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文房具で強くなる少女の物語~ただし私は能力をうまくコントロールできません~  作者: 赤い本棚
プロローグ 文房具少女の日々と迫る暗雲
6/7

鉛筆でぶっ倒される二人組

「あのーすいません、ちょっと道を聞きたいのですが……」


夏奈といのりが静葉と別れてからしばらく雨の降る道を歩いていると4、50代くらいの二人組の女性が道を尋ねてきた。


「ルージュっていうケーキ屋さんに行きたいのですが……」


彼女たちは食べ歩きが趣味なのか “グルメナビ” と書かれた本を持っていた。


「ルージュ?」


「あっ、そこなら……」


いのりは知らない様子だったが夏奈は知っていた。


「その本見せてください。地図くらい載ってますよね?」


「あー、それが……」


申し訳なさそうにルージュのページを開いた。しかし地図が載っているであろう場所はまるで何かにかじり取られたように無くなっていた。

「ウチの犬がかじっちゃって……」


「あらら、見事になくなっちゃてる」


なぜか感心するようにいのりが反応する。


「ああ、それじゃあ私が地図書いてあげましょうか?」


夏奈は鞄からいらない裏紙と鉛筆と下敷きを取り出した。


「いいんですか?」


「ええ、簡単なものですけど」


夏奈は微笑みながら言った。



「大丈夫なの? 夏奈?

いのりが夏奈に小声で聞いた。


「なにが?」


「あんた地図なんか書けるの? 能力のことがあるのに」


「あっ、いや……意識しなきゃなんとか多分……」


いのりのその質問に自信なさげに返す。


「あのーどうかなさいました?」


小声で話す二人を見て不思議そうに本を持っていない方の女性が声を上げる。


「あー、いえなんでも〜」


夏奈は適当にごまかした。


「落ち着いてね! 暴発すると危ないから……」


地図を書き始めた夏奈にいのりがくぎを刺す。


「ううっ、そう思うんなら意識させないで欲しかった……」


そう返し、書き続ける。暴発させてはいけない、そう思うと手が震えた。


「ふー、できたぁ」


なんとか暴発させずに書き終えることができた夏奈はほっと胸をなでおろす。


「えーと、この道をまっすぐ行ってもらって、そしたらコンビニがあると思うんですよ。そこを左に曲がったら見えると思いまーす」


「ありがとう。助かりました!」


女性たちは夏奈に礼を言い、去って行った。


「それにしてもあんなところにケーキ屋なんてあったんだ。知らなかった、アタシ」


「ついこの前できたばっかりのお店だからね。あっ、そうだ。テスト終わったら行ってみない? 入ったことはないから、私。」


「おっ、いいね。来れそうなら静葉も誘……」


「どけどけどけー!!」


ナイフを持った二人組の男がこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「な、なに!?」


夏奈といのりが呆気にとられていると、警察官3名がナイフを持った二人組を追いかけてきた。二人組は気にせず逃げようとしたが立ち止まる。別動の警察官2名が前からやってきたからだ。


「大人しく観念しろ! もう逃げられないぞ!」 警察官の一人が勝ち誇ったようにそう言った。


「く、くそ……、おいお前! こっち来い!!」


「へ……? あ、いや!!」


突然目の前で起きた状況に思考を停止させていた夏奈は、背の高い方の男に掴まれ強引に手繰り寄せられた。その勢いで左手に持っていた傘が空を舞い地面に落ちた。


「しまった!!」


「夏奈!!」


「おい、逃走用の車用意しろ……。さもないとこいつ殺すぞ!!!」


「きゃあぁぁ!?」


男たちはナイフを夏奈に向け叫ぶ。

いつの間にかなんだなんだと野次馬が周囲に集まり始めていた。


「ど、どうする? は、発砲するか?」


「だめだ! 人質に当たってしまうかもしれない」


「クソ……、どうすれば……」


警察官たちはこの状況への対応をなかなか決められない様子であった。


「とっと答えろ。ほんとに殺…………グホォ?」


男は突然脇腹を硬い棒のようなもので勢いよく突かれたような感覚を感じた。その衝撃は気を失うのに十分な強さだった。


「え?」


夏奈はなにが起きたのかよくわからない様子だった。その左手には1メートルほどの棒と化した鉛筆が握られている。


「アニキ!?大丈夫ですか? なんだいまの……? 鉛筆が如意棒みたいに伸びた……!…………クソォ!!」


弟分の男が半ばヤケクソで夏奈にナイフで切りかかった。


「わっ!!」


夏奈はそのナイフを反射的に鉛筆で受け止め、男の手から弾き飛ばした。


「いや!!」


そして必死の形相で相手の首筋をぶっ叩いた。すると男は首を押さえてしばらくふらついた後崩れるように倒れた。

その様子を見た夏奈はヘナヘナと力なくへたり込んだ。その後鉛筆にかかっていた能力を解くと左手に持っている鉛筆はみるみる縮んでいきもとの長さに戻った。


警察官たちは中学生程度の少女がナイフを持った男二人をぶちのめすというなかなかに衝撃的な光景を見て、数秒ぽかーんとしていたが……、


「か、確保―!」


その声を号令とし二人を逮捕しにかかった。




豆田夏奈の能力は文房具を通常ではあり得ない性質に変化させることだが、それだけでなく、能力で文房具を変化させている間は運動能力もまた大きく向上する。その気になれば、五階建てのビルから飛び降りても楽々着地できるくらいに。この一連の出来事は夏奈の能力の片鱗が飛び出したに過ぎないと言える。


……本人がそれを完全に自覚しているかは別として。


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