生還したら通報された
六日目。ようやく、俺は元の場所に辿り着いた。
初日に罠に掛かって逆さ吊りになった場所に、戻って来れた。
森の出口が見えてホッとしている。
紅いクマさんを倒し、木の実が生っている木に登った。
赤紫色で、リンゴ位の大きさの木の実【レパルの実・食用】を摘み取り、道具袋にあるだけ入れた。
レパルの実を齧りながら、森の中を歩き始めた。
空腹が落ち着くと、自然と足取りも軽くなる。
武器屋で買った凄い剣は、クマさん達を散々斬ったので切れ味が落ちていた。
紅いクマさんを倒すと、切れ味が無くなってしまった。
武器や防具は道具袋に入れる事が出来ないので、腰に装備している。
紅いクマさんを倒してから、クマさん達との遭遇率が多くなっている。
一匹や、二匹なら、殴り倒して終わるので、いいのだが…。
十二匹のクマさんが、俺をぐるっと囲んでいる。
……よく見ると、十二匹のクマさんの壁の向こうにもクマさんが見える。
え?何十匹集まってるんだ?
一番前に立っている十二匹のクマさん達が、襲い掛かってきた。
前後左右から、クマさん達の容赦ないパンチが飛んでくる。
前と左右は視野を広げて避け、後ろは前にいるクマさんの瞳と勘を頼りに避け続ける。
回避を第一に考えながら、隙があればクマさんを殴り飛ばす。
十五匹目を殴り飛ばし、いい加減うんざりしてきたので…。
一番近くにいたクマさんの両足を掴んで持ち上げ、ぐるぐると回転した。
周りのクマさん達に、掴んでいるクマさんをぶつける。
ジャイアントスイング!……だったと思う。
クマさんがクマさんに当たり、クマさんが吹き飛ばされていった。
最後に、掴んでいるクマさんを地面に叩きつけた。
「ふう、片付いたな。」
両手を叩きながら呟き、再び出口を捜して歩き始めた。
そして今、俺は森から出る事が出来た。
街までは道が続いているので、迷う心配は無い。
ずっと、木の実しか食べてないので、パンとか米とか麺とかを食べたい。
スープでもお茶でもいいから、温かい物が欲しい。
俺は背伸びをして、軽く屈伸運動をして走り出した。
「やっと、温かいご飯が食べられる!!」
ご飯を食べたいという欲求で、結構な速度が出ていたらしい。
俺は気付かずに勢いよく街に入り、食事を食べる前に声を掛けられた。
「そこの怪しい奴!動くな!」
振り返ってみると、剣士らしい人が三人立っていて、険しい顔で俺を見ている。
「あ、あの…」
「腰につけてる武器を地面に置け!」
声を掛けようとすると、遮って言ってきた。
三人の剣士は、何時でも剣が抜けるように構えている。
俺は言われた通り、腰につけている剣を外して地面に置いた。
「両手を挙げて!ガラスの方に向きを変えろ!」
剣士の一人が怒鳴りながら言い、俺は言われた通りに三人に背を向けた。
何でこんな目に遭ってるのだろう?
と思っていたら、目の前に答えが映っていた。
森の中を彷徨って、ボロボロになった装備にぼさぼさの頭。
髪の毛や体中に付いている、赤黒く変色した血液。
安眠出来なくて出来た隈に、充血した瞳。
……うん。こんな奴いたら、通報されて当たり前か。
「武器は隠してないみたいだし、大丈夫だ。」
剣士の一人が、俺の体をポンポンと叩いて確認して言った。
「一緒に来て貰うからな、えっと…?といれっとぺーぱー?」
剣士の一人が、俺の頭上に表示されているであろう名前を見ながら言った。
プレイヤーの名前は、半径二m位の範囲に入った人の分だけ表示される。
街にいる人の名前が全部表示されたら、邪魔臭くてしょうがない。
「ほら、行くぞ。といれっとぺーぱー。」
「あ、はい。」
俺が置いた剣は、後ろにいる剣士の一人が持ってくれている。
前に一人、後ろに二人と、俺を挟むように剣士は歩いている。
ご飯が食べられなくて、とぼとぼと俯いて歩いていると大きな建物に着いた。
入口の所に見張りをしている剣士が立っている。
見張りの剣士が、俺の姿を見て眉間にしわを寄せた。
「そいつは?」
「警邏していたら、凄い勢いで怪しい奴が入って来たと通報されたので、連れてきた。
武器は見ての通りで、取り上げたから何も持ってない。」
見張りの剣士と、前にいる剣士が話をしている。
警邏って事は、治安部隊なんだろう。まあ、こんな格好だと怪しさ満点だよな。
多分、紅いクマさんを倒した時に、全身に血を浴びたんだろうな。
ああ、だから、帰り道はクマさん達が沢山寄って来たのか。
俺は地下に案内され、牢屋に入れられた。
地下には剣士が立っていて、脱獄しない様に見張っている。
屋根のある所で眠れるのは、ありがたいが……。
「……腹減ったな。」
俺は俯いて小さく呟き、床の上に転がった。
安心して眠れると言う事もあり、俺は直ぐに意識が無くなった。