彼の事情と終わりゆく世界
昔話をしよう。
昔々あるところに馬並天馬と言う少年、てか俺がいた。まぁ昔々と言っても今から5年しか昔の事ではないんだが……。
当時の俺は活発で友達が多く、運動も勉強もでき、バレンタインデーには女子からチョコをランドセル一杯に貰うのが当たり前と言うまるで聖守君の様な人気者少年だった。
清純との寂しいヲタ色ハイスクールライフを送っている今の俺を見たら信じられないかもしれないが、事実なのだから仕方ない。少しも話を盛っていない事は当時同じクラスだった花畑が証明してくれる筈だ。
まぁその時の事は花畑にしてみればいい思い出では無い為進んで語ったりはしないだろう。
何故なら花畑はイジメられていたからだ。
花畑乙葉は今でこそ明るく元気でコミュ力の高い派手な美少女だが、昔のあいつは今と正反対な静かで暗くずっと一人でいる様な奴だった。そのくせよく見ると可愛い顔をしていたり、小さい頃から今の我儘バディーの片鱗が感じ取れる胸をしていたりと、小学生男子にからかわれる要素を多分に含んでいた。
だから5年前のあの日も花畑はイジメれていたっけな。
7月7日。高校生と違い小学生には期末テストなんて憂鬱なモノは無く、俺にしてみれば単純に夏休みを目前に控えた七夕と言う何ともハッピーな日だった。とりわけ小学六年生である俺は小学生最後の夏だった事もありかなり気分が高揚していたのを覚えている。
俺は帰りのHRが終わると同時にいつもの様に沢山の友達に声を掛けサッカーの予定を入れている中、ふと教室の掃除をしている花畑を見た。花畑は同じ掃除グループの男子3人にいつもの通り牛だのおっぱいお化けだのと言われながらも、下を向いてそれに耐え一人で黙々と箒で床を掃いていた。顔はよく見えなかったが俺には花畑が泣いている様に見えた。
だがスーパー人気者な俺はそんなイジメっ子とも普通に仲が良く、普段からその行動に対し何かを言う事はない、むしろたまに一緒になって花畑をからかう時もあったくらいだ。
俺もそのイジメっ子も花畑が嫌いとかではなく、一緒に遊んでいる感覚だったのだろう。もしかしたら好きだからイジメていたなんて事もありえたかもしれない。
まぁそんな感じでいつもならそんな事は放っておいて遊びに行くか混ざるかするのだが、その日の俺は下を向いて震える花畑を見てイジメっ子のやっている事がすごく胸糞悪い事に思えた。
夏の暑さのせいか若さのせいなのか、モラルや変な正義感みたいなモノに目覚めちまった俺はそれを見過ごせなくて少し怒気を含んだ声で声をかける。
「おい! お前らそのへんで! やめっ⁉」
しかしそれと同時にいつもは口だけのイジメっ子達が在ろう事か花畑のスカートをめくり、花畑の下着を教室の真ん中で露わにさせた。
花畑はきゃ! と言う小さく可愛い悲鳴をあげると、顔を真っ赤にして床に座り込んでしまう。
ブチッ! そんな花畑を横目に何かがキレる音が聞こえた俺は更に怒りを増して、ゲラゲラと笑うイジメっ子達に詰め寄った。
だが。
「「「……なんだ……それ?」」」
目の前のイジメっ子達は俺を見るやいなや笑うのをやめ、顔を引きつらせそんな事を言う。
ん? 俺はまだ何もしてないんだが? おかしいなと思っていると、更におかしい事に気が付く。さっきまでガヤガヤと賑やかだった教室はシーンと静まり返り、男子は驚愕を、女子は羞恥をそれぞれ顔に浮かべながらが時を止めたように固まっている。
「は? 何を言って……って何じゃこりゃあああああ⁉」
その理由の正体は半ズボンごとパンツをぶち破って激しく自己主張をしているギンギンになった巨大な俺の股間だった。
ブチッってズボンが切れる音だったのかよ! なんてセルフツッコミをいれる余裕は当時の初勃起をかました俺にはなく滅茶苦茶テンパったのを覚えている。
何せ他の男子と比べデカすぎると思っていたソレが、いきなり更にデカくなって丸出しになっちまってるんだからな。それはまるで俺のドリルは天を突くドリルだ! と言わんばかりに雄々しく反り起っており、見る者に感動とかトラウマとかを与えるレベルである。
そこから先はあまり覚えていないが、俺はパニクッた頭で何とか花畑を助けようと思い滅茶苦茶な事を言ったらしく、そしてその思惑は見事すぎるくらいに成功してしまい、次の日から花畑に向けられていたイジメは全て俺に向いた。イジメの規模を学年規模まで爆上げするおまけつきで。
まぁ規模は学年規模になったとは言えされた事と言えばシカトや悪口や物隠し等をメインとした陰険なのが多く、怪我をするような事はなかったのだが、100人を超える生徒達から出会い頭に「うわ~デカチンだ~キモッ!」と卒業まで言われ続ける日々はかなりきついものがあった。
唯一の救いはイジメられなくなった花畑が卒業する頃には一番の人気者になっていたくらいだろうか。
花畑は翌日両親と泣きながら家に来て感謝をしまくっていたのだが、俺は折角助けた(?)相手が俺と関わって水の泡になるのが嫌だったので「感謝するくらいなら最強の人気者にでもなってから感謝してくれ」と何とも生意気な事を言って追い返した。そこから花畑は覚醒したのだがそんな事はどうでもいいか。
兎にも角にもそんな自業自得で暗い小学六年生時代を過ごした俺は、親に無理を言って中学を地元から離れた東京に決め一人暮らしを始めた。
そしてそんな心機一転迎えた新しい学園生活を俺はもう二度と外で暴発しな為に『極力女子と関わらない』を信条に送る事にし、結果的に今の女っ気どころか友達すらろくにいない周りから根暗だ陰キャラだと言われる現状となったというわけだ。
しかし俺はそれに満足している。何故ならあの苦痛の八ヵ月に比べれば天国なのだから。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
さてかなり長くなったが何故今そんな俺の黒歴史を語ったかというと。
「……あの……天馬くん? ……ソレは一体……」
「ははははっ残念それは私のおいなりさんだ!」
5年前のあの日と少し似た状況になっているからである……
オーディエンスがアイス一人と言う点では昔よりかなりマシだが、逆にこれからパートナー的ポジションになるであろう勇者のアイスにいきなりコレを見られたのはかなりまずい。
何せアイスはその白い顔を真っ青にしドン引きしちまっていやがるんだからな。
だが俺もあの時とは違う。呆れる量のアニメや漫画やラノベを読み漁ってきたんだ。こういうケースも想定済み。テンパり具合も昔よりマシだし、見せてやるよ俺の本気を!
「おいなり? そっそれよりそれ……男性のその……何でそんなにしているのあなたは! まっまさかいやらしい事を考えているとかではないわよね⁉」
「おいおいそれは悲しい誤解だぜ元勇者アイスよ」
「えっ? どういう事なの?」
「異世界から召喚された勇者である俺がそんないやらしい男だとでも? 信じられないかもしれないが俺のコレは聖剣でな。お前の勇者としての力に反応してこんな事になっているのさ」
「なっ⁉ まさかソレが聖剣ですって? 冗談も休み休み」
「本当だ。なんなら見てみるか?」
「⁉⁉⁉」
俺が辿り着いた心理『OTITUKI』だ。落ち着いて極めて冷静に開き直る。
ラッキースケベやハプニングに直面した主人公にはこれが足りない。ワタワタと慌てて弁明するからぶっ飛ばされるのだ。完全に開き直り場を支配しちまえばそんな事になる事はないんだ。
その証拠に見てみろ、暴力系ではないにしろクール系っぽいアイスが完全に毒気を抜かれ顔を赤くする事しか出来ていない。
完全に場を呑んだ! このまま押し切るぜ!
「どうした元勇者、これが欲しかったんだろ? ほら見せてやろうか? いやそれだけじゃ足りないな、触って確かめていいぜ?」
「さっ触るですって⁉ この私にあなたの……男性のその汚らわしいソレを触れと言うの⁉ 冗談じゃないわ論外よ!」
「そうか。じゃあ残念ながら聖剣はお前には貸せないな」
「そっそんな⁉ くっ……卑怯者……何て下劣な男なの……」
「はっはっは。悔しければ触ってみろよ元勇者」
「くっ……私はこんなところで負けるわけには……負けるわけには……」
あれ? やっべ悪ノリしすぎたか? アイスがすんごい目で睨んでんだけど? 完全に卑怯が売りの四天王に罠にはめられた勇者の眼をしてるぞ。やばいかなりそそる……ごほんごほん! これはこれで好物なんだが、こういうのは妄想の中というかベットの中でするものであって今する事じゃないな。
ていうかこいつに使ってもらわないと聖守君とのBLルートになっちまうわけだし。
俺はその白い顔をどんどん赤くし、エメラルドの瞳を潤ませながら睨みつけるアイスに色々と興奮しながらも話を変えようと切り出す。
「と言うのは冗談だ。話をしようぜ? まぁ今日はもう遅いから明日にでも……」
「分かったわ……あなたの言う通り触ればいいのでしょう……」
「そうそうって……はぁ⁉ 今何て?」
「二度も言わせないでちょうだい……あなたのソレに……奉仕をすると言ったのよ……」
何でだあああああああ! いやいやちょっと待ってくれ! 確かにそんなノリの事言ったよ? 言ったけどおかしくないか⁉ 何で触って確かめるが、ご奉仕にランクアップしてんの⁉ 何で悔しそうな顔をしながら俺の股間の近くにしゃがみ込んでの⁉
「聞こえなかったのか? さっきまでのは冗談だ。聖剣は貸す! 貸すから今日のところは」
「私はどうしても聖剣を……こんな事あの時に比べれば……我慢できる……」
「ちょおおおおお! 話を聞いてくれえええ! 目がヤバいって! そんなお前こんなんマジで俺もヤバくなっちゃうから! また突き破っちゃうからあああ!」
変なスイッチが入ってしまったらしいアイスは聞く耳を持たず、ブツブツと呟きながら俺の股間にゆっくりと手を伸ばす。
場を呑んでいたはずの俺はこの異常な急展開について行けず、その場から逃げ出すことも出来ず只々ツッコミを入れながら流される事しか出来ないでいた。
あの事件以降、万が一に備えてかなり股下に余裕のあるズボンを履いているのだが、その付け焼刃の対策も過去最大に興奮し膨張する俺の聖剣の前では臨界寸前らしく、小さくブチブチと嫌な音を立てている。
「……あんまり騒がないでくれないかしら? 私だって……恥ずかしいのだから……」
「じゃあやめようぜ⁉ いや本当にマジで自分を大事にしよ? な?」
「あっ……あなたが言ったのでしょう? ちょっとあんまり動かないで、手元が狂ってしまっ」
ぴと。
ベリベリブチィィィィン!
「エクスプロォォォォジョン!」
アイスの冷たくそれでいて柔らかい手の温度と感触は、俺の聖剣を別の意味で完全に覚醒させ、そのパンパンに張ったデカすぎるテントをぶっ壊した。
そして。
「それでね、天馬ってばその大会でダンクとかしちゃって優勝しちゃったの! マジ凄くない?」
「あははは。乙葉は本当に馬並君の話ばっかりだよね」
「てかそれ何度目だよって感じだし。てかマジなん乙葉? あの陰キャラにそんな事出来ると思えないんですけど~?」
「本当だよ! あいつ小学校の頃はマジで凄かったんだから! てかあれ? 天馬? 」
「「「「…………」」」」
全ての時が完全に停止した。異世界なんだし時を止めるスキルが合っても不思議ではないが、これはそういう類の物ではない。
悪魔的なタイミングで居合わせた花畑とそのグループの女子達は異世界に来た時並みの衝撃を感じている事だろう。
なんせ女っ気の全くない陰キャラで、しかも先程のスキル鑑定イベントで史上最低の無能勇者認定された奴が下半身を丸出しにして、白髪のとんでもない美少女を涙目にさせながら、眩い黄金の光を放つとんでもないデカさのナニを触らせているんだから……。
「「「「きゃあああああああ!」」」」
至極真っ当な予定調和の女子達の悲鳴を聞きながら、俺は『OTITUKI』を発動させながら静かに呟いた。
「おわった……」