美少女勇者は好きですか?
聖剣アルファブレードことアルとの出会い?イベントを終え、色々と疲れた俺は休む為に宴の途中ではあるが一足先に割り振られた王宮の部屋へ向かっていた。
「あ~疲れた~……何かもう一刻も早く寝てぇ~……」
念願の異世界転移物の主人公かと思ったら股間が聖剣になっただけで全然違ったり、その聖剣が俺に使えないと思えば実は女の子に使ってもらえるかもしれなかったりと、テンションの上がり下がりが『どど〇ぱ』や『え〇じゃないか』なんて目じゃないレベルのジェットコースターデイな異世界初日を過ごしたのだ。今から宴の席に戻ってあの肩身の狭い思い食事をしろだなんて事は流石の神様も言わないだろう。
今日のところは自室に帰って、同室の清純と夜通し繰り広げるであろうオルタナ攻略計画に花を咲かせながら粛々と寝るとしよう。
「にしてもな~……聞きたい事はまだまだあったってのに……」
俺はボヤキながら股間の聖剣アルに視線を落とす。
どうやらアルは封印の影響であまりきやすく会話をする事が出来ないらしく普段は大人しくするしかない様だ。俺としてもあいつと喋ると必要以上に疲れるからまったく問題ないのだが、抜いた後俺はどうなるのかとか、抜く事の出来る女勇者はそもそもどこにいるんだ等、重要な情報は聞けないままダンマリなのは結構問題だ。
「女勇者か~。絶対可愛いだろうな~。そんな子に俺は……はっ? いかんいかん、聖守君とチェンジ聖守君とチェンジ……ふぅ、危ない危ない。こんな状態でカッチカッチになったら何が起きるかわかんないもんな」
まだ見ぬ女勇者に期待と別のところを膨らましかけ、慌てて女勇者に出会えなかった場合のバットルートを想像し何とか萎えさせる。
もう俺の股間は普通の股間ではない(大きさ的な意味では昔から普通ではなかったが)ので、もし元気になったら何が起きるか未知数だ。少なくとも今そんな事態にはなってほしくない。
そんな事を考えながら歩いていると。
「きゃ!」
「おっと!」
考え事をしながら歩いていたため曲がり角で女の子とぶつかってしまった。
「んっ……ごめんなさい。よく前を見ていなかったわ」
「俺の方こそ悪い。大丈夫か? ってうお⁉」
俺とぶつかって転んでしまった女の子に慌てて手を差し出し驚愕する。
別にその女の子のパンツが見えてしまっていたりだとか、差し出した手が偶然胸を揉んでしまったなんてラッキースケベを起こしたわけではない。勿論どこかの偉大なハーレム主人公の先人達の様に顔を女の子の大事な場所に押し付けるなんて事も起きていない。
ただその女の子に見惚れてしまっただけだ。
「いいえ、結構よ。気持ちだけ貰っておくわ」
降ったばかりの雪の様な幻想的な白すぎる髪と肌を持ち、声やしゃべり方から伝わる凛とした感じを濃縮した意志の強そうな翠緑の瞳はエメラルドを想像させどこまでも真っ直ぐな輝きを放つ、そしてその整い過ぎていて最早研ぎ澄まされていると言ったほうが適切な美しい顔はどこか冷たさや近寄り難さすら感じさせる。まるで氷の彫刻の様だ。
「あっ、いや、はっはい、気持ちだけでもお粗末様でした!」
「? …………ごめんなさい。何を言ってるかわからないわ?」
「はっ⁉ そっそうすよね! 俺もわかんないすわ。ははは」
あなたに見惚れていましたなんて事はいえるわけもなく唯々きょどる俺は中々にキモかったらしく女の子から訝しげな視線を送られてしまう。
でもしょうがないだろ?
花畑で美少女慣れしているつもりの俺だったが、異世界の美少女達はこの子と言いお姫様と言い何とも言えない幻想的な浮世離れした美少女力を持っており、花畑の様な女の子女の子した俗世間の美少女耐性しか持たない俺には中々にハードルが高いのだ。そりゃきょどるって……。
「………………」
「えっ、えっと、俺の顔に何かついてます?」
気が付くと彼女は俺の顔を、そのどこまでも真っ直ぐなエメラルドのの瞳でジッと見ていた。
その眼力の強さは、うわ~こいつきょどりすぎキモっみたいな侮蔑の意味より、俺の事を全力で観察し分析していると言った意味合いの方が強い。
俺はその何とも言えない居心地の悪い間に耐えられず勇気を出して彼女に喋りかける。
「………………いえ、あなた名前は?」
「馬並天馬ですけど……」
「ウマナミテンマ? 珍しい名前ね、あなたもしかして?」
「あっはい。一応今日異世界から召喚された勇者の一人でってうお⁉」
熱視線を送っていた彼女に聞かれるがまま名前と自分の素性を話すと、突然彼女は眼の色を変え俺の胸ぐらを凄い速さと力で掴み、その美しすぎる顔を一歩間違えればキスできちまうんじゃないか? と思う距離まで接近させ穴が開きそうなほど見つめきた。
「見つけた……見つけたわ……あなたで間違いない!」
「ちょっ⁉ 近い近い近い! 何⁉ 急にどうしたんだよ⁉」
「これでやっと……やっと私は……待っててお母さん……」
「てかタイム! 締まってる、締まってるから! 近いし何かいい匂いするし苦しいで色々やばいって!」
何これヤンデレ? と思ってしまう程豹変し胸ぐらを締め付け顔の超近い少女の、物理&ドキドキ&いい匂いのトリプルパンチは俺には色々クリティカルであり、生命の危機と聖剣の危機(勃起的な意味で)を同時にもの凄いスピードでヤバい感じに追い込んでくる。
どこかの業界ではご褒美かもしれないが、正直俺にとっては今までにないレベルの拷問以外のなんでもない(勃起的な意味で)。
「ハっ⁉ ……いけない私つい……ごめんなさい大丈夫?」
「あぁ大丈夫だ問題ない。あっちの方はかなりやばかったがな」
「? なんにしてもよかったわ。こんなところであなたに死なれては困るもの」
「ん? どういう意味だ? てかあんたは一体?」
ハっと我に返り俺への拘束を解いた彼女は若干頬を染めて謝罪すると意味深な事を言う。
俺は今の一連のやり取りでさっきまでのキモくきょどる事もなく目の前の女の子に質問した。
「申し遅れてごめんなさい。私はアイス、アイス・ベル・ヴァンハイム。ヴァンハイム男爵家の長女にして、ユニークスキル『聖剣使い』を持つ元勇者よ」
「ゆっ、勇者だと⁉」
目の前の白髪翠眼の美少女アイスは自分の事を元勇者と言いやがった。
確かによく見るとアイスはスタイルより機能性重視なのかお世辞にも可愛いとは言えない女性用に軽量化された無骨な黒い鎧を着ており、腰には洋風の剣が下がっている。
彼女の美貌やスラっとしたスタイルによりそんな鎧を着ていてもその美少女力に一片の陰りを見せることは無いのだが、今重要なのはアイスが勇者だと言う事なので彼女の体をジロジロ見るのは今度にしよう。
確かに今まで見た騎士が皆一様に着ていた王国の国旗が刻まれた鎧ではないし、冒険者と言うには品がありすぎて違和感を感じる。そしてなにより彼女の神聖なオーラ的な物をさっきから俺の股間の聖剣がビンビン感じ取っている。
「えぇそうよ。これが私のステータスカード」
「マジで勇者じゃん……てかステータスすご……」
アイスが見せてきたステータスカードとは先程俺達が真実の銀水晶で貰った物と同種の物で、俺達の世界で言うところの身分証明書の役割を果たし、この世界では偽る事の出来ない絶対的信用性を誇っている。
そしてそのカードには勇者の中の勇者の証である『聖剣使い』は勿論、全てのステータスが聖守君を上まるSランクである事まで記されていた。
「信じてもらえたみたいでよかったわ。まぁあなたも勇者なわけなんだけれど」
「えっとんでその勇者のアイスさんは、一体俺に何の用なんだ? かなり取り乱してたけど」
「呼び捨てでかまわないわ。そして私はもう勇者ではないの……『元』勇者よ……」
俺の問いにアイスはその綺麗すぎる顔にスッと陰を落とすと勇者である事を否定し、元勇者である事を強調する。そこには踏み込んではいけないような闇の様なモノを感じる。
そしてアイスはその陰を振り払うと俺に。
「あなたの持つ聖剣を私に貸してもらえないかしら? 私にはその……あなたの力が必要なのよ……」
「⁉」
「……ダメ……かしら?」
そのアイスからは最初感じた冷たさすら感じさせる凛とした美しさや強さは欠片ほども見受けられない、それどころか翠緑の瞳は不安に揺れ潤んでしまっており女の子特有の弱々しさを感じる程だ。
まるで捨てられた、いや今から捨てられる子犬の様に庇護欲をこれでもかとそそる。
「完璧クールに見えて実は弱い系ヒロインキタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
俺はこのクール系白髪緑眼な美少女の前で本日何度目か数えるのもめんどくさなくなる魂の叫びを三本の腕を天高く突き上げながら咆哮した。
ん?
三本?
「…………えっと……ソレは……一体何かしら?」
「え? …………ファ⁉」
突然雄叫びを上げた俺に、アイスが戦慄した顔と震える声で恐る恐る尋ねる。
アイスのその震える人差し指の先には、今にもズボンを突き破りそうになっている三本目の腕が雄々しく自己主張していやがった。
「……あの……天馬くん? ……ソレは一体……」
「ははははっ残念それは私のおいなりさんだ!」
やっちまったああああああああああ!