とある日の授業風景
初投稿です。お手柔らかにお願いします。
「はいっ、号令かけて。」
数学教師である生沼英俊はいつものように教壇に立つ。
「起立、気をつけ。礼。」
4時間目で空腹だからか、やややる気なさげに日直が言うと、教室の生徒たちがそれに従った。
「着席。それでは今日は昨日の続きから……」
生沼は黒板に数式を書き、授業を始めた。2学期の中間テストの前日であり、まだ範囲が終わっていないためいつもよりテキパキと進めていく。
ここは大鈴中学校2年2組の教室。なんてことの無い港町にあるただの公立中学の一クラスだ。退屈なほどありふれたものである。
生沼が授業を進めつつ、ふと生徒の方を見ると、もう何人かの生徒が机に体を突っ伏し後頭部をあらわにしていた。やはりというべきかそれらの生徒は成績下位常連だ。今の時期にこれでは救いようが無いと思いながら、生沼はそのまま授業を進める。これも学校でよく見られる光景だ。
「ここまでで何か質問のあるものは挙手しなさい」
生沼は新しい定理の説明を終え生徒たちに質問を促す。しかし、手を挙げるものはいなかった。これもまたありふれた光景。
「よし、じゃあ時間をとるからここの3番の問題を解きなさい」
生沼は、しばらく生徒たちがそれを解くのを見守りつつ、おもむろにカードの束を取り出しそれを混ぜ始めた。このカードには、生徒たちの名前が書かれており、当たったものには前に来て解いてもらおうというわけだ。
(もうそろそろ頃合いかな)
そう思った生沼は、
「え〜それじゃあこの問題を〜」
そう言いながらカードを1枚めくった。生沼は、そのカードに書かれた豆田夏奈という名前を見て少しばかり苦い顔になったのが自分でもわかった。
「じゃあ……豆田さん……」
「は、はい!」
ロングヘアを白いシュシュで後ろにまとめた少女が返事をした。その風貌は、地味ではあるが、かわいらしくもある。。彼女は少しオドオドとしながら黒板に近づいて行く。
そんな彼女にチョークを渡し、生沼は心の中でこう祈った。
(頼むからチョークをもうこれ以上燃やさないでくれ……)
夏奈は黒板に対面し、恐る恐る数式を書き始めた。7文字ほど書いたところでチョークに異変が起きた。
ボゥッ!!
夏奈の左手にあったチョークは、突然燃え上がり、そして燃え尽きた。
「あっ ! えっと……すいません……替えのチョークを……」
夏奈は、またやってしまったという表情で生沼を見た。
「はあっ……」 生沼は、ため息をついた。そして少しイライラとした様子で、新しいチョークを渡した。
「燃えちゃったもんは仕方ない……。続けて」
「はい……、すいません……」
夏奈はまた続きを悩みつつも書き始めた。
この光景は普通の中学校ではまず見られないものだっただろう。……20年ほど前までは。
20年程前、6歳になった一部の子供たちが次々に妙な能力に目覚めるという事態が世界中で起きた。そこから毎年、6歳になった子供の中から能力に目覚める者たちが現れていった。その原因は今も不明である。
この豆田夏奈もまたそのようにして生まれた能力者の一人なのだ。
――――その能力は、『文房具とともに変化し強化される能力』。彼女が手に触れた文房具は、先程のチョークのように通常では考えられないさまざまな性質を持つようになり、能力を発動している間は運動能力が飛躍的に上がる……
これが彼女の能力である。ただし夏奈は能力のコントロールが極端に下手であった。どうやら驚いたり、緊張したりすると暴発してしまうようなのだ。特に苦手な数学においてその影響が顕著でありテストのたびにに消しゴムが大きな音をたてて破裂するのがもはや風物詩になっている。
通常の能力者なら失敗を積み重ねながらも、10歳までにはほぼ完全にコントロールできるという。もし感情による多少の影響を受けたとしても、夏奈のように唐突暴発する例は世界的に見ても極めてまれであるという。
夏奈には同様の能力を持つ姉が居り、生沼が担当していた。そして夏奈のコントロールの下手さは素人目で見比べても明らかだった。もっとも姉は姉で別の意味で問題児だったので記憶に深く残っているが。
「解き終わりました」
夏奈は、ようやく問題を解き終え、やりきったといった感じだ。しかし生沼は、その回答が明らかに間違えている事に内心頭を抱えていた。
「残念、不正解。」
「えっ!?」
「この時期にこれでは困るぞ。どこが違うかわかるか?」
「え、えーと……」
再び彼女が問題を見て悩み始めたそのとき……
ボゥッ!!
右手に持っていたチョークがまた燃え上がった。
「あっ! え、えっとホントすいません、本ッ当にごめんなさい!!」
夏奈の顔はもはや真っ赤になっていた。
「もういい……、席に戻りなさい。」
「はい……すみません……」
夏奈はトボトボと席に戻った。
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