姉妹喧嘩
ピピピ、ピピピ……
「ファァ……ん、」
夏奈は目覚まし時計の音に反応し、欠伸をしながら体を伸ばした。
「結局1時間くらいしか寝れなかった……」
昨夜、残りの問題集と翌日のテスト範囲の見直しを粗方やり終わった時に時計を見ると朝5時を回っていた。それでも夏奈は寝不足でだるい体に鞭を打ち、学校へ行く支度を始めた。
「お、夏奈おはようさん」
そう言ってリビングに入ってきた夏奈を迎えるロングヘアの女性は姉の豆田一歩である。用意したのか、机にはトーストとミルクが並んでおり歳三がもう食べ始めていた。
「ん、おはよ。お姉ちゃん」
夏奈はすでに制服に着替えていたがまだまだ眠たげな返事を返した。
「なんか眠そうね、今日数学らしいけど、大丈夫? 昨日みたいに能力暴発させたりしない?」
「……なんでお姉ちゃん昨日のこと知ってるの!?」
「あー、エーと、そのっ!、昨日なまはげ先生に会ってさ、それで教えてもらったの……」
一歩はあからさまに機嫌が悪くなった夏奈を見てしまったという顔になった。
「っ……、生沼先生が!? なんて……?」
一歩の言うなまはげ先生とは現在夏奈のクラスの数学を担当している生沼英俊のことだ。
「うん……。数学もっと勉強しろって……。それと能力をもう少しなんとかしろって……」
「あっそ!!」
夏奈がイライラと返す。
「でもさ、いい加減コントロールできるようにならなきゃダメだよ? それに、あたし思うんだけど、夏奈ちょっと考えすぎてるんじゃない?」
「考えすぎ?」
「うん、例えばさ、もしこれをやってる間に暴発したらどうしようとかさ。あたしの場合は能力のことは深く考えずにいつも行動してるな」
「……私はお姉ちゃんとは違うの。お姉ちゃんみたいにうまくできないの! 頑張ってもできないの!! どうせわかんないだから何も言わないで!!」
夏奈はどうにもならないイライラを困り果てた顔をしている一歩に叩きつけた。
「……じゃあこういうのはどう? あたしがどうしても緊張して仕方ないときにやってるおまじないなんだけど……、」
一歩は席を立ち、それをやってみせる。
「こう…大きく息を吸って〜、こう胸を軽くポンと叩いて……大丈夫っ!って心の中で唱えるの。そうしたら気持ちが落ち着いて〜……」
「そんなおまじない効いたらこんな悩んでないよ!」
夏奈は立ち上がりカバンを手にとった。
「もう時間ないから行ってくる!!」
「ちょっと夏奈!」
静止する一歩を振り切り夏奈は外へ飛び出した。
「ああっ、もう最悪……!」
夏奈は雨の降る学校への道を歩きながら今朝の姉妹ゲンカのことを考えていた。冷静に考えるほど、自分の一方的な逆ギレであるとはっきり分かることが腹立たしかった。
一歩も夏奈同様『文房具とともに変化し強化される能力』を持っている。
しかし夏奈は姉が自分のように能力を暴発させているところを見たことがなかった。それどころか、能力を使っていたずらしたり、文化祭の出し物にしたりと能力を良くも悪くも上手く活用していた。特に手の器用な友人と手を組み能力を通した消しゴムが破裂するようになるという性質を利用して花火を作ったこともある。
そんな姉を見ると夏奈は何故自分はこんなに能力をコントロール出来ないのか、そればかり考えてしまう。そして自分と姉の違いを意識し、ムカッ腹が立つのである。
今朝のケンカだってそうだ。姉はきっと良かれと思ってあのようなことを違いないことは分かっていた。しかし、それでも、姉に自分の気持ちなど分かるわけがない、もしかして自分を見下しているのではないかとどうしても考えてしまうのであった。