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3話

「うわぁ、すごい綺麗!」

 私は庭園へとやってきました。そこでは何色もの薔薇が数えきれないほど咲いていました。

「すごいですね、コミット様。こんな庭園、見たことありません!」

「……」

 ワクワクしている私とは対照的に、コミット様は死んだ魚のような眼をしています。

「凄い良い香りがしますね。ほら、コミット様も嗅いでくださいよ!」

「……お前のどこに鼻があるんだよ」

 私が香りを楽しんでると、コミット様が力なく私にツッコミをしました。

「殿下、カニカマボコ様。お茶のご用意が出来ました」

 すると一人のメイドがティーカップとティーポットを持ってやってきました。そしてそれらを庭園の中央にあったテーブルに置き、ティーカップに紅茶を丁寧に入れました。

「あ、あぁ。ありがとうアイーダ。頂こう」

 コミット様はメイドに礼を言い、椅子に腰かけました。

「私も頂きますわ」

 私もコミット様と同じく『椅子に腰かけ』『ティーカップを手に取り』『一口紅茶を口にしました』。

「……いや待て、今カニカマボコが絶対にできない3つの行動があったぞっ!? どうやってやったの!?」

「美味しい紅茶ですわ。これはチャーバ地方の紅茶ですわね? さすが王家、入れ方も丁寧で豊かな香りと甘みを感じますわ」

「話を聞け! と言うか食べ物のくせに紅茶詳しいな!?」

「公爵令嬢ですもの。これくらい嗜んで当然ですわ」

「カニカマボコの令嬢に『当然』とか言われたくねーよっ!」


「……さてコミット様。今回の婚約の件についてですが」

 私は話題を切り替えます。

「う、うむ?」

「私、予感がしますの。王子には私よりもふさわしい方が現れるって」

「ま、まぁそりゃそうだよな。……人間の方が明らかにふさわしいからな」

「ですから、もし王子がそういう方を見つけましたら先ほども言いましたように私との婚約を破棄して頂いて構いません」

 私は改めて、婚約破棄を申し出た。王子から申し出るのではなく、私から申し出た方が悲惨なストーリーになる可能性が抑えられると思ったからです。

「ほ、本当か!? やったーっ!」

「ですが問題はお父様たちですわ。あの様子だと、積極的に婚約を推し進めてくると思いますわ」

「いや、そんなの私が絶対説得するからっ! カニカマボコなんかと結婚するくらいなら、地に頭付けてお願いする方がよっぽど良い!」

「……さりげなく私を貶してませんか?」


「おや、ここにいたかコミット」

 私達が会話していると、庭園の入り口から一人の男性が入ってきました。

「あ、兄上!」

 兄上……そうか、この人はロミール・アル・ノーマン様。コミット様の兄であり、王家の第一継承者。

 ロミール様自体は攻略キャラではなかったですが、諸事情があって他の攻略キャラを超える人気を誇ったキャラだったはずです。

「兄上、どうしてここに?」

「コミットがここにいるとセバスチャンに聞いたから、ちょっと立ち寄っただけだよ。おや? そちらのお嬢さんは……」

「え、兄上何でこの食べ物がメスってわかったんですか……?」

 ロミール様は私の方へとちらりと視線をやりました。

「初めまして、ロミール様。私、カニカマボコと申しますわ」

「あぁ、コミットの婚約者だね。綺麗なお嬢さんだ」

「あ、兄上、違います! 婚約者なんかじゃ……というか綺麗って、どこが!?」

「綺麗じゃないか。私のフィアンセも綺麗だが、その子もとても可愛いじゃないか」

「あ、兄上何言ってるんですか! カニカマボコですよ!? カニカマボコの評価基準なんて『可愛い・可愛くない』じゃなくて『おいしい・おいしくない』か『カニっぽい・カニっぽくない』ぐらいでしょう!?」

「失礼だぞ、コミット。彼女はカニに似て可愛いじゃないか、嘘はいけないぞ」

「『カニに似て可愛い』って、ペットの評価にしか聞こえないですよ!? なんでカニっぽい女性と結婚しなきゃいけないんですか私は! いや、カニっぽくても人間なら結婚できますけどね!?」

「かく言う私のフィアンセもエビカマボコでね。エビに似て可愛いんだ」

「……!? 兄上、それ初耳っ! なんで王になろう兄上まで食べ物と結婚しようとしてるんですか!! しかも兄上まんざらじゃないし!?」

「……本当に失礼だな、コミットは。これは家庭教師にさらに礼儀作法を叩きこませるようお願いしたほうがいいようだ」

「いや、礼儀以前の問題っ! 王家の家系に加工済みの食べ物が混ざるとかとんでもありませんよ!?」

「とんでもなくはない。遠い国ではすでに何人も王家が練り物と結婚しているそうだよ」

「滅びるぞそんな国!? この国も一歩手前だけど!」

「まぁとにかく、カニカマボコちゃん。コミットをよろしく頼むよ」

 ロミール様はそういうと、そそくさと立ち去って行きました。

「ま、待って兄上! 話は終わってな……!」

「行っちゃいましたね」

「さ、最悪だ……。父上に婚約破棄の説得だけでなく、兄上の婚約破棄の説得もしなければならないとは……」

「大丈夫ですよ。きっとエビカマボコさんも良いお姉さんになりますよ」

「食べ物が姉になった時点で大丈夫じゃない! くそおっ!」

 そう言って、コミット様は持っていたティーカップを放り投げました。

 何を怒っているのでしょう。私、何か失礼な事言ったかしら……。

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