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ようこそ異世界へ

 目が覚めるとそこは異世界だった。なんて事になったらどうする?

 きっと100人中100人がその現実を受け入れられないだろう。

 異世界に本気で行きたいと思っている俺ですら実際そんな事が起きたらパニックになってしまう自信がある。

 正確にはあった。


「知らない天井だ……」

「って案外余裕あるでごあるな⁉」


気が付くと俺は冷たい床の上に大の字になっており、目の前には心配そうに俺を見下ろす清純がいた。頭にぼんやりと霧がかかっている様な感覚があるが、体にはなんの異常もないらしく体を起こすことができ、そして次に視界に飛び込んできた景色を見て俺は絶句する。


「おい清純……」

「分かるでござるよ天馬殿、小生も流石に己の目と正気を疑ったでござる」

「あのお姫様っぽい人露出度高すぎじゃね?」

「最初にツッコムとこそこ⁉ 何故そんなに余裕あるでござるか⁉」


 どうやら俺達は秘密の講堂的な場所にいるらしく、地面や壁には見た事もない文字や魔法陣が刻まれており、天井にはLEDの電球にも劣らない光を放つ無数のランタンが吊るされている。

 これを不気味と感じるか幻想的と捉えるかは議論の余地があるだろうが、俺のクラスメイト達の大半は不気味と感じたのか呆然と立ち尽くしていたり、座り込んで泣いてしまっていた。

 残りの生徒はその生徒達に寄り添ったり、明らかにこの講堂に関係があるであろうとんでもない美人のお姫様に詰め寄り喚き散らしているのだが、甲冑を纏った見るからに強そうな騎士達によりそれを阻まれてしまう。

 そのお姫様は眩い黄金の長い髪を縦ロールにしたいかにも高貴な髪形をし、神が一切の妥協をしないで作ったと言われても頷いてしまう整った顔にサファイアブルーの瞳、花畑のようなエロさしか感じない体ではなくどこか品のある完璧なプロポーションをしており、そしてその美を踊り子がつける面積の少ない下着のような服にピンクのスケスケのケープを羽織るだけと言う形で惜しげもなく披露している。

 

「ばっかお前あんなん反則だろ? くっそ! あれはマ〇コあれは〇ツコ……ふぅ……」

「この状況でいつも通りとか天馬殿は案外大物なのやもしれぬでござるな……こんな事態を日々妄想している小生ですら数分間は頭が真っ白だったというのに……」


 まぁ実際かなり驚いているのだが、そんな事よりも・・・・・・興奮を抑える事の方が大事だと本能的に感じてしまった事で驚きの感情が幾分か薄れたのだろう。

 そんなやり取りをしていると例のお姫様がこちらをチラっと一瞥するとその口を開いた。


「異世界から来た勇者の皆様、大変混乱なされている事でしょうが、まずはこの様な場所にいきなり召喚をしてしまった事への謝罪を申します。申し訳ございませんでした」


 お姫様の言葉の透き通った綺麗な声はこの空間にいる全ての人間の耳に心地よく響き、そして今まで騒がしかった言動や行動の一切を止めさせた。鶴の一声とはこういう事を言うのだろう。


「そして同時にその召喚に応じていただけた事にエルレイン王国が王女、イブリーナ・ヴィ・エルレインは深く感謝いたします。本当にありがとうございます勇者様方。ようこそエルレインへ。わたくしは皆様を歓迎いたします!」

 

 イブリーナ姫は深く頭を下げると周りの騎士から「いけません姫様が頭を下げるなど!」と言う声が上がるが、それを手で制しその行動を継続する。そして頭を上げると見る者全てを恋におとしてしまいそうな美しすぎる笑顔を俺達へ向ける。

 その笑顔にさっきまで家に帰せと騒いでいた男子達はドキッと心臓を高鳴らせ、途方暮れて泣いていた女子達も少し気を持ち直す。

 隣の清純なんかは息をはぁはぁと荒げ目とかも少しやばい。

 かくいう俺もさっき感じた興奮とはまた別の一目惚れに近い興奮を感じてしまっている。


「これから皆様には私の父、エルレイン国王に会っていただきたいのですが、勇者様方におかれましてはいきなりこんな場所に呼び出されさぞ不安な事でしょう。怒りを感じてらっしゃる方もいるでしょう。なので父に謁見する前にわたくしは皆様の質問にお答えして少しでも気持ちを落ち着かして差し上げたいのです」


 イブリーナ姫の麗しくそれでいて柔らかい笑顔としゃべり方によって紡がれた言葉はそれだけで効果があったようで、先ほどのように生徒達から怒涛の質問ラッシュになる事はなかった。むしろ殆どの生徒はこの場で口を開く事は恐れ多いと思ったのかただ流れに身を任せている。


「えっと、じゃあ質問させてもらっていいですか? イブリーナ姫殿下」

「はい! 勿論でございます勇者様。そして勇者様、わたくしの事はイブリーナで結構でございます」

「わかった。僕の名前は聖守奏。僕も奏って呼んでくれイブリーナ、それで話を聞く限り僕達をここに呼んだのは君みたいだけど、僕達は元の世界に帰る事はできるのかな?」


 そんな中颯爽と声を上げ、なおかつお姫様をさらりと呼び捨てにしてしまえる我らが2年B組のイケメンリーダー聖守奏君は順応力まで高いらしく、今みんなの一番知りたい事である帰り方についてまず聞いた。

  

「それについては一先ひとまず出来ると答えさしていただきます奏様。しかし今すぐにと言う事ですと残念ながら出来ないと言うしかございません」

「そうか……僕達を勇者と呼ぶところから察するに、魔王でも倒せば帰れるのかな?」

「驚きました……さすが勇者様その通りでございます。伝説では魔王の持つ神器によりそれが可能とされていまして、過去にこちらに来られた勇者様もそれで帰還していったと言い伝えられております」


 ざわざわっ。

 今まで静かに様子を見ていたクラスが魔王を倒さねば帰れないと言う事実にざわめく。

 当然だろう。平和な日本にいた高校生にいきなりゲームではなく現実に魔王と戦えと言われてもそんなものは無理である。

 中には、あぁテンプレだな~等と考えたのかあまり驚かない生徒の姿もチラホラいるし俺もその中の一人なのだが、清純は「流石はイケメン……しかしそのポジションはどう考えてもかませキャラポジでござる」と目を輝かせぶつぶつと呟いている。

 まぁクラスごと異世界に行くラノベの世界では聖守君の様な絵に描いた完璧タイプよりも平凡で目立たない生徒の方が実は主人公でした。という展開がセオリーなのだが何故だろう。清純は確実にそうでないと言い切る自信がある。なんなら序盤に死ぬ展開すらもなくはないのではなかろうか。


「みんな落ち着いてくれ。でもイブリーナ、僕達には魔王と戦う事の出来る力がある。違うかい?」

「ごっご明察の通りでございます! 詳しくは後程神器による鑑定を行いませんと分かりませんが、異世界から来た勇者の皆様には例外なく精霊等の神格と同等の能力を持つユニークスキルをもっています。とても希少な能力でそれを持つ者は将来を約束され、英雄にも王にでもなれると言われる程の代物でございます」


 イブリーナ姫の言葉にさっきとはまた違うざわめきが起こる。

 普通の高校生が将来を約束された力をぽっと手に入れてしまったのだ無理もない。その姿には先ほどの不安や怒り等の感情はかなり薄れている様に見える。

 この展開を狙ってのやり取りだとするなら聖守君は流石完璧イケメンと言わざるをえない。お姫様にしても何というか手際がいいというか、人心掌握に長けていると言ってもいいくらい綺麗にクラスメイト達の不安を解消してしまった。まぁ半分以上は見た目が影響しているんだろうが。

 なにせ殆どの男子は鼻の下を伸ばしだらしない顔をしちまっている。自分が英雄になってこのお姫様と付き合う未来を妄想でもしてるんだろうな。


「イブリーナはこう言ってくれているしみんなどうだろう? 前向きに考えてみないか? 勿論うまくいく事ばかりではないだろうけど、本当に危険な事態になったら僕が全力でみんなを守るよ。それにこの世界の人達を放っておくなんて僕にはできないしね」


 キラン! っと真のイケメンにしか出来ないスマイルをしながらそんな主人公らしい事を言う聖森君。

 それによって女子の殆ども目をハートになりクラスの意見はほぼ纏まる。


「そっ、そうだな! やってやろうぜ奏!」

「流石奏君かっこいい! 私も協力するよ!」

「よっしゃみんな! 奏っちに負けない様に俺達も頑張ろうっすよ!」


 KANADE! KANADE! と奏コールが巻き起こり、クラスの士気は最高潮に高まっていく。

 言っていい?

 おかしくね? 単純すぎね? これがリア充高校生ノリと言うやつなんだろうか? 

 まぁ俺としても念願の異世界に来たわけだから異論はないんだが、なんだろうかこの微妙な気持ちは……体育祭や学園祭の時の団結に入りそこなっちまった時の感覚に似てる……。


「ふむ。流石は聖守殿。主人公全開でござるな……しかし真の主人公は小生でござるぞ。美人エルフは勿論あのお姫様も小生のハーレムに加えて毎日エロいハーレムライフを満喫するのでござる」

「おっ、おう……叶うといいなその天変地異」

「小生のハーレムは天災レベルでござるか⁉」


 そんなこんなで俺の異世界生活が始まった。

 

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