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心臓の行き先

作者: 極冷

トリニトロトルエン(C6H2CH3(NO2)3 )

 ある朝、喫茶店であずさはふと心臓移植をおこってから自分がブラックコーヒーばかり口にしていることに思いつく。気持ちのいい朝で小鳥が狭い都会の木々に隠れてさえずり、日差しは窓から少し離れたところにあるあずさのテーブルまで射しこんでいた。

 あんなに楽しみにしていた学校ももはやどうでもよかった。高校を休学するとき、仲の良かった友達と文化祭までにはもどってきて一緒に喫茶店のウェイトレスをやろうと約束をしたり、頻繁にメールで連絡を取っていたのだが、今送られてくる友達から送られてくるメール返信を義務付けられた苦痛のメールでしかない。それもあずさを学校から遠ざける一つの理由だった。

 学校をやめたら一体何をしよう。私は何がしたいんだとあずさはため息をもらす。

 自分の一部をくりぬいて他人の一部を埋め込んだその違和感が一時的に無気力にさせているのか・・・。

 本を読む振りをしながらずっと考え事をしているとしだいに太陽の光はあずさのもとを離れて、小鳥の歌声はフェイドアウトしていく。

 自分と自分じゃないもののあいだをなんとか埋めたくてブラックコーヒーを飲み続けるがそれはただ食道を通って胃に収まるだけだった。

 本をバッグになおして立ち上がる。平日の朝は時間がゆっくりと流れる。あらゆる人が忙しく働いたり、勉強したりして社会の歯車として活躍している。あずさの身体も皮膚や臓器、神経や血液、あらゆる身体を構成する物質が歯車に組み込まれてその本体を動かす。しかし、本体は何の目的も持たずふらふらしている。まだ療養中だから、と彼女は思う。

 自分の心臓は一体どこに行ってしまったのだろうなどと無意味なことに思いを馳せながら喫茶店の出たあずさはどこにいけばいいのか思いつかなかった。まだブラックコーヒーが飲みたりなかった。


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