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異世界事情とユニークスキル

「というわけで事態は我がエルレイン王国どころか、このオルタナ大陸全土が魔王軍の手に堕ちようとしているのです。勇者の皆様には是非とも力を貸して欲しい」

「そういう事なら僕達も見て見ぬふりはできません。何が出来るか分かりませんが精一杯やらしていただきます! いいよなみんな?」

「「「 KANADE! KANADE!」」」

「………………」


 イブリーナ姫と出会い勇者としてこの世界の為に尽力する事を前向きに考える事にした俺達は、その後エルレイン国王と詳しい話をするべくこのアホみたいに広い謁見の間という場所に移動し、現在この世界の設定と言う名の現状や情勢を聞くイベントの真最中なわけだが、俺のテンションはクラスの士気と反比例する綺麗な右肩下がりである。

 それと言うのも。


「これは何とも頼もしい。イブリーナが奏殿に熱を上げる気持ちも分かるな。わっはは」

「おっ、お父様やめてください! 違いますからね奏様! わたくしは別にそんなんじゃ……」

「大丈夫だよイブリーナ。 熱が出たなら僕も看病するから」

「えっ⁉ ありがとうございます……ってそうではなくて! もう奏様の意地悪!」


 といったもうなんか既にお姫様が攻略済みっぽい感じに出来上がっているからである。

 それを見るクラスメイトの視線には多少複雑な感情を含んだ物はあれど、我らがイケメンリーダー聖守奏ならば最終的にはこの様に奏コールに変えてしまえるらしい。

 イブリーナ姫を自分のハーレムメンバーにカウントしていた清純はブツブツと呪詛を呟いているのだがキモいのであまりふれたくはない。

 かくいう俺も頭の片隅にその思いが無かったとは言えない為テンションを落としている。まぁ奏コールに合わせた手拍子だけは小さく参加をしてしまっているあたり清純よりも残念なのは俺なのかもしれないが。


「それで肝心のこれからですが具体的にはどうしたらいいんですか?」

 聖守君が脱線した話を戻すと、国王は父親の顔から王様の顔へと表情を引き締め話の続きをする。


「おっとそうでしたな。魔王軍との全面戦争となれば被害は甚大なものとなるでしょうからそれは避けたい。そこで勇者様には四大迷宮を踏破していただき、その最奥にあるとされる結界装置を機動してもらいます。言い伝えによると四大迷宮の結界を全て起動できれば強い魔族はその力の殆どを主神テムゼルク様の結界により約千年間封印されるようなので世界に長い平和が訪れるとされておりますな」


 ちなみに俺達はこの話にいたるまで小一時間程この世界の事をざっくりと話されており、かなり長い校長の挨拶の様に感じたクラスメイトはその話をあまり真面目に聞いていない様子であった。花畑なんかしきりにどれくらいかかるのか? 夏休み中に帰れるの? 等と呟いており緊張感が全くない。よほど夏休みにやりたい事でもあるのだろう。まぁ俺は夏休みと言わず一生をここで過ごしてもいいんだが……。


 まぁそんな事はどうでもよくて、国王から聞いた小一時間の異世界情勢を俺なりに要約すると、まずこの世界はオルタナという名前であるらしく、大きく4つの大国に分かれている。

 自分達こそがこの世界を統べるべきと主張する北の侵略国家ヴァルバトス、獣人やエルフ等の多種族の亜人により成り立っている南の鎖国国家ティトアニア、今俺達のいる西から中央にかけて広がる平和をうたう最大の共和制王国エルレイン、そして人類の敵とされる魔王の統治する極東のデスターク。

 エルレインは人類の平和の為、小国や冒険者ギルドと連携し魔王軍の侵攻を国境付近で阻止するので精一杯であり、しかしそれも近年では状況が芳しくないらしく、他の大国に助力を求めたがそれも拒否されてしまい、ますますもって危機的状況になって俺達を召喚した。とそういう事だ。

 

「僕達の他に四大迷宮を攻略しようとする仲間はいないんですか?」

「それが大迷宮は他のダンジョンとは別次元の難易度でして普通の冒険者は勿論高ランクの冒険者でも攻略を半分諦めているのが現状ですな。お恥ずかしい話、前に我が国の勇者が挑戦したのですがそれでも無理だったので余計にその兆候を強くしてしまったのです」


 ん? 俺は聞き逃せないワードに反応する。それは聖守君も一緒だったらしく。


「僕達の他にも勇者がいるんですか⁉」

「えぇ。ですが皆様とは違いこのエルレイン出身の者ですね。しかしアレはもう力にならないでしょう」

「どういう事ですか? 一体どうして?」

「アレは正確に少々難がありいつも一人で戦っていましてな、そんな戦い方がたたって一年前に魔王軍の四天王と戦い敗北して以来、その時のショックが原因で彼女の力の根源とも言うべき聖剣を使えなくなってしまったのですよ」


 なるほど。勇者様はボッチだったわけか。いくら強いからってそりゃ一人で何でも勝てるわけないわな。俺なら安全策で戦隊ヒーローみたいに5人でリンチにするね。まずそんなに仲間が出来る気がしないが……。

 まぁ女はヘラりやすいからそんな事もあ……って勇者女だったのかよ⁉ いや別にだからって変な期待をしてるわけじゃないぞ? 決してお姫様に代わるヒロインが欲しいわけじゃないんだからな?

 それにしても自分の国を守っていたであろう勇者をアレ扱いとは……使えないと知るや即手のひら返しで都落ちとは異世界も俺が思ったより甘くないのかもしれないな。


「ですが見たところ皆様はアレと違い協力して戦う事が出来そうでホッとしていますよ。ユニークスキル持ち同士がPTを組めば無敵でしょうしね。わっはは。おっと話しすぎてしまいましたかな、ではそろそろ皆様のユニークスキルがどんなものか確認するとしましょう。おい例の物を持ってこい」


 色々と能天気だし緊張感は足りていないが、纏まりはある連中と見たのか王様もご機嫌らしく、部下の文官らしき男達に弾んだ声で命令をする。

 そしてその男達はすぐに例の物と思しき煌びやかな台座に置かれた銀色の光を放つ大きい水晶を持ってきた。


「これは我が国の国宝級の神器『真実の銀水晶』と言いましてな、手をかざすとその者の全ての能力を暴き、それを記したカードを出現させる事ができるというわけです。このレプリカはギルドなんかで使われていますが、このオリジナルは普通は見る事の出来ないユニークスキルまでも読み取る事ができるのですよ」


 どうやらこれで俺達のユニークスキルを読み取る事ができるらしい。

 ようやく自分達の能力を測るイベントのお出ましにクラスメイトは色めき立つ。勿論俺も顔には出しはしてないがかなり興奮している。なにせこれでこれからの異世界生活の大半が決まってしまうのだから。


「きた! 遂にきたでござるぞ天馬殿! 小生達がこの時のために考えに考えたチート能力達が遂に披露されるのでござるな!」

「待て落ち着け清純! 集中するんだ、そして思い出せあの日々を……必ず俺達の思いは報われるはずだ」

「然りでござる。来い! 来るでござるコピー能力!」

「頼む俺に無効化能力を!」


 はいそこ! 考えに考えた割にありきたりな能力だなとか思わない! いいんだよこういうのは王道で!

 そんな馬鹿なやり取りをコソコソと小声でしていると、花畑がこっちをチラリと見てキモと口パクしてきやがった。こいつは俺達が今までこの瞬間の為に妄想した日々を知らないのだろう。ふん、せいぜいゴミ能力でも出てしまえ。


「えっと、こうすればいいんですかね?」

「そうです奏殿、すると水晶に……なっ、なんと⁉ 全てのステータスがAランクだと⁉ しっ、しかも何という事だ……ユニークスキル『聖剣使いブレイブイクシード』が……何という奇跡!」

「え⁉ そうなんですか?」

「流石奏様ですわ! いきなり上級冒険者級の能力をお持ちで、しかも『聖剣使いブレイブイクシード』のユニークスキルまでも持っているなんて! あなた様は勇者の中の勇者です!」


 やはりと言うか流石と言うか最早完璧の類義語に聖守と言う単語を辞書に載せるべきなのでは? と思ってしまえる程期待通りの展開である。勿論すぐさまお決まりの奏コールが始まったのは今更言うまでもないだろう。

 しかしここで聖守君を羨ましいと思うようではまだまだである。

 何故なら再三に渡って言っている様にこの手の展開にはお約束が何個もあるのだ。

1つ、イケメンリーダーキャラは一見最強だが実はかませ犬ポジ。


「なっ、なんと⁉ 他の数値は平均以下ですが魔力はSランク、しかもユニークスキル『万物調和オールコミュニケイト』これまた強力なユニークスキルです花畑乙葉殿! これは大変珍しい職業の召喚士サモナー精霊魔導士スピリットキャスターにでもなれますぞ⁉」

「えっ? え? よく分かんないけどそれすごいんですか?」

「乙葉すごいじゃ~ん。うちもなんか賢者になれるとか言われたわ。マジうける~」

「俺なんか騎士王になれるらしいぜ? 俺が騎士王とかやばくね? これ超きてるっしょ?」

「なんと言う事でしょう……わたくしはとんでもない方々を召喚してしまったようです。主神テムゼルク様深く感謝いたします」


 2つ、クラスメイトも全員チート級の能力を持っている。


「まだ鑑定をされてない勇者様はおられぬか?」

「あっ、はい……俺まだです」

「ではここに手を、そうです。ふむふむ馬並天馬殿ですか、天馬とはまた素晴らしい名前ですな。神獣であるペガサスでも使役できるのですかな。わっはは」

「もうまったくお父様ったら、うふふ、ごめんなさいね天馬様。お父様ったら勇者様方が凄すぎてはしゃいでしまっているようなのです」

「あぁ、いや俺は別に……気にしてませんので……」


 クラスメイトが次々とチート能力を鑑定される中、ついに俺の出番となり真実の銀水晶に手をかざしながら大変ご機嫌な王様とお姫様と軽く話す。

 美人すぎるイブリーナ姫の大胆な恰好をまじかで直視するのは俺にはハードルが高かったので下を向きながらの対応となってしまった。

 性的にも勿論ドキドキするが、今はそれより自分の事が気になってそんな場合ではない。


「おや? ステータスは……全て最低ランクのEランクのようですな……」

「まぁ⁉ 伝承によれば過去20回を超える異世界から召喚された勇者様の最低ステータスはCランクを下回る事が無い筈なのに一体どういうことでしょう? これはユニークスキルが未だ例を見ないほどに強力なのでしょうか? だとしたら一大事ですわ!」

「……………………」

「ユニークスキルは…………」


 王様やお姫様は勿論、騎士や文官達までざわめきだす。よほど異例の事なのだろう。

 その様子に釣られるようにクラスメイト達もおしゃべりをやめ俺の鑑定結果に耳を傾ける。

 そして王様の口から俺のユニークスキルが告げられた。



「ユニークスキルは…………ない。天馬殿はユニークスキルを持っておらぬ……」



「「「「はぁ?」」」」


 そして3つ目。

 主人公は大体一見雑魚能力か無能力である。

 

「「無能力きたあああああああああああ!」」


 思わず俺と清純はガッツポーズで大声をあげてしまう。

 その声はシーンと静まり返った謁見の間に長い間木霊し続けた。

 

 今だから言おうここで喜んでいた俺は本当にバカだったと……。



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