目的の地
雲ひとつない空に、陽は高く登り、地上を照らしている。
「かたい…」
燈火は、川原に座り、町長からもらった干し肉を食べていた。川が陽の光を受けて、きらきらと輝き、とても綺麗だった。今は、町を出て3日目の昼、山を2つ超えたところだ。町長からもらった食料は、底をつきかけていた。そろそろ狩りでもしないとな、そう燈火は考えながら、干し肉を食べきった。燈火は、川の水を水筒に汲み、荷物を風呂敷にまとめて包み、肩からかけると川の下流に向かって、川沿いを歩き始めた。
歩き始めてから、3時間は経った頃。遠くに海が見えた。それから、約1時間後には、砂浜に着いた。島が見えるのではないか、と心を高ぶらさせた燈火だったが、その気分に反して、視界の先には霧が立ち込めていた。
「まずは、港を探さないと…」
そう言って、辺りを見渡したが、建物の影も人の気配も無かった。しょうがない、と燈火は海沿いを北上し始めた。砂に足をとられ、体力の消耗が激しかったが、陽が暮れる前には、村を見つけることができた。とても小さな村だった。さすがに、砂浜に家は建てられておらず、海から、100mほど離れたところに建てられていた。やはり、漁が盛んなのか、どの家にも軒下には舟が立てかけられていた。燈火は、宿屋はない、と判断して灯の付いている家を訪ねた。
「すいませーん。」
扉を叩き、そう言うと、家の中から人がでてきた。でてきたのは、恰幅の良い、中年の女性だった。女性は、
「なにかようかね。こんな遅くに。」
と、少し嫌そうな顔をして出てきた。
「今晩だけでいいので、泊めてもらえませんか?」
と、燈火が聞くと、
「いいよ。」
と、低い声で答えた。燈火は、嬉しかったが、女性の雰囲気の暗さに、喜びきれず、
「ありがとうごさいます...」
としか、言えなかった。
家の中は、意外と綺麗だった。一人暮らしなのか、食器棚の中には、一人分の食器しか入っていなかった。広い部屋の真ん中に、大きくて丸い机が、ドシッと構えていた。机の周りに、いくつか椅子が等間隔に置かれている。そのうちの一つに女性は腰掛けると、足を組み、
「名前は?」
と、やはり低い声で燈火に聞いた。
「柊燈火です。」
「ヒイラギトウカ?へんな名前だね。あたしゃ、ベルっていうんだ。よろしくね」
「は、はい。ベルさん」
燈火は、少し戸惑いながらも、ベルに事情を説明し、天ノ島に行きたいことを伝えた。すると、
「それなら、明日にでも、うちの前のマキってやつの家に行ってみな。あいつは、いい漁師だから、きっと島まで連れてってくれるよ」
と、教えてくれた。
次の日の朝、燈火はお礼を言って、ベルの家を出た。ベルの家の真向かいにある、マキの家を訪ねた。マキは、ベルとは違い、活発な男性で年も若かった。そして、快く天ノ島に連れて行くことを了承してくれた。
「おーーい。赤髪の兄ちゃん。見えてきたぜ。あれが、天ノ島だ」
マキの声を聞いて、燈火は進行方向に目を向けた。そこには、とてつもなく大きな山があった。山は、綺麗に左右対称だ。燈火は息を飲んだ。その山は、燈火が今まで越えてきた、どの山よりも高く、美しかった。マキは、島の砂浜に船をつけると、
「用が済んだら、この笛を吹け」
と言って、小さな筒状の笛を渡した。燈火は、それを受け取ると、
「わかりました。ありがとうございます」
と、お礼を言って、元来た道を進んでいく、船とマキを見送った。そして、火産霊をポンッと叩くと、
「よし」
と言って、山の頂上に向かって歩き出した。
周りを見渡しても、何もない。なぜなら、今、いる場所よりも高い所がないからだ。暇だ、そう言って、青白い光は、少し揺れた。少しして、おっ、と何か見つけたように、青白い光は、少し大きくなった。そして、ようやくおいでなすったか、と、ふざけたように言うと、パッと、今までいた所から消えた。