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  作者: まぐろん
7/10

本当の力

曇り空の下で、青白い光が叫ぶ。

「やっちゃったなぁ」

その真下には、砂浜に倒れた燈火と、黒髪の少年がいた。

「あいつ、人嫌いだからなぁ。このままじゃ、任務失敗じゃないか。どうしよう」

光は小刻みに震えながら嘆いた。

「かといって、人を助けたりしたら、あいつに何言われるか……。でも、見殺しにしても、厄介だし……。あぁ、どうしよ」

光は早口で喋り続ける。しかし突然、光の声が途絶えた。

「………あれ?あの気は」



海が見える。砂も見える。あれは…火産霊だ。ボク、まだ生きてるのか。

『意識が戻ったんなら、早く立てバカ』

バカって、ひどいなぁ。そう思いつつ立って、少年の位置を確認する。よし、まだ気づいてないな。

『おい!俺をはやくひろえよ!』

「あぁ、ごめんごめん」

思わず口に出た。ゆっくりと火産霊から、少年へ視線を戻すと少年と目があった。

気づかれたぁ〜‼︎

「お前、まだ生きてるべか。意外と丈夫だべな」

「はい。案外、丈夫な方で」

『俺のおかげだけどな』

「わかってるよ。うるさいなぁ」

「何一人で喋ってるべか?」

「気にしないでください」

「次はしっかりとどめを刺すべ」

火産霊を中段に構えて、相手との距離を確認する。

『距離、20m。まぁ、一瞬で詰められる距離だな』

ボクが今、測ってるところだろ‼︎

『俺の方が早いから、しょうがない』

ていうか、景色見えてるんだね。

『気にすんな』

一瞬、火産霊となら、いい友達になれる、と思った。

『戦いの最中に何考えてんだよバカ燈火‼︎』

前言撤回。やっぱりめんどくさい。

少年に意識を戻すと、少年はもう走り始めていた。

『燈火。見たところ、あいつは体術特化だ。素早い上に、パワーもある。バカ正直に、防御してたら体がぶっ壊れるぞ。極力、俺で防げ』

「わかった」

少年が飛び上がった。右脚を後ろに引いている。右脚の蹴りだなと思い、火産霊を体の左側に構える。0.2秒後、予想どおり、頭の左側面めがけて、蹴りが飛んでくる。火産霊を少年の脚に当て、蹴りを受け流す。脚を硬化させているのか、キィーと、金属音が響いた。少年は、態勢を崩すことなく着地すると、強烈なパンチを繰り出したきた。体をひねり、ギリギリでかわす。その後も、不規則に繰り出される技を間一髪でかわす。

『燈火。そろそろ目は慣れたか?』

「うーんと…まぁまぁかな」

『それなら、反撃開始だ!!あいつにも必ず隙がある。俺が、合図するから、その瞬間撃て』

「わかった」

「さっきから、何一人で喋ってるべか?」

少年は質問しながらも、強烈な攻撃を繰り出し続けてくる。火産霊の合図があるまでは、防御と回避に徹する。回し蹴りからの、後ろ回し蹴りをかわした時、

『今だ‼︎どこでもいい。叩け‼︎』

と、火産霊が叫ぶ。どこでもいいって、言われてもなぁ、と思ったが素早く少年の右脇腹を突く。グシャッと音がして、手に肉を刺した時の感覚が伝わる。見ると、火産霊は弾かれることなく、腹から背中に突き抜けていた。少年の体から勢いよく血が噴き出す。

「がはっ⁉︎」

少年は驚いたような声を血とともに出した。

「やった‼︎」

『燈火‼︎離れろ!!』

え?なんで?

取り敢えず、火産霊を少年の体から抜いて、少年から距離をとろうとした瞬間。グシャッと、さっきと同じような音がした。少年を無意識下で刺してしまったのかと、少年を見るがどこにも新しい負傷は見つからず、先ほど刺した場所から、とくとくと血が溢れて出しているだけだ。ボクの体を見てみると、腹に茶色い大きな棘が刺さっていた。なんだこれは。

「すまないべ。奥の手を使ってしまったべ。わけがわからないだろうから、教えてやるべ。言ってなかったけど、おらは砂の神だべ。お前に刺さっているそれは、砂を固めて作ったものだべよ。あいにく、ここは砂浜だべ。ようするに、おらは、お前をどこからでも攻撃できる。つまりお前は、おらの狩場に迷い込んだ獲物だべ」

「くそっ...!」

だんだん意識が遠のいていく。今までの疲労が溢れてきたみたいだ。また、だめか。ごめん、火産霊。ここで、錆びて朽ちてくれ。

『なに終わらせようとしてんだよ。まだ終わってねーぞ、燈火』

どういうことだよ。

『俺の力を貸すって言っただろうが。そう簡単に死なせてたまるかよ』

でも、もう視界が真っ暗だよ。

『そりゃ、思い込みってやつだ。自分は元気だと思ってみろよ』

本当だ。視界が明るくなった。じゃあ、ボクはまだ生きてるのに、あの子はなんでとどめをささないの?

『まだ、あいつが喋り終わって、一秒も経ってないからな』

…そ、そうなんだ。

『そうだ。燈火、よく聞け。多分、俺たちはあいつに勝てねぇ。だから、お前をこの島の外に転送する』

そんなことできるの?

『できねぇよ。少なくとも、今の俺じゃな。だから、あいつの気を借りる』

気を?どうやって?

『あぁ。さっき感じたんだが、あいつを刺した瞬間、触れた時とは比べもんにならねぇくれぇの気が流れ込んできた。まぁ、その気を使って、お前を助けたんだが』

つまり、その気を使えば、逃げられるかもしれないってこと?

『そうだ。だが、それには、あいつに攻撃を当てなきゃなんねぇ。やれると思うか?』

でも……

やらなきゃ、死ぬんでしょ?

その時なぜか、ボクはニヤッと口を歪めていた。

完全に視界がクリアになった。腹を見ると、羽織は破れているが、体には傷一つなかった。

「ありゃ。まだ、生きてるべか?丈夫すぎる玩具は、好きじゃないべよ」

「すいません。もう少し、遊んでもらえますか?」

「しょうがないべなぁ」

少年の足元の砂が、宙に浮き上がると、こちらに向かって飛んできた。

『しゃがめ』

それくらいわかるよ。

内心、毒づいたが、火産霊には内心もくそもない。

砂の弾丸をしゃがんで避けると、次に火産霊の指示が飛んできた。

『策は俺が考える。お前は、避けることに専念しろ』

了解‼︎

心の中で叫びつつ、砂の弾丸を避ける。砂は前後左右どこにでもあるから、めんどくさい。少年は右手をシュッシュと動かしているだけで、涼しい顔をしている。

むかつくなぁ。火産霊‼︎早くしてよ‼︎

『すまん。燈火。策が思いつかない』

「……どうするんだよ‼︎もう集中力が限界だぞ‼︎」

『だから、謝ってんだろうが‼︎取り敢えず、隙をみて突っ込む』

あぁもう‼︎

ぎりぎり避けられるものの、無数の弾丸に、少しづつ体力を削られる。何度目かの回避をした時、砂に脚を取られて態勢を崩した。

もうだめだ。

『燈火‼︎』

火産霊と心の声が重なる。その時、バチバチッ、と音がして、砂の弾丸を何かが弾いた。前を見ると、ボクと同じくらいの高さの壁があった。

『なんだ⁉︎』

火産霊がやったんじゃないの?

『俺にそんな力はねぇ』

じゃあ誰?

疑問符が飛び交う中で壁は崩れて消える。壁がなくなり、見えた少年は、目をパチクリさせていた。

「どうして、そんなことできるだべか?」

「しらないけど」

「「……………」」

『すきありだ。燈火。』

言われて思い出した。少年に向かって、全力で走る。

「まぁ、いいだべ」

少年は右手を下から上に動かす。それに合わせて、球状になった砂が無数に現れる。

この速さじゃ避けきれない。止まるか?

『避けるな‼︎』

なんでだ?

また、疑問符がでたが、そのまま突っ込む。

当たる‼︎

そう思った時、突然小さな正方形が目の前に広がり、その正方形が弾丸を全て受け止めた。

「なんでだべ⁉︎」

少年から、驚きの声が漏れる。火産霊は、笑いながら言う。

『神様が俺たちに味方してるみたいだぜ』

人間好きの神様もいるんだね。

少年が刀の届く範囲に入った。刀を大きく振りかぶる。少年は硬直している。

『斬れ‼︎』

「おりゃあぁぁあ‼︎」

少年の左肩から、右脇腹にかけて赤い線が走り、痛みのあまり呻く。

『まだ足りねぇ‼︎もう一発‼︎』

「ていやぁぁ‼︎」

今度は、少年の右脇腹から、左脇腹に横一筋に斬る。少年は呻くことはなかった。ただ、ボクを見ていた。ついさっきまでとは比べ物にならないくらいの殺意がこもった目で。

体が動かない。怖い。

殺される。

少年の右手が上がった。

早くしてくれ…!!

砂が静かに浮き上がる。

早く‼︎

『転‼︎』

その声が聞こえた瞬間、体が温かい何かで包まれたように感覚になった。視界が白い光に覆われていく。そして、意識が途切れた。


「ふぅ〜危ない危ない。あの子死ぬところだったよ。思ってた以上に非力だったね。あいつにやられかけるようじゃまだまだだ。でも、途中で感じた気はなんだったんだろ」

ぶつぶつ呟きながら、青白い光は螺旋を描き降下していく。そして、砂浜にいる黒髪の少年の顔の周りを二周ほど回ると、ピタッと止まる。少年は、驚いたような顔をして、サッと跪くと尋ねた。

「あ、貴方様のようなお方が何故ここに?」

光が答える。

「僕がどこにいてもいいだろ。それより、次にあの子がここに来たら、手を出さないでくれ」

「何故でございますか?人間は、我々神からすれば、下等な種族です。それを殺して何が悪いのですか?」

「なら、ここで僕がお前を消してもいいんだな」

急に少年の顔色が悪くなる。

「申し訳ありませんでした。私のようなものが貴方様に口答えなど…」

「そうかしこまるな。別に消す気などないさ。そんなことしたって僕は得しないからね。要は、使える人間もいるってことだ。あの子は僕にとって使える人間だからね。くれぐれも手は出さないでくれよ」

「仰せのままに」

その言葉を聞いた光は、どこへともなく飛んで行った。


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