第二話 親父は只者ではない
一年半の月日が流れようやくこの体もどんどん動けるようになってきたし
話しても不自然ではなくなってきて、非常に嬉しい。
話せないこの一年半は苦痛だった。
恐らく、話すこと自体は出来たけれど、両親に不審な目で見られたくないし
自分も両親のことが好きだ、だから出来ればこの二人には俺のことは知られないほうがいいと思ってる。
それに、この二人は俺にはめちゃくちゃ甘い、とにかく甘いのだ。
手が上手く動かなくてこぼしても、興味本位で物を分解してみても少しは怒るものの激怒したのは見たことが無い。
でも、本当の俺の事を知ってしまったら絶望するかもしれないし、忌避するかもしれない。
それだったら知らせないほうがいいに決まってる、絶対にそうなのだ。
この一年半は出来るだけ、情報収集に当てていた。
といっても動けない上に喋れないので基本は盗み聞きか盗み見になってしまうのだが
それでも、少しはわかった事がある。
まず魔法に有無についてだが、魔法は存在するようだ。
実際に両親が使っているのもみたので間違いない、体が光り輝き魔法を実行していた。
魔法を使った後、親父も自慢げにこちらをみていたし恐らくはすごい技術なんだろう。
しかも、そのあと母親にも怒られていた、、、危ない技術でもあるようだ。
それから、時々両親につれられて外に散歩にもいったのでこの村のことも少しはわかった。
ゴルド村というらしく、親父はここの自衛団団長らしい。
武芸にも優れていて魔法の才もある天才のようだ。
実際、村を歩くと色々な人が尊敬の眼差しを向けていた。
そんなこんなをしながら、俺が始めての言葉を話す日が来たのだった。
「ギュスくーん、どうしたの?難しい顔してーかわいいわねー」
「ま、、、ままー」
「ギュスくん?今なんて?もう一度言ってみて!!」
「ママー」
「た、たいへん!あなた、、、ギュスくんがママって、ママって言ってるわ!!!」
「そ、そうだな。でももうギュスだって1歳半だ喋り始めたって普通じゃないのか?それよりパパっていってみてくれ、ギュス」
この顔でパパだって?・・・なんてやつだ
「、、、」
「な、なんでそんな嫌そうな顔するんだよ。俺の息子だよな?」
「あなたね、それはいくらなんでもないんじゃない?あなたの顔が怖いだけよ!ね?ギュスくん」
その通りだ、その自由の人もお手上げの顔をして、パパだなんて恐ろしい。
「ママー」
親父が悔しそうな顔をしながら、こちらを睨んできている。
もらしそうになるからやめて!!仕方ないな、、、
「パ、パパ?」
「そうだぞー!ギュス、俺がお前のパパだぞお!」
親父もめちゃくちゃ嬉しそうでよかった。正直睨まれるとひとたまりも無い。
怖すぎてもらしちゃいそうになる。もらしてるけど、、、
そうして、俺が話すようになってからは良く親父が自分の冒険談を話しに来るようになった。
「ギュス!良く聞けよ、俺はな昔は紅刃のダリウスって名前で通っていたんだよ」
「こうじんのだりうす?」
なんだそれ、めちゃくちゃ中二じゃないか、、、かっこいい。
「そうだ、まぁ俺とかあちゃんは、こう見えて伝説の冒険者パーティーの一員なんだよ」
「パパとママすごいの?」
「あぁ、各地にある迷宮をいくつも攻略したんだよ!ママがピンチの時は必ずパパがこうやってきてだな、、、」
そこから一時間は親父によるかっこよかったシーン抜粋のお話だ
ようするに、両親は元伝説の冒険者で現在は隠居生活をしているらしい。
親父は,速度強化系魔法の達人だったとのこと。
すばやく敵を倒しまくる親父の姿は容易に想像できた。
しかし、自分の息子にいい格好したいからといって話を盛りすぎだろう。
伝説のというよりは、極悪のほうが近いし、母親を見る限り
どう考えても、父親が助けられていたに違いない。
でも、ベテランっぽい風格といいなんとなくだけど冒険者って言うのは納得がいった。
しかし、なんで母親は冒険の話をしないんだろう。
そんなことを思いつつ、春を迎えた。
なんと、この地域は気候がよく四季があるようだ。
桜のような木もあ、、、違うな、、、桜のようなゴドリスもあるし
桜吹雪が起きる事だってあったくらいだ。
うきうきとした母親が花見をしに俺と散歩いったのは今でも印象に残っている。
しかし、春には問題はあった。
暖かくなると同時に魔物の活動が活発になるらしい。
冬眠するのかどうかはわからないけどきっと暖かさで目が覚めてお腹を空かして襲ってくるに違いない。
そして、この季節になると親父は忙しくて家にすらほとんど帰ってこなくなるらしい。
実際のところ、ここ二日は目にしていないし本当に忙しいようだ。
自衛団は基本的に、ボランティア集団の集まりらしく給料が出ない。
その代わりに、狩った獲物は好きにしていいとのことらしく、この期を逃すまいと、親父は奮起しているそうだ。
自衛団の副長さんとおぼしき人物と母親が父親のことを話していたのを盗み聞きしたわけだ。
まぁ普通に玄関で話していただけだけど。
また、面白いことも聞いた。
この世界には技能と呼ばれるものが3つあるらしい。
魔法、武技、神道だ。
3つの中身についてはまだ聞いてないし、聞こえてもこないけど
3つの派閥があって、その3つの派閥は争いを続けているようだ。
宗教ような雰囲気でお互いを許容していないようにも見える。
ちなみに、両親共魔法を使う魔法使いだったらしい。
母親と散歩したり、母親と遊んだりしていたらいつのまにか一ヶ月が過ぎていて
親父がようやく帰ってきた。
人が5人は入れる大きさの袋を抱え、手にはひとつ街でかったであろう
包装紙に包まれた小さな四角い箱を持っている。
母親にプレゼントとは気の利く男だと感心した。
「ギュス、アニエス帰ったよ。これは、ギュスにだぞ。アニエスにはこの大きい獲物をプレゼントだ」
「まぁまぁ、今年はすごかったのねぇこのあたりでこの大きさなんて」
そういうと、やわらかい笑顔で俺に、プレゼントを渡してきた。
「パパーあけていー?」
「おう、あけなさいあけなさい」
包装紙を丁寧にはずすと、箱からはひとつ
小さな手のひらではもてないほどの大きくて綺麗な虹色の宝石が出てきた。
「なにこれ…すごい…」
「そうだろう、すごいだろう。これは虹水晶といってな、かなり珍しい石なんだよ」
「あらあら、それは虹水晶じゃない、でも虹色に光ってるって事はそういうことなのねー」
「うむ、魔法使いの素質があるということだな。少し安心した」
「ふふふー、心配性なのねー私達の子供なんだから大丈夫よー」
「パパ?ママ?」
「なんでもないぞー気にしなくてもいいからな」
そういうと二人とも大きい袋から大きな肉を取り出して、調理台のあるほうにはこんでいっただった。
恐らく、さっきの話を聞く限りこの虹水晶とやらは魔法使いの素質を調べるものだったらしい。
でも、こういう世界に来たんだ、せっかくだし魔法は使いたいと思ってたから今からワクワクしてとまらない。
そうして、自らの成長を楽しみにしながら過ごしていると、3年と4ヶ月の月日はすぐにたち、5歳の誕生日を迎えた。