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地球最後の日  作者: たらのめ
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新田ふみかの場合



こんな日でも学校に行かなきゃいけないのか


火曜日の朝

目覚めて最初に考えたことだ。


なまった体を起こし、ぼやけた意識のまま

リビングへ向かった──


両親はもう仕事に出ていて、家に居るのは

私一人だけだった。


平皿に焼いたトーストを一枚、昨日の残りのポテトサラダを添えて朝食をとった。


テレビをつけると政府の記者会見が、生放送で放映されていた。


ここ最近政府は同じばかり言っている。


〝今日の午後8時から午後10時の間に

遠い銀河から飛来した巨大な隕石が地球に

衝突する〟──ということ


どうせ、また〇〇文明の予言だか、

世界滅亡説やらが騒がれているのだろうと

頭の片隅で思っていたが、今回はマジらしい





お昼のチャイムが鳴り、昼食の時間になる。


午前中はずっとお弁当のことを考えていた。


母が中華料理にはまっているらしく、この一週間ずっと餃子、焼売、回鍋肉、青椒肉絲

のローテーションでお昼を過ごした。


さて、今日は餃子の日だ。


しかし、いつもの二段弁当のおかずのところには別のものが入っていた。


代わりに私が一番好きなハンバーグが2つ、

レタスの上に乗っていた。


少し妙に感じながら一口食べると、口の中から肉汁とは別の旨味を感じた。


わかった、チーズだ。


昔母に〝チーズが入ったやつを食べたい〟

と頑固にねだったことがあった。

それは私が小学生の頃のことで、近所の

レストランで初めて味わったその味が忘れられず毎日お願いしたのだ。


結局、その願いは5年後の今日叶ったけれど、すっかり私はそのことを忘れていた。


食べ終わって気づいたことだが、一枚の紙切れが風呂敷の裏に貼られていた。


それには一言〝愛してるよ〟と書かれていた。


今更何だろうと思ったけれど、あの純粋な母のことだ、世界が終わる今日、娘の私に何か言い遺したかったに違いない。


呆れる気持ち半分、嬉しいと思う気持ち半分

私の顔はくしゃくしゃになってしまった。





学校の帰り、行きつけの書店に寄っていった。


不思議なことに店員や客の人気は感じられず

店内には私だけがポツンと存在していた。


考えたことは、みんな自分のことで精一杯なんだ、ということ。

そして、誰も居ない空間を独り占めできるからラッキー、ということだった。


まずは何をしてみようか。

制限された枠を越えてやることといえば──


我に返ったとき、私は成人雑誌コーナーの前に佇んでいた。


おお、色んな種類のものがあるんだなぁ、と

感心しつつ一冊のコミック雑誌を手に取る。


学校ではいつも男子たちがスケベな本を前に

わちゃわちゃ騒いでいて、馬鹿だなぁ、と

思っていたが、

なるほど、割と興味をそそられるものだ。


あー、なんでそこでそうなっちゃうかなぁ。


えっ、つけないとダメでしょ!?


はわわ、、、





もうこんな時間だ。急いで電車に乗らなければ、8時の夕飯に遅れてしまう。


いや、その前に死ぬのだからそんなことを考えたところで無駄だろう。


辺りはすっかり暗くなってしまったが、

空では満月が光を照らしている。


隕石はもうそろそろ落ちる頃だろうか。


それとも、やっぱりただの噂に過ぎないのだろうか。


地球最後の日、私はそれとなく過ごした。

何も特別なことはしていないし、しようとも思わなかった。


ただ、ああ私の人生終わっちゃうんだなぁ、

って。


だけど、まだ心にポッカリと穴が開いた感じがするのだ。


どうしてだろうか。


お母さんに、〝愛してるよ〟って言ってないから?


1人も好きな男の子ができなかったから?


虚しいものだ。私の、人の人生なんて。

突然フッと消えてしまう。


それが今日だっただけだ。


私は自分の人生を何悔いなく過ごせてきただろうか。


父さんが病で倒れたとき、私は側にいなかった。

前日に、進学のことで揉めてしまって距離を意図的に置いていたからだ。


好きなはずだった部活もやめてしまった。

練習はヘマばっかりして、いつも先輩から怒られて、そんな自分が嫌になってしまったからだ。


嫌なことから逃げて、私は幸せになれたのだろうか。

あのとき、あの判断で良かったのか。


過ぎてしまったことは仕方がない。

過去には二度と戻れない。


ふと、空を見る。


月の真横に大きい丸が見える。

心なしか少しずつ膨らんでいってるようなきもする。


終わりが近づいてくる。


地球最後の日だ。
















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