平和な日々
ここ数日、街の中でのんびりと過ごしている。
広場の芝生の上に座って日向ぼっこをしながら、ぼーっとしていた。
子供達が走り回り、商人らしい人が商品を運び、プレイヤーらしい人達はクエスト掲示板を見ている。
「平和だよな。」
「そうですね。ここで暴れる人は滅多にいませんからね。」
独り言を呟いたら、マルスさんが頷きながら言って近づいて来た。
そして、俺の格好を見て眉間に皺を寄せた。
「…どうしたんです?あの、その恰好は…追いはぎにでも遭いましたか?」
…どうして、皆、俺が追いはぎに遭ったのか、と聞いてくるんだろう?
ダルニアさんに始まり、街をフラフラしている間に何人に聞かれた事か…。
「いえ、遭ってませんよ。服と剣は修理にだしてますから、代わりにコレ着てるだけで。」
「あ、そうなんですか。良かった。」
俺が首を横に振って言うと、マルスさんはホッとして言った。
「マルスさんは、怪我治ったんですね。良かったですね。」
「……はい?」
俺が笑顔で言うと、何故かマルスさんが首を傾げた。
「え?あの、治安部隊の隊長さんと副隊長さんが大怪我を負って、部隊の稼ぎが減って困ってるから、資金提供してくれないか。って話を聞いたので、少しですけどお金を渡しておきました。役に立てばいいですけど。」
俺が言うと、マルスさんは片手で顔を覆って何かを小声で呟いた。
…どうしたんだろう?あ!もしかして、まだ怪我した時のショックが抜けてないとか?!
「あ、すみません。トラウマを掘り返すつもりは無かったんですが…。」
「い、いえ、大丈夫ですよ。トラウマには、なってませんから。急用が出来ましたので、失礼しますね。」
マルスさんは会釈をしてから、早歩きで去って行った。
マルスさん達は凄いな。大怪我を負ったら、俺は立ち直れるだろうか……。
急用が出来たと言っていたから、チャットでも入ったんだろう。
忙しく動いている人には申し訳ないが、俺はのんびりさせて貰おう。
街の裏路地で、ガイアスとマルスが、一人の男を追いかけている。
「マルス!そっちに行ったぞ!捕まえろ!」
「解ってます!逃がしませんよ!」
マルスが走って来た男を投げ飛ばし、男は地面の上に転がった。
「さてと、俺達の事を使って詐欺を働いた訳を聞こうか?ん?」
ガイアスが倒れている男に近づきながら、顔に青筋を浮かべながら言った。
「いえいえ、言い訳何て必要ありませんよ。さっさと、連れて行きましょう。」
マルスが凄くいい笑顔で言った。
がっ、と男は右腕をマルスに左腕をガイアスに捕まれて引き摺られて行った。
治安部隊の剣士二人が見回りをしていると、治安部隊の二人組が笑顔で歩いてくるのを見つけた。
「どうしたんだ?そんなに、笑顔でいるなんて珍しいな。」
笑顔で歩いている二人組に近づきながら聞いた。
「ん?ああ。今、広場に行ったら、良いもの見れるぞ。」
「あれ見たら、思わず頬が緩むから。皆、見て微笑んでたからな。」
笑顔の二人は、広場で見た何かを思い出しながら言った。
「皆って、プレイヤーがか?」
「いや、プレイヤーより、NPCの方が、微笑んでたな。」
「帰り道を少し変えれば、見れるだろ?見て帰ればいいだろ。」
笑顔の二人は、片手を振って歩いて行った。
「…気になるし、行ってみるか。」
「そうだな。」
剣士二人は少し遠回りをして、広場に行く事にした。
広場に行くと、NPCの人達が芝生の方を見て微笑んでいるのを見つけた。
芝生の方に近づいて行くと、芝生の手前側に看板が立ててあった。
看板には【お昼寝中です。お静かにお願いします。】と書かれていた。
「こんな看板あったか?」
「駄目ですよ。ほら、静かにしないと。」
首を傾げて一人がいい、もう一人が人差し指を口に当てながら言って、芝生の方を指差した。
芝生の上に、見覚えのある人が転がって寝ていた。
「…あれって、といれっとぺーぱーさんか?」
「そうですね。危険人物と間違われた、あの、といれっとぺーぱーさんですね。」
「何で、あんな状態になってるんだ?」
「さあ?でも、自然と頬が緩みますね。」
「まあ、確かに。」
二人は小声で話をして、微笑んでいる。
芝生の上に、といれっとぺーぱーさんが寝ていて、周りに子供達が転がって昼寝をしている。
子供達は幸せそうな顔をして昼寝をしていて、といれっとぺーぱーさんの腕や足を枕にしている。
「…平和だな。」
「ですね。」
二人は微笑みながら、治安部隊の建物に向かって歩いて行った。
「何か、治安部隊に入って良かったなって思いました。」
「まあ、あんなに幸せそうに、無防備に眠ってたら思うよな。」
建物に入ると、隊長と副隊長が不機嫌な表情で部屋から出て来た。
「おや?随分と嬉しそうですが、何か良い事がありましたか?」
「ええ、ありましたよ。今ならまだ見れると思うので、広場に行って来た方がいいですよ。」
笑顔のまま答えると、隊長と副隊長は顔を見合わせた。
「よく解らんが、行ってみるか?」
「そうですね。じゃあ、行ってきますね。」
「はい。」
隊長と副隊長が外に出て行った。
広場に着いたガイアスとマルスは、看板を見て昼寝をしている団体を見た。
「……アイツは、何してるんだ?」
「これは確かに、微笑ましいですね。」
「まあ、確かにそうだが…。」
「ここで暴れる人は滅多にいない、と言いましたが…。」
「無防備すぎるだろう。まあ、これだけ人が居れば大丈夫そうだな。」
「最悪、何かが起きてもココなら、直ぐに警邏が駆けつけますからね。」
「はあ、何か力が抜けたな。」
「ですね、疲れが何処かにいきましたね。」
ガイアスとマルスも自然と頬を緩めながら、治安部隊の建物に帰って行った。
…何でこんな事になってるんだろう?一人で昼寝してたはずなのに…。
俺が目を覚ますと、子供達が腕や足を枕代わりにして眠っていた。
それはもう、幸せそうな顔をして眠っているので、起こすのも悪いだろうし…。
日も高いし、仕方が無い、もう暫く枕代わりになっていよう。
暫くぼーっとしていたら、子供達が起きだした。
広場の屋台で飲み物を人数分買って、子供達と一緒に飲んだ。
「気を付けて帰れよ。」
「うん。クロ兄ちゃん、ありがと~。」
子供達が走って行くのを見送ってから、ダルニアさんの店に帰る事にした。
「アンちゃん、お帰り。くくっ、広場で子供達と一緒に昼寝してたんだろ?」
お店に入ると、ダルニアさんが笑いながら言った。
「見てたのなら、起こしてくれればいいのに…。」
俺は何時もの席に着きながら言った。
「いやいや、見てないからな。見た人が、話してくれたんだ。」
「広場で昼寝したからって、話さなくてもいいと思うけどな…。」
ダルニアさんが笑顔で言い、俺はガクッと俯いて言った。
「……あれ?何で、この店に俺が居るって知ってるんです?」
「ん?アンちゃんの事なら、有名だぞ?この店にいるって事は殆どの奴が知ってるし、お婆さんの荷物運びしたとか、迷子の子供を助けたとか、絡まれてた店主を助けたとか、子供と遊んでたとか、色々聞いてるぞ?」
「なっ!?何で、全部ばれて…」
ここ数日、街をフラフラ歩いてやった事が、全部報告されてる…。
顔が熱いから、きっと真っ赤になってる。
「アンちゃん、顔が真っ赤だぞ?」
「真っ赤なのは解ってますから、ちょっと、ほっといて下さい。」
カウンターに突っ伏しながら言った。
「耳も赤いぞ?」
「解ってます。」
突っ伏したまま、両手で耳を隠しながら言うと、ダルニアさんの笑い声が聞こえた。




