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女王生誕祭2

**



『アレクセーリナ・タウリーズへ七つの質問』

(レオナ・ターンブルと三人の友人たちによる)




1.彼を異性として意識し始めたのはいつ?


「気がついたらそういう気持ちになってたから、出会って何か月か経った頃かなあ」

「もっと具体的に!」

「ええっ!?

 うーん……今から思うとかなり前から意識してたと思うから、実は出会って三か月以内くらいからなのかなあ。ごめん、もう覚えてないよー」


 病気で臥せっていたことや、今も治療を続けていることは、今日は言わないことにした。

 この楽しい場でみんなに心配をかけたくなかったし、今は他に心配しないといけないことが多すぎて、自分の中で病気のことがあまり心を占めていないせいもあった。

 病気の面から考えると、気にしないでいられるのはいいことなのかもしれない。


 ていうかね、ずっとこの調子で尋問されるの? 勘弁してよ……




2.彼と仲良くなり始めたのはいつ? どんなことがきっかけ?


「去年の『世界会議』でかな。ほんとものすごい規模の会議でね、各国の首脳が」

「あ、恋愛に関係ない話は、一切いらないから」


 私が『世界会議』のことをちょっと話そうとしたら、すぐさまレオナが止めに入った。


「そうそう、どうせ聞いてもわかんないしねー」


 サーシャがお気楽な口調で後に続いた。


 あんたたち、恋愛話以外は本当に興味ないのね。

 もうちょっと政治的なことにも興味持ってくれると、国家元首としてはありがたいんだけど。




3.その『世界会議』でどんなステキアクシデントが?


「それは、国家機密に関わることもあるからノーコメ」

「だから、そういう難しい話はいらないし。

 要は一緒にダンスを踊ったとか、手をつないだとか、まさかとは思うけど抱きしめられたとか、そういうことだけ言ってくれればいいのよ……って、まさかこれ全部あったの? まだ付き合ってもない時点でどういうこと!?」


 もうやだ、早くお家に帰りたい……




4.ということは、そのもろもろのステキアクシデントの後で告白?


「このときはまだ何も言ってないし、言われてもないよ」

「えーーー!?」


 四人全員から非難の声が飛んだ。


「なんでそんだけいろいろあって、つきあう話になんないのよ!」

「だって、警備員さんが来たんだもの。ていうか、いっぺんに全部されたわけじゃないからね」

「あんたたち、どんだけいちゃつくチャンスがあったのよ。『世界会議』ってそんな浮かれた会議なの?」

「まじめな会議だってば!」

「でも、アレクがそんな軽い男にほだされるなんて、意外だったわ」


 軽い男ってなによ。それは経験豊富でいらっしゃるらしいけど、ひどい、ひどすぎる……


「あんたたちも、あのときの私の状況になったら、絶対同じ運命をたどるんだから……」


 当時を振り返ると、こうとしか答えられないんだけど、


「私なら、そういう雰囲気の場所にはお付き合いする前になんて行かないし、いやらしいことさせる隙も与えないね」


 とカミラ。


「そうよね、そもそも行為が先なんておかしいわ」


 これはチェーリア。


「私、あの人と二人きりになるなんてありえない、怖すぎるー」


 サーシャのご主人はザバイカリエを五倍くらい温厚にした人なので、無理もないけど。


「あんたをそんないけない道に引きずり込むなんて、彼、結構な遊び人ね」


 否定できないのが辛いレオナのつっこみがとどめを刺した。


「た、確かに遊んではいた……らしいけど、いい加減な人じゃないんだから!

 それと『世界会議』はほんとまじめな会議なんだから、誤解しないでよね!」




5.結局なんだかんだでつきあうことになったらしいけど、告白はいつ、どっちからしたの?


「少し前に、私からした……ことになるのかな」

「ええええええーーー!?」


 これまた全員から悲鳴があがった。

 私が事の次第を説明すると、


「なにそれ、男ならびしっと自分から言えっての! 皇子さまのくせに意外と肝っ玉小さいんだねえ!」


 カミラがご意見番のおばちゃんみたいなコメントを出した。


「でも、キスは向こうからしてきたのよね。口下手なのかしら、それともて・れ・や・さ・ん?」


 チェーリアのにやけた顔が、私の気持ちを余計に滅入らせる。


「それでもやだー、女に告白させるなんて信じられなーい!」


 西の森でロマンチックな告白をされたサーシャには、自分から告白なんて、とんでもないことなんだろう。


「なに女心を弄んでんのよ……『言葉が欲しかった』だあ? ふざけるにも程があるわ。

 今付き合ってなかったら、為替相場こっそり混乱させて、宰相の責任問題にするところよ。感謝するのね」


 レオナ、あんた本当に為替相場操作しかねないから、真剣にやめて……




6.この前の土日が初デートだったそうだけど、両思いになってからずいぶん間が空いたわね、どうして?


「それは……つまりまとめると、大小いくつかのけんかをして」

「どんなけんか?」


 (金色の雪を見たあたりから、デートのお約束をするまでのことを、『バルサックの悪夢』とかの秘密事項を抜いてご説明しました)


「それは彼がちょっとかわいそうかも。

 その……ご飯食べてた部屋を暗くしたとき? そのとき最後までいっちゃってれば、ややこしいことにならなかったのにー。ねえ?」


 はいそうです、私が浅はかでした。

 奴はそんなことぐらいでどうということはない、と言ってましたが、確かに私が悪かったんです。


「あんた鈍感だからね、気をつけなよ。他にも男を生殺しにするようなこと、してないだろうね?」


 ……恐らくしてると思います。


「彼も辛い体験をしたのね。だから、女とは遊びだけでやり過ごしてきたのかもね」


 『バルサックの悪夢』で彼が受けた傷のことは、具体的にどんな事件があったとは言わないようにして少しだけ話した。私もそういう面はあるかもしれないと思ってる。


「今頃、彼もあんたと同じくらい寂しがってるわよ、きっと。帰ってきたら、思いっきり抱きしめて癒してあげるのよ!」


 はい、頑張ります……白の上下、今日も身につけてますから。




7.土日の初デート、どんなところに行ったの? そして肝心の成果は?


「屋台でお昼ご飯買って、西の森の別荘みたいなとこで食べて、その後そこの池でスケートして、夜ご飯食べて、日曜日にワカサギ釣りして、釣りたて揚げたてのワカサギ食べて帰ったよ」

「なんかあんたたち、食べてばっかりだね」

「ワカサギ私も食べたい! 今度パパと子どもたちと行こうかなー」

「ちょっとちょっとアレク、肝心のとこが抜けてるって」


 は?


「はっきり言いなさい、夕食の後から次の日の朝まで、何してたの」


 チェーリアとレオナの目が異様にぎらぎらしている。

 それに気づいたカミラとサーシャもこちらへ身を乗り出した。


「さんざん食べて体力つけた後はやっぱり……そうだよねえ」

「いよいよ本番ってことね! でもその前にお風呂よー。

 ねえねえ一緒にお風呂入ったのー? 洗いっことかしたー?」


 私、今日は聞き役と食べ役に徹するはずだったのに。


 これ以上みんなの台詞を載せると、この話のなけなしの品性が完全になくなってしまうから、『マロ食』女子会のことはこのへんで終わっておくわね。

 恋人ができた後友人に会うときには、覚悟を決めて会うことね。




 こうして、洗いざらい(ほぼ)全てを暴露させられた私は、精魂尽き果てて帰路に着いた。

 身ぐるみ剥がされた気分だったけど、心は晴れやかだった。

 久しぶりにほとんど気を遣うことなく友人たちと話せたことが、驚くほど気分転換になったみたいだった。


 それはそうかもしれない……いつもいつも、おじさまたちに囲まれて、政治経済その他難しいこと漬け色気ゼロの生活を送っている私に、今日の女子会は最高の誕生日プレゼントに違いなかった。


 王宮に入ったところで護衛の憲兵たちと別れ、自室に向かっていると、あまり会いたくない人の姿が遠くに見えてきた。


 こちらに気づかないでいてほしいな、と思いながら歩いていたのだけど、その人物は突如私の方に顔を向けると、怖いくらい愛想よく近づいてきた。


「ごきげんよう! アレ……クセーリナ女王」


 その人物は、恐らくいつものように私を呼ぼうとしたんだろうけど、ご機嫌がよろしいせいか、ご丁寧に『女王』をつけてくださったみたいだった。

 (それでもまだ十分失礼なんだけど、この人にはもう期待してない)


「こんにちは、ピアスカ司法官」


 私は祝日……しかも自分の誕生日にまでこの人に関わりあいたくないので、当たり障りのない挨拶をしてやり過ごしたかった。

 だけど、今日のキアラさんはなぜか私に絡む気まんまんだった。

 そうねこの王宮は本当に疲れるわ、と吐き捨てると、美しい顔を私に近づけて小声でこうのたまった。


「あなた、もう兄上の心配はしなくて結構よ」

「は……?」


 という以外に、私になんて言えっていうんだろう。


 あんた、兄上ことユートレクトが、どうして突然『長期出張』に出なきゃなんなくなったのか、わかってて言ってんの!?

 と、どなり返したいのを我慢しつつ、この黒イカ姉さんにどう返事してやろうかと、懸命に頭を回した。

 (ごめんなさいね、今日は女子会してきたせいもあって、言葉遣いと感情をセーブできそうにないわ。心の中だけに留めておくから許してね)


 だけど、本日の黒イカ令嬢はいつもに増してごきげんだった。私が言葉を返す前に、


「これからは私が兄上のお世話をするから」


 誇らしげに言うと、頭と胸を反らせて黒イカ帽子を揺らした。


「……そうですか」


 他にもいくつかお返事の選択肢はあったのだけど、長くなるので一番無難と思われる返答にしておいた。


 ユートレクトには申し訳ないけど、今日はこの人と長々会話してたら、どんな暴言を吐いてしまうか自信がない。

 なるべく早く会話を終わらせて、部屋でゆっくりしたい。

 キアラさんが何のつもりでこんなこと言ってるのかわからないけど……少し考えてみたところで、ある仮定が浮かび上がった。


 キアラさんは『世界機構』の穏健派の密命を受けている。

 もしかして、ユートレクトを連れていったのは、敵対する武闘派じゃなくて穏健派の仕業なの?

 だから、キアラさんもユートレクトの所在を知ってるってこと?


 だとしたら、どうして穏健派はユートレクトを連れていったんだろう、と思ったところで、


「あなたがマカロニ頭で本当によかったわ!

 もし兄上があなたと結婚してしまっていたら、いくら私でも破断させることは無理ですもの。オーホッホッホッホ! ではごきげんよう」


 キアラさんは相変わらずコオロギのような声で高笑いすると、颯爽と去っていった。


 ……よかった、思ったより早く解放された。


 ない胸を撫で下ろしながら黒イカ姉さんの後ろ姿を見送ると、再び自分の私室へ足を向けた。


 私室に着くと呼鈴で侍女を呼んだ。

 いつもの時刻に夕食を出してくれるよう頼むと、少し早いけどお湯を浴びることにした。


 脱衣場で服を脱ぎつつ改めてゆっくり考える。


 キアラさんの言ってたことが本当なら……つまり、キアラさんがユートレクトの面倒を見るのなら。


 ユートレクトの身の安全は保証されるから、その点では安心できる。

 彼が『世界機構』の本部諮問機関代表理事(久々に思い出したけど相変わらず長い役職名ね)という役職に就かされるんじゃないかという、別の問題は残るけど。


 でも、それなら穏健派も、事前に連絡も入れずに迎えに来るかしら? あんな悪人を取り囲むような形で。

 (実際には見てないから、本当に取り囲んでたかどうかはわからないけど)

 ユートレクトが(面倒だからやっぱり前略)代表理事とかいう職を嫌がっているから、彼には知らせずに来て武器で脅して連れていった、とも考えられるけど……


 本当に一体どうなってるのかしら。私の力だけではわからないことが多すぎる。

 だけど、疑念と不安だけをいたずらに膨らませちゃいけない。こんなときだからこそ、冷静でいなくちゃ。


 それにしても。


 『もし兄上があなたと結婚して』って、よく簡単に口にしてくれたもんだわ。こっちはさんざん考えて考えて、考え抜いて結論を出したのに。


 このとき、何かが私の中でひっかかったのだけど、その正体には触れることができなかった。

 数日後、それが私を容赦なく襲うことにも。

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