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文房具で強くなる少女の物語~ただし私は能力をうまくコントロールできません~  作者: 赤い本棚
プロローグ 文房具少女の日々と迫る暗雲
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生徒指導と数学のテスト

「はぁ〜、何が楽しくてテストの真っ最中に反省文なんて書かなきゃなんないのよ……」


夏奈は開いた教科書をぼんやり眺めながら生徒指導部室での事を思い出していた。





「遅い! もう30分だぞ!? 5分遅刻だ!」


夏奈は生徒指導部に来るなりこう叱責された。


「はぁ……すいません……」


夏奈は雨島守との出来事を言おうかと考えたが、廊下を走ったお前が悪い、と言われるのが目に見えている上、下手したら今より状況が悪くなると思ったのでやめた。


「ところで君これで何回目だ?」


「確か……7回目でしたっけ?」


「8回目だ! バカ!!」


「そ、そうでしたか。つ、次から気をつけますんで体操服返してください」


「どうやら、反省が足りないらしいな……」


そう言って生徒指導の先生は何やら紙を取り出した。


「君の体操服はこちらでもうしばらく預かる。この用紙いっぱいに反省文を書いてきなさい。明日の朝休みに提出すること。いいね?」


「このテストの真っ盛りに……?」


夏奈は勘弁してくださいと言わんばかりに教師を見た。


「嫌なら忘れないように気をつけろよ、バカ!!」


「はい……すいません……」


この上ない正論が帰ってきたため押し黙るしかなかった。



テスト直前の5分ほどの過ごし方は生徒によって様々である。最後の見直しとして定理を見直す者、勉強はしていないが最後の最後で無駄な抵抗をする者、もう完全に諦め友人と話す者……。しばらくすると女の先生が教室に紙の束を持って教室に入ってきた。すると皆自らの席に戻っていく。いささか賑やかだった教室が静かになった。


「それでは皆さん、教科書とかをしまってください。筆箱もダメですよ」


これから始まる科目は数学である。夏奈が最も苦手な科目で、一度足りとも能力を暴発させずに終わらせた事のない科目である。


(お願いだから簡単にして! 生沼先生!)


夏奈は祈るようテスト用紙を見た。


大問1、2は夏奈の学力でも問題なく解くことができた。しかし次の大問3が難しかった。

それは図を書く問題だったのだが……、


(これどこに点打ったらいいんだろう……?)


夏奈は図をどう書けばいいのかが分からなかった。ただでさえ早かった心音がさらに加速したのを感じた。


(わかんない、どうしよう!)


夏奈はイライラと消しゴムを手に取った。――するとその時、


パーン!!!


一瞬白い光を放ちながら消しゴムが爆発四散した。

その爆音を聞いたクラスの面々は一斉に夏奈の方を見た。背中から冷や汗が吹き出るのをはっきりと感じた。その爆音を聞いたクラスの面々は一斉に夏奈の方を見た。背中から冷や汗が吹き出るのをはっきりと感じた。幸いなのは机は少し剥げてしまったがテスト用紙は無事である事だ。


夏奈はとりあえず何もなかったかのようにテストの続きを解き始める。すると、そんな夏奈を見かねたのか監督の先生が席に近づいてきた。


「豆田さん、大丈夫? 保健室いく?」


先生が少し心配するかのように聞いてきた。


「だだだ、大丈夫ですよ。ハハハ……」


夏奈は引きつった笑顔で返す。精神的には大丈夫ではないがそれは数学のテストにおいてはいつものことなので引き続き頑張ることにした。

その後も鉛筆が突然、にゅんっ!と伸びたり、定規で指を切ったりしながらも、夏奈は50分をなんとか乗り越えたのであった。



テスト1日目が終わり、夏奈、いのり、静葉の三人は雨の降る帰り道をたどっていた。


「明日乗り切ったらアタシたちは、自由だー!!」


「いや……、はしゃぐの早いよ、いのちゃん……」


「いのり! 勝負のこと忘れてないでしょうね!?」


「へへーん、アタシ英語は自身あるよー、英語研究部の実力を思い知れ!」


いのりは英語研究部というだけあって英語はかなり得意だ。というより、ほぼ毎回満点である。英語限定で勝負すればかなに勝ち目はない。ただしその他の教科はからっきしだが。


「ふん、確かに英語では勝てないわよ? でも私には、理科がある! ヤマ張った偶然当たったからね。いつもの私と思ったら大間違いよ!」


「いい度胸ね。アタシの英語舐めんな」


「英語で勝てなくても総合力では私の勝ちよ!」


「何を〜」


「何よ!」


「ねえ、ところでいのちゃん……、数学は……?」

静葉は二人の言い争いに数学が出てこないことが気になった。


「察しろ」


いのりは苦い顔でその質問に答えた。


「そう……。夏奈ちゃんは……?……聞くまでもないか」


静葉は、夏奈の結果をまるでわかっているかのようだった。


「ム〜、シズ、あんたってやつは、せめて聞くくらいの気遣い出来ない? でもまあ、お察しの通り全然ダメでしたよ、ええ」


夏奈はやや不機嫌にそう言い返す。


ただしこのように言われるのも仕方のないことだという事も自覚していた。あのタイミングで消しゴムが破裂するのは、”私はこのテスト分かりません!”と言っているのと同義なのだから。要するに能力が暴発すると、夏奈の内心が丸バレになるわけだ。たとえそれが隠したい事であったとしても。


夏奈はそれが恥ずかしくて嫌なので、いつしか鉛筆や消しゴム、ボールペンなど能力の有効な文房具に触る事を避けるようになっていた。




三人がバカ話しつつ、歩いていると花が描かれた大きなゲートが見えてきた。そしてそのゲートの先には八百屋や魚屋など様々な店が並んでいて活気がある。大鈴商店街だ。


「じゃあ、二人とも……、また明日……」


静葉の家は大鈴商店街の方面にある。ここからは夏奈といのりとは別の道だ。


「バイバーイ」


「あっそうだ……。罰ゲーム、楽しみにしててね……。すごいの……考えてるから……」


そう言った静葉の表情はいつもと変わらぬジト目のポーカーフェイスだが、どことなく楽しそうだった。その様子を見た二人はビクッとなった。

罰ゲームを考える際、お互いいざ自分が被る場合を見越して生温いものにしてしまうのではという話になった。そういうわけで第三者に考えてもらう事になったのだが……。


「せめて、静葉じゃなくて別のやつに頼むべきだったね。アタシ無茶苦茶怖いんだけど……」


「うん……、こんなことなら私たちで考えりゃ良かった」


夏奈といのりは今になって当時の自分たちの判断を後悔するのだった。


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