昔の話
あれはいつだっただろうか。
ボクの街が燃えたんだ。
なぜかはわからない。
街の建物全部が燃えた。
ボクの街は『街』って言うだけあって結構大きかったんだ。
山の上にあって、水源もあった。
訪れる人も多くていろんな人と触れ合った。
でも、ある日全てがなくなった。
急に街が炎に包まれて、街の人が狂った。
お父さんがお母さんを殺した。
お父さんは隣の家のおじさんに殺された。
狂ってない人も中にはいたけど、みんな殺された。
ボクには10歳ほど年の離れたお兄ちゃんがいてね。
ボクのお兄ちゃんは、ボクをつれて逃げてくれた。
襲って来る人たちをお兄ちゃんは、持ってきた包丁で泣きながら殺していった。
ボクはただ泣いてるだけだった。
今思うと随分と足手まといだったと思う。
それでも、お兄ちゃんはボクをつれて逃げてくれた。
もうすぐ、待ちから出られる。
ボクもお兄ちゃんもそう思った瞬間、何かの風圧でお兄ちゃんとボクの体は中に浮いていた。
起き上がった時、赤黒くておおきな何かと、お兄ちゃんが向かい合ってるのが見えた。
お兄ちゃんは、ボクに逃げろって言った。
二人とも死ぬ必要はないって。
ボクは死にたくないと思った。
思ってしまった。
ボクはお兄ちゃんに何も言えなかった。
こわかったんだ。
それからは、後ろを振り向かず、走り出した。
涙が溢れた。
足がもつれた。
それでも走った。
ボクの母方のおじいちゃんの家が山を一つ越えたところの麓にあってね、そこまで走った。
半日は走った頃にやっと着いた。
本当はもっと短かったのかもしれないけど、その時にはそれくらいに感じたんだ。
3日は寝込んだ。
その後おじいちゃんに、少しずつだけど事情を説明した。
言葉を紡ぐごとに涙がでた。
お兄ちゃんではなく、自分の命を選んでしまったことが情けなくて仕方なかった。
強くなりたいと思った。
自分も人も守れるくらい強くなりたいと思った。
おじいちゃんに、土下座して頼み込んだ。
強くしてくれってね。
運がいいのか、おじいちゃんは普通の人よりは何倍も強かった。
そこから五年は修行と雑用の日々だったよ。
おじいちゃんにも、模擬戦では三回に一回ぐらい勝てるようになった。
そんな時におじいちゃんが倒れてね。
近くに医者なんているわけないし、何もできなかった。
死に際におじいちゃんは喋ってくれた。
街が焼かれたのは、神様の仕業だってこと。
衝撃を受けた。
みんなに恩恵を与えるはずの神様が、なんでそんなことをするんだってね。
あと、いつもおじいちゃんが拝んでた刀をくれた。
おじいちゃんが死んだあとはお墓を建てた。
なぜだか、涙はでなかった。
でも、感謝の気持ちが溢れ出して、なんども、なんども、なんども、ありがとうって言った。
そして、旅に出たんだ。
ごめんね。つまらない話して。と、愛刀【おじいちゃんが拝んでいた刀】の火産霊をポンッと叩く。
話してくれてありがとう。と言われた気がした。
そして、深い眠りについた。