瞻望
あゝよるの空はくろく輝いてゐる。じつに感傷に浸る宵である。
寂しく鳴く秋の虫の音がふいに止んだ。
ふと僕は筆を執り、筆はかたりと音をたてた。しずかな宵に僕の微かなものを書く音が響いてゐる。
詩を書きつけた便箋が、僕の拙き筆致のあとに乾いてのこるばかり。
瞻望
緑鳩の音 高く響く夜
絶境にて 月を瞻望す
軒端に 揺る灯篭の
光さへ 果無げに見ゆ
緑鳩の音 止みし後には
静けくも 月は吾を照らし
吾は事を 悟り明かす
あゝ 世は吾を棄つ
閉づる絶境にて
吾は月を瞻望す