食べ物の恨み
白いクマさんを倒して、俺が森を彷徨い始めて二日が過ぎた。
俺はまだ森の中を彷徨っている。
食べられる木の実かどうか判らず、一昨日は酷い目に遭った。
採った木の実を食べると毒状態になり、地面に膝をついた。
何で…、何で美味しそうな真っ赤なリンゴに、毒が仕込んであるんだ!
俺は、白雪姫じゃない!魔女さん、落としたなら回収しようよ。
ぐぅっ、このまま毒で死ぬのか?
俺は苦し紛れに、いや、腹が減っていたからかもしれない。
偶々、手に掴んだ草を食べた。
苦い!当たり前だ、だって、草だし!
食べた後に、俺は何してるんだろう?と、落ち込んだ。
……あれ?毒のアイコンが消えてる?何で?
え?さっき俺が食った草、毒消し草?!
顔を上げると、俺が食べた苦い草……毒消し草?が生えている。
採取して道具袋に入れると、【毒消し草】と名前が表示された。
あ!採った木の実を入れれば食用かどうか、判るんじゃ!
俺は採取していた木の実を入れ、期待に胸を膨らませて説明を見た。
【???の木の実】とだけ表示されていて、ガクッと頭を下げた。
俺が食べた赤いリンゴは、【アプルの実・毒物】と表示されている。
え、何これ?体を張って食用かどうか調べろと?
……この後、木に登って安全を確保してから、体を張った調査をしました。
調査の結果、食べられる木の実が判明し、食の安全が確保された!
食用の木の実は中々見つけられず、昨日の朝に食べたきりで何も口にしてない。
覚悟を決めて、【ベアの生肉】か毒物の木の実を食べようかと本気で思っている。
森の中をトボトボと歩いていると、広場の様な場所が見えてきた。
広場の中央辺りに、食用の木の実が積んである!?
また幻覚でも見たのかと思い、目を擦るがご馳走は消えなかった。
おお!?神様の施しか?!
俺は大喜びしながら、広場に向かおうとした。
木を薙ぎ倒して横から骨付き肉……いや、紫色のクマさんが跳びだしてきた。
「邪魔だ!」
俺は叫びながら、跳びだしてきた骨付き肉を殴り飛ばした。
この森で過ごして五日目なので、クマさん何て怖くも何とも無い。
紫色のクマさんは、仰向けに転がっていてピクリとも動かない。
邪魔者がいなくなったので、俺は広場に向かって走る。目指すはご馳走だ!
俺が広場に入ると同時に、広場の中央辺りに紅い毛のクマさんが跳んで来た。
紅い毛のクマさんは、四本腕のクマさんより頭一個分ほど大きく、左目に傷がある。
【ブラッディベアキング】と、紅い毛のクマさんの頭上に表示されている。
ブラッディベアキングは、仁王立ちして両手を広げ咆哮してきた。
俺は絶望して、その場に膝をつき、両手で顔を覆って俯いた。
あああ、あの骨付き肉!ご馳走を踏み潰しやがった!
確かにあれは俺のモノじゃ無かったが、だからって無駄にしたら駄目だろう!
今ならきっと血の涙も流せるぞ!?お前の毛皮より紅い涙をな!
俺は顔を覆っていた両手を放し、ゆらりと立ち上がった。
腰についている剣を抜き、向かってくるブラッディベアキングを見据えた。
……知っているか?食べ物の恨みは凄いんだぞ?
ブラッディベアキングの突進を右側に避けながら、左足を斬り捨てる。
バランスを崩して、ブラッディベアキングは俯せに倒れた。
しかし、直ぐに仰向けに向きを変え、器用に三本の足で立ち上がった。
「……無駄だ。」
俺は素早く近寄り、左腕を斬り捨てた。
ブラッディベアキングはその場に倒れ、俺に噛付こうとしてきた。
左手で鞘を握って振り、ブラッディベアキングの顎を殴りあげた。
宙に浮いて無防備になった所で、残っている左腕と左足を斬り捨てた。
どさっとブラッディベアキングの体が地面に落ちた。
ゆっくり近づいて行くと、恐怖で顔が凍り付き、震えだした。
ブラッディベアキングを冷たく見下ろし、頭と胴体を切り放した。
「……今度から、食べ物を大事にするんだな。」
呟きながら剣を鞘に直した。
辺りは血で赤く染まっていて、切り放した四肢と頭が転がっている。
俺はその場に仰向けに転がって、目を閉じた。
はあ、久々に怒ってる気がする。お腹は相変わらず鳴ってるし…。
もう疲れたよ……えっと…パ……ぱ………パンドラの箱?いや、違うな。
何だったっけ?まあ、いいか。
俺は閉じていた眼を開けて、ぼんやりと景色を見た。
すると、食用の木の実が生っている木が視界に入った。
勢いよく飛び起きて、全力で木の実に向かって走り出した。
主人公はキレると人が変わり、血の海も平気になります。




