影の頭
「おーい。君。おーい。おーい」
誰かの声が聞こえる。聞いたことがない声だ。声が低い。男だろうか。目を開けると、男の人の顔が見えた。男の顔は、頬は餅を焼いた時のように膨らみ、その頬に押されて、目が細くなっていた。髪を眉毛あたりで、切り揃えている。
面白い顔だな。
「あ、起きたかい。君。ここがどこだかわかるかい?」
わかるわけないじゃないか。
「わからないです」
頭がひどく痛く、頭を押さえながら、体を起こす。
「頭が痛いのかい?」
「はい。すこし」
「とりあえず、僕の町まで行こう」
餅男に右腕を持ち上げられ、仕方なく立ち上がる。
「歩ける?」
「歩くくらいなら」
立ち上がり、周りを見るとそこは森だった。
「これ君の刀かい?」
そう言って、餅男は火産霊を渡してきた。
「はい、そうです。ありがとうございます」
『ふぅー。ここ、どこだ?』
どこだろうね。わかんないや。
「すいません。ここはどこですか?」
「わからないのかい?記憶喪失かな??」
そうじゃないんだけどな…
「えーと。ここは“水”の国だよ」
「そうですか。わかりました」
そう答えつつ、頭の中に地図を展開する。
適当だな。
『あぁ、この辺か』
知ってるの?
『まぁ、知ってなくもない』
じゃあ、色々教えてね。
「僕の町に来るかい?記憶喪失なら、ちゃんとした医者に診てもらったほうがいいんじゃないかな?」
違うんだけどな。
「それじゃ。お言葉に甘えて」
「じゃ、ついてきて」
そう言って、餅男はのしのしと歩き出した。森の中だと迷いやすいので、しっかり餅男の後をついていく。
『こいつ信用していいのか?』
う、うん。たぶん。大丈夫。
『不安要素がたっぷりだな』
しばらくして、森が開けた。道らしいところにでると、次はその道の上を歩き始めた。
「あと、どのくらいで着きますか?」
「んんーと、あとちょっとかな?」
ちょっとってどのくらいだよ。
『同感だ』
またしばらく歩いた頃に、左右にある木々の中から何かの気配を感じた。
狼とかかな?
『いや、人間だ』
人間?こんなところに?
『大方、盗賊か何かだろう』
今の僕でもやれるかな?
『わからんが、あのデブを守りながらだったら厳しいな』
できれば逃げたいな。
「君。そういえば名前は?」
こんな時に。
「柊 燈火です」
「燈火くんか。じゃあ、燈火くん。これから、少し荒れるけど、頑張ってね。燈火くんならいけると思うけど」
この人。気づいてるのか!?
『驚きだな』
急に餅男が立ち止まると、さっと餅男の前に影が3つほど現れた。
「俺らは盗賊団、水の妖精‼︎ここを通りたけりゃ、金目の物を全部置いて行け‼︎」
ドスが効いた声で、真ん中の影が、盗賊感溢れるセリフを叫ぶ。
水の妖精って、、、可愛いな。
『そうだな』
「すいませーん。僕たち、金目の物なんて持ってないんですけど、どうしたらいいですか?」
これは事実だ。島まで肩にかけていた風呂敷はどこかに消えたし、餅男も手ぶらにしか見えない。何を渡せというのだろう。
あ、刀があった。
「刀があるだろう‼︎それを渡せ‼︎羽織と袴は勘弁してやる‼︎」
しょうがないなぁ。
『おいっ‼︎渡すつもりか??』
どうしようかなぁ?
『あいつらの手に渡ったら、どこの誰だかわからない人間に売られるんだぞ?お前には人間の心がないのか‼︎』
そう言われてもなぁ。
まぁ渡さないけど。
『ありがとう‼︎』
さっきから、餅男が全く喋ってない。
こいつ、役立たずか?
と思った瞬間、餅男の姿が消えた。影たちも戸惑っている。
『焦るな。影の後ろだ』
影の後ろを見ると、そこにはドッシリと餅男が立っていた。餅男はガシッと影の頭を掴むと、ぐりっと捻って自分の顔を見させた。すると、影が
「うぁぁあ‼︎」
と情けない声を上げる。
「俺が誰だかわかるか?」
と餅男
「は、はい。餅米様でいらっしゃいます…よね?」
餅米??
まんまじゃないか‼︎
『まんまだな』
餅米が、影の頭から手を離すと、影は尻餅をついた。目以外は黒い布で覆われているが、目だけでもその驚きようがわかった。
恐る恐る聞いてみる。
「何者ですか?」
すると、餅米は笑って
「水の妖精だよ」
かわいい。
「盗賊?」
「うん。盗賊団、水の妖精の団長。餅米だ」
『燈火、どういうことだ?理解しきれないんだが』
この餅男が襲ってきた盗賊のお頭ってことじゃないの?
『…燈火、どういうことだ?理解しきれないんだが』
もういい、自分で考えてよ。
「よし、行こうか。燈火くん。オイコラァ、行くぞてめえら‼︎」
いつの間に出てきたのか、道には10人ほどの影が正座していた。その影は、餅米の声にビクッと体を震えさせたが、サッと立ち上がって、餅米のあとに続いた。ボクもそれに続いた。