盗賊のアジト
「つきましたよ。ここが僕の町です」
盗賊集団に襲われた後、その盗賊のリーダーである餅男に盗賊のアジトに案内された。
襲われた地点から、30分ほど歩いた所だ。
流石は盗賊のアジトで、滝の裏や洞穴の中を通り抜けてやっと辿り着いた。
「すごく広いですね。どのくらいの人がいるんですか?」
「24人ですね。僕も含めて」
この広い土地に24人⁉︎
『ずるいな』
すごくと言えるだけあって、アジトは広かった。貿易で大成功した街くらいの大きさだった。きちんと道が整備されているわけではなかったが、しっかりと踏み固められたいい道だった。
「これだけの土地に、24人は少なくないですか?」
「そう思うよね。もともとは103人居たんだよ」
それくらいいてもおかしくないな。
「だけど、敵対する盗賊団に殺されてね。24人まで減っちゃったんだよ」
敵対する盗賊団だってさ。火の妖精とかかな?
『水の悪魔とかだと思うぞ』
「そんなに強いんですか?その盗賊団は」
「強いよ。少数だけどね。10人くらいだったかな?」
「盗賊団の名前とかあるんですか?」
「あぁ、あるよ。盗賊団・斬」
「ザン?それだけですか?」
「うん。それだけだよ」
微妙だよ。
『そうか?かっこいいと思うぞ』
頭おかしいんじゃないの?
『あぁ?』
なんでもないよ。
その後、餅おと、じゃなくて、餅米さんはボクが泊まる部屋に案内してくれた。
最後まで医者に診てもらわなくてもいいか、と心配されたが、丁重に断った。
「ふぅー。疲れた」
そう言いながら、仰向けに部屋の床に倒れる。
しばらくの間、寝泊まりすることになるであろうこの部屋は、床は畳になっていて、窓は1つというとても質素な造りとなっている。
『燈火、あんまり気を抜くなよ。助けてくれたと言っても盗賊だ。なんで、助けてくれたかもわからん。しかもお前は、疲労が抜けきってねぇ。下手したら刺されるぞ』
わかってるよそれぐらい。
でもまぁ、今日のところは寝るよ。
おやすみ。
『おい。待て、待てってば、お…』
火産霊の声が遠のいて……そうやってボクは眠りに落ちていった。
「ふわぁぁあ」
朝起きて、正確には昼起きて部屋を出ると、部屋の前には1人の少女が座っていた。あぐらをかいて目をつぶっている。
年は15歳くらいで、それほど長くない黒髪を後ろで結んでいる。座っているので、身長はわからないがボクより低いくらいだろう。
『誰だこいつ?』
ボクにもさっぱり。
起こしてみる?
『早くしろ』
少女の両肩を掴んで、大きく揺らす。
「おーい。おーい君。おーい」
なんだか、前にもこんなことあった気がする。
『気のせいだろ』
しばらく続けると、突如少女の目が見開かれた。ばっと立ち上がって、ボクの足先から頭の先までを舐めるように見る。見る。見る。見る。見る。見る。
『しつこい』
ボクが?
『どっちもだ』
わかったよ。
「き、君だれ?」
「…………」
「聞いてる?」
「え?わたし?」
「君以外に誰がいるの?」
そう聞くと、少女は不思議そうに辺りを見ると、
「いないみたいですね」
当たり前のことを呟いた。
「で、君だれ?」
「わたしは夜」
「夜?それだけ?」
「はい。それだけですが、だめですか?」
「だめではないけど、なんというか…」
『微妙』
うん。正解。
「いい名前だね」
取り敢えず褒める。
「よく言われます」
ほとんどお世辞だろうな。
『そうでもないかもしれないぞ』
なんで?
『なんとなく』
あてにならないね。
「何か用があるの?」
「あ、はい。わたしのお姉ちゃんを助けて欲しいんです」
「お姉ちゃん?拉致でもされたの?」
「拉致ではないんですけど、とらわれの身というか、操り人形というか…」
「とにかく助けて欲しいと」
「はい」
ここにいるってことは、盗賊団の団員。生き残ってるってことは、かなりの手練れかな。で、餅米さんじゃなくてボクを頼ってきたところを見ると、姉の存在はバレると困る。
「とにかく中で話をしよう」
要約するとこうだ。
夜の姉は斬の一員。しかし斬の団員に水の妖精の団員とのつながり、つまり、夜と姉妹であるということがばれ、処刑されそうになっているらしい。なぜそのことを夜が知っているのか、と聞くと、姉妹ですから、と笑顔で答えられた。火産霊は意味がはわからないと嘆いていた。
「それでボクたちはどうすればいいの?」
「ボクたち?お仲間がいるのですか?」
あ、しまった。
『何やってんだバカ』
何がバカだ。お前がいるせいだろ‼︎
『なんで俺のせいだ』
「あ、ごめんごめん。前に仲間が居たんだよ。もういなくなったけどね」
「そうだったんですか」
なんとか信じてもらえたみたいだった。
「話がそれた。それでボクはどうすればいいの?」
「さっき言った通りです。姉を救出してください」
『わかりやすい、しかしだ』
「それをしたとして、ボクに利益はあるの?」
これでいい?
『大方はあってるよ』
夜は少し困った顔をして、
「わたしはあなたを助けることができる」
と、答えた。その目はあまりにまっすぐで、嘘をついているようには見えない。
「なにから?」
「この盗賊団から」
「この盗賊団はボクの敵?」
「少なくとも味方ではないと思います」
信じるかい?
『好きにしろ』
じゃあ信じようかな。
「ボクは盗賊に襲われるわけかな?」
「おそらく」
「それから君が守ってくれると」
「はい。わたしまぁまぁ強いですよ」
「じゃ、よろしく頼みます」
だが、しかしだ。わざわざなんの利益も生まぬであろうこのボクを、アジトに連れてきたからには、それ相応の理由があるだろう。なかったとしたら、それはそれは良い人たちだったというだけの話。でも、今の情報によるとボクを襲うらしい。それでなんの得がある?
『考えたらわかるだろ。あいつらはお前を仲間にしたいんだよ。人数が減ったって言ってただろ?』
あーなるほどね。
『だから俺はこの女のことは信用できないが。お前が信じたんならしょうがねーな』
先に言えよ。
「では、契約成立ということで 」
夜は微笑んだ。
「斬のアジトは突き止めてあります。案内するので、3日以内には襲撃をかけて、お姉ちゃんを救出してください」
ついてきてください、そう言って立ち上がった夜についていく。
水の妖精のアジトから抜け出し、ひたすら山道を歩く。
もう、帰りたい。
質素な部屋が恋しくなるほど歩いた頃。
夜が伏せた。ボクもそれにならう。
目の前は崖になっていた。
「あれを見てください」
指を差されて見てみると、森の中に少し変色した部分があった。森の中でその部分だけ木がないのである。
『さっきのより小さいな』
うん。
「あそこが斬のアジト?」
「そうです」
「あそこに殴り込めばいいと」
「はい」
「じゃあ行ってくるね」
「はい。え⁉︎ちょっと、なに言って」
立ち上がって、崖から飛び降りる。
このまま着地してはさすがにまずいので火産霊を抜き放ち、岩肌にぶっさす。
ガリガリガリッと音を立てながら、岩肌が切れていく。
『酷使しすぎだボケ‼︎』
これくらい切れるでしょ?
神様の技より、硬くないよ。
無事に着地を済ませると、アジトがあった方へ走る。無数に生えている木を当たらないように避けて進む。
「前方に木の柵発見‼︎排除します‼︎」
『勝手にどうぞ』
木の柵を切り倒して中に入る。
広場のようなところに出ると、あからさまに処刑されそうな人がいた。
丸太に磔にされているのだ。たぶん女。あれが、夜の姉だろう。
近寄って話しかけてみる。
「ごめんください。夜さんのお姉さんでいらっしゃいますか?」
たぶん夜の姉である女は戸惑いつつも、
「あぁそうだ」
と答えた。
「では、お助けいたしまーす」
縄をほどいて、解放してやる。
では、逃げようか。
しかし、夜の姉が見当たらない。どこだろう。あ、いた。
『あ、いた。じゃねーだろ。お前おそわれてんぞ?』
嘘?
『ほんと』
気づけば、ボクはこかされて夜の姉に馬乗りになられていた。首元にはクナイのようなものがあてられている。ひんやりと冷たい。
どうしたらいい?
『動くな』
それだけ?
『それだけ』
「お前、斬の一味のものか?」
迫力のある声で聞かれる。
「いいえ。ちがいます」
そうか。俺を処刑しに来た人だと思っているんだな。誤解を解かねば。
「あなたを助けに来たんです」
「ふっ。自分から自白するとはな。お前が斬の一員だということはよくわかった」
なにその解釈‼︎
『なるほど騙されたわけか』
え?ボクが?
『そうだ』
「親分、捕まえました‼︎」
夜の姉(仮)がどこへともなく叫ぶ。すると2、3人ほどの気配がボクに近づいてくる。ジャリッジャリッと砂を踏み鳴らす音が止んだ時、ボクの顔を誰かが見下げていた。逆光でよく見えないが、ボクを凝視している。
「よくやった」
そう言って、誰かは視線を夜の姉(仮)に移した。誰かの顔が太陽の光にあたり、さっきまでは影でしかなかった部分に肌が見え始める。ようやく顔の全体像がつかめた時、ボクは思わず叫んだ。
「餅米さん⁉︎」