6話
ロミール様とコミット様が人気キャラなのには理由があります。
ずばり、『イケメンな人間が彼ら二人しかいない』からです。
『蒲鉾で恋をして』は前衛的な乙女ゲームとして有名で、登場人物はほとんど練り物でした。
もしかしたら画像の出てないモブキャラは練り物じゃないかもしれない、と思ったのでコミット様と同じように『学園には人間ぐらいいるだろう』と思っていたのですが……どうやらここはコミット様以外人間はいないようです。
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「もうやだ。おうち帰る。パパに会いたい。お兄ちゃんに会いたい。ママに甘えたい。メイドのアイーダちゃんと結婚したい」
学園の食堂。コミット様が力なくそう呟く。口調が子供返りしている。
「あらあら、ホームシックですか? コミット様も可愛いところがあるんですね」
「違えよ、『マジで逃げたい』って本能だよ!! こんな狂気的な所に居たい人間だなんているわけねーだろ!?」
「私は結構居たいですよ?」
「そりゃそーだよなっ! お前人間じゃねーもんっ!!」
「とにかく3年の辛抱ですよ。そうすれば王子も立派な食べ物になれますって」
「人間じゃ無くなれって言いたいの!? うああ、もう嫌だ、こんな所! 規則とか知ったこっちゃない、とっとと帰るぞ!!」
「それは無理ですよ。この学園は警備が厳しい事で有名です。ちゃんと申請しないと脱出は不可能ですよ」
「なんだよ、そんなんもはや刑務所じゃねーか!? いや、刑務所のがマシだ! 人間いるもんっ!」
「まぁまぁ、ここは慣れれば良い所ですよ、ご飯もおいしいですし。ほら見てください、あそこでカレーライスが麻婆豆腐をおいしそうに食べてますし、ミートスパゲティがざるそばをチュルチュルすすってますし、あそこではもんじゃ焼きがチョコレートアイスを……」
「見れるかあっ!? そんなん見てたら正気度下がるわっ! 弱肉強食の法則にもっと従えよお前らあああああああ!!」
「やぁ、元気そうだねそこの二人」
すると、私達の元に魚肉ソーセージ先生がやってきました。
「あら、魚肉ソーセージ先生。何の御用ですの?」
「困ってる生徒がいるなら助けるのが僕たちの役目だからね。そこのコミットくん、大層困っているだろう?」
「……原因は大体あんた達なんですけど」
「とにかく、友達作りに困ったらいつでも相談していいよ。ほら、この魚肉ソーセージは僕の奢りだから食べてもいいよ」
「魚肉ソーセージが魚肉ソーセージを奢るんかい!? 共食いかよ!?」
「さ、コミット様。一気に魚肉ソーセージを2本ともかぶりついてくださいな」
「……さりげなく先生も喰えと!? いやいやいやいや、喋るソーセージ喰う気なんてさらさらないぞ!?」
「なぁに、喋る食べ物を食べるのは友好の証だから気にしなくていい。この間もハバネロくんとブートジョロギアくんが『辛いからもう2度と口にしたくない』と言いながら互いを完食しあったらしいよ」
「逆に仲悪くなってませんか!? というかどうやって互いを完食したの! どっちかが完食したらお終いでしょ!?」
「食べ物は完食しても工場を経て復活するから別に問題はないよ」
「量産品なの喋る食べ物って!? というかハバネロとブートジョロギアって、工場と言うより農場の物だろ!?」
「と、いう訳で一思いに食べてくれ。さあ、王子のちょっと良いとこ見ってみったい! いっき! いっき! いっき!」
「飲み会か!? とにかく食べるわけねーよ、今まで喋る食べ物食べたことなんてないし!」
「あら、ありますわよ? 確かコミット様の11歳の誕生パーティにセバスチャンさんが食べさせたシフォンケーキがケーキ家のご令嬢だったと聞いておりますわ」
「え、あれ喋る食べ物だったの!? というかセバスチャン何こっそり私にそんな危険な物食べさせてるんだよお!?」
「さ、いっき! いっき! いっき!」
「男は度胸ですよ、コミット様。いっき! いっき! いっき!」
「喰わねえ、食わねえ食わねえ食わねえぞおぉっ!! お前らなんかに屈しないからなっ! うわあああああああああっっ!!!」
それから1か月ほど、コミット様は自室に引きこもりました。