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文房具で強くなる少女の物語~ただし私は能力をうまくコントロールできません~  作者: 赤い本棚
プロローグ 文房具少女の日々と迫る暗雲
4/7

廊下を走ってはいけないという教訓

タイトルを変更しました

「夏奈ちゃんおはよう……、あなたの机に紙が置いてあるんだけど……、何やらかしたの?」


夏奈が教室に入るなり、静葉が挨拶ついでに聞いてきた。とはいえ何かを察しているような表情だ。


「紙?」


全く身に覚えのない夏奈はその”呼び出し状”と書かれた紙を見てみた。


呼び出し状

2年2組 豆田夏奈さん

体操服を預かっています。8時25分までに取りに来なさい。

生徒指導部


「あーっ!!忘れてたー!!!」


ロッカーに置きっ放しだった体操服の存在を夏奈は思い出した。大鈴中学校……というより、大抵の中学校では、テストの日はロッカーと机の中は空にしなければならない。1回目なら少し注意されるくらいだろう。それが何回も続くと話は変わってくる。


ちなみに、夏奈はこれで8回目だ。


「今何分……」


時計を見ると、8時23分を指していた。


「ヤッバイ!!」


ドタバタと生徒指導部室に向かって行った夏奈をいつものようにジト目で見届けた静葉は、


「能力の件と並んでこれも恒例行事だけど、能力のことはともかくとしてよくもまあ同じ間違いを繰り返せるものね……。夏奈ちゃんには見直しという文化がないのかしら……」


そう思わずにはいられなかった。




「急げ、急げ!」

夏奈は廊下を走りながら生徒指導部室に向かっていた。


『廊下は走ってはいけない』そうよく言われるが夏奈はその理由をこの後すぐ痛感することになる。


ドカッ!


「痛っ!」


「イテッ!」


夏奈は廊下の曲がり角で誰かとぶつかり尻もちをついた。


「くそっ、廊下は走るなって小学校で習わなかったのかよ……!」


夏奈同様に尻もちをつきながら、ボヤく少年を夏奈は知っていた。


「ごめんなさい、雨島くん。」


雨島守(あめじままもる)、これが彼の名前だ。夏奈と同じクラスの生徒である。身だしなみにあまりこだわっていないのか、短めの髪ではあるが、ボサボサと癖のある跳ね方を直していない。もっとも夏奈としては顔と名前がかろうじて一致する程度でほとんど話したことはなかった。


「おい、二人とも大丈夫か?」


雨島の友人だろう坊主頭の生徒が激突した二人を気遣う。


「あー、怪我はしてない。……豆田、お前は能力だけじゃなく頭も悪いらしいな。廊下を走ってはいけない、そんな常識もないなんて! いっぺん死ねよ、お前……!」


「ごめん……」


(そんなに言うことないじゃない……)


夏奈は内心そう思ったが、自分が一方的に悪いの明白なので、敵意むき出しで怒る守に尻もちをついた状態のまま再度謝った。


「チッ!」


雨島は夏奈に聞こえるように舌打ちをし立ち去ろうとする。


夏奈は落ちている黒いペンケースの存在に気づいた。どうやらぶつかった時に落としたものらしい。


「あの、ちょっと!」


夏奈はそれを拾い上げ、雨島に渡そうと呼び止めた。


「……なんだよ?」


イライラとした様子で振り返った。


「これ……落としてたよ?」


そのペンケースを見た守の表情を見て夏奈は背中の毛がビクッと逆立つような感覚に襲われた。


「そんな手で……それに……! 触るなぁ!!!」


「へっ……?」


彼の迫力に気圧された夏奈の手から奪い返すかのようにペンケースをもぎ取り、早足で去っていった。


「おい!? 雨島!」


彼といた生徒もその態度に驚いたようであった。その後、夏奈の方を見て、


「すまない……、アイツ昔いろいろあって能力者があまり好きじゃないんだ……。キミには悪いことをした。アイツの友人として謝らせてほしい」


「はあ……」


半ば放心状態の夏奈は気の抜けた返事を返した。


「おい、ちょっと待てよ、雨島!」


そして彼は友人を追いかけて行った。


その背中を夏奈はただ呆然見ていた。



「よかった、どこも壊れてない」


雨島は、黒いペンケースから万年筆を取り出しつぶやいた。


「雨島……、今の態度、流石にないんじゃないか? いきなりぶつかってきたのはあの子とはいえ、すぐに謝ってたし、いつものキミなら許してただろう? それにお前が落としたものを拾ってくれたわけだし……」

坊主頭の少年、宮辻健一郎(みやつじけんいちろう)が先程のやりとりについて指摘した。


「でも、あいつは能力者だ!」


「いや、能力者ってだけだろ」


「俺からすりゃそれだけで十分だ! 俺の父さんは、能力者のせいで死んだんだぞ!」


「いやキミの気持ちもわからんでもないが……、キミの父さんを死なせたのは彼女じゃないんだぞ。君のやったことはただの八つ当たりだ!」


「俺はな、あいつ見てるとムカッ腹立つんだ。父さんがどうやって死んだか、実演されてるようで……」


雨島は左手の万年筆をぎゅっと握った。



4年前死んだ雨島守の父親である雨島勝は小学校の教師であった。優しくてよく遊んでくれる父が守は大好きだった。

勝が生前受け持ったクラスは、1年生のクラスで能力者の少年が一人いた。その子は『体から自在に溶解液を出すことができる』能力を持っていた。ただ彼は当時能力者になったばかりでまだ能力を上手く抑えることが出来なかった。

ある日、その少年が別のクラスメートと些細な事で取っ組み合いの喧嘩になった。勝は、その喧嘩を止めようとして割って入ったという。教師として当然の行動だろう。


そして悲劇は起きた。


割って入った勝は能力者の少年の手を押さえたという、その時少年の手から勢いよく溶解液が噴出され勝の左側頭部を直撃した。すぐに病院に運ばれたが、脳の半分近くが溶かされてしまっていたためもうすでに手遅れであった。

なおこの時少年は能力を使う気などなかったという。


当時小学生だった守は、病院で見た変わり果てた父の姿を強烈に記憶した。そして『

能力者が父を殺した』頭にそう刻みこまれた。

そんな守は普段より能力を暴発させる豆田夏奈に父を死なせた少年の姿を重ね、毛嫌いしていたのだった。


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