 殺せないから説得というくだらない手段で助かろうだなんて!! アイツはフィクションとリアルとの違いも分からないのか!!」
「おいおい! 言ってやるな! アイツだって大切な……うふ!! ハハハハハハ!!」
と笑いだす。
「滑稽滑稽!」
「無駄なことをしている人間は見ていて飽きないぜ!」
と腹を抱える。
それを見てトーラスは
「黙れ! 笑うな! 貴様等なんぞに! この思い分かってたまるか!!」
と怒鳴るが
「あははははは!!」
「ああ分かんねえよおお!! モンスターに話し掛けるって!」
「なんだ? モンスターでも話せば分かるってか? アハハハハハ!! 動物でも上手くいかねえ時があるのにモンスターにって!」
と誰もがトーラスの行動に笑う。
トーラスは
「糞!! ジェシカ!! 目を覚ま……」
「グゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!! ダベルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!! オナガヘッダアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
と奇声のような声を上げてライオンの手を付けられた右手で殴り掛る。
「!!」
とトーラスはすぐさまその場から走った。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
と地面は大きな砂ぼこりに包まれる。
「おお! 何だなんだ! どうなってる?」
と観客は目を細めていると
『すぐに埃を吸い上げます』
と言ってアナウンスが鳴り埃は何かに吸い上げられる。
そして、
『防弾ガラスも強化します』
と言ってさらにガラスが観客の席から闘技場の周りを包む。
そして
「はあはあはあ」
とトーラスは息を切らしていた。
相変わらず剣を持っていなかった。
そして、
「ジェシカ!! 目を覚ませええええ!」
と大声を張り上げるだけであった。
しかし、その声を掻き消すように
「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!! お腹ああああああ!! ヘッダアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
と言いながらトーラスを襲い続ける。
観客達は
「行けえええええ!!」
「殺せええええええええええ!!」
と歓声を上げ続ける。
トーラスも息を切らしながらなんとか必死に避け続ける。
10分後
トーラスは未だ逃げながらジェシカに呼びかけ続ける。
「ジェシカ……ジェシカああああああああ!! 目を……覚ましてくれええ!」
と叫ぶ。
観客達は
「ああ……飽きて来たなあ……」
「そうだな……ずっとこんな感じか? だけどもうちょっとで疲れて喰われる? でもなああ……目に見えている最後もなあ……」
と目が虚ろになっていた。
それを見てトーラスは
「勝手な奴らだ! 人の心を弄んで笑ってた奴らが! 人間はこんなにも残酷なのか!」
と言って観客達を睨む。
それを見ていた瑛代は
「うむ、確かに観客達からしたら飽きるかもな……同じシーンにそして分かり切った最後……それは長ければ長いほど興ざめしてしまうものだ……フム……次は少し考えて思考を凝らす必要があるか?」
と考えていると肩をトントンと叩かれる。
後ろを見ると奈々子であった。
「大丈夫! ここからが私の……私のお勉強の時間……イヒヒヒヒ……」
と笑っていた。
そして、逃げているトーラスは何度も声を張り叫び呼びかけ続ける。
すると
「おにいいじゃん」
とキメラは言って動きを止めた。
トーラスは
「……ジェシカ……ジェシカ……戻ったのか……」
と放然としてキメラになってしまったジェシカを見る。
すると
「おにいいじゃん……ごべんね……おぞって……ごべんね」
と話す。
トーラスは
「いいんだ……いいんだ! お前は何も悪くない! 大丈夫だ! お前は人間に戻った! それでいい!」
と言った。
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アルマはモニターを見て
「ジェシカ……ジェシカ! 良かった……良かったあああ……」
と涙を流す。
ライドも
「ジェシカ……よくやった……俺等は勝ったんだ……外道共から……思いは届くんだ……」
と嬉しそうに言う。
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トーラスは
「よく頑張ったな……よく戻ってきたな……帰ろう……一緒に……」
と手を伸ばす。
ジェシカは
「おにいいじゃん……ありがとう」
と言って獣の手を伸ばす。
観客達は
「えええ……」
「そんな最後おお……さすがにい……」
となっていた。
だがトーラスは無視した。
そして、嬉しそうに手を伸ばして繋ごうとした。
「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
と突然ジェシカは叫ぶ。
「え……」
ザシュン!!!
と体が真っ二つに切り裂かれる。
「……」
「おおお……」
「なんという大どんでん返し……」
観客達は一瞬戸惑いそして
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」
と歓声を上げる。
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アルマは
「そんな……トーラス……嘘でしょ……」
「ジェシカ……」
とライドも止まった。
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「ちょっとだけ……感情を戻した……理性を戻した……これが……これが裏切られる瞬間……これが運命に……裏切られる勉強……アアアハハハハアア!! 良いねええ! 最高だあ!!」
と奈々子は笑った。
瑛代は
「うんうん! 良かったね!」
と言って笑った。
奈々子は
「私は見たかった! これが! これが願いが叶ったと思った瞬間運命に裏切られる人間! これは私の芸術に花を! 私の心を満たす! きっと良いのが出来る! 私の思いは叶うんだ!」
と喜んだ。