危険人物はカモ
別人視点です。
~治安部隊の人達~
血と思われる赤黒いモノを付けている危険人物は、牢屋の中で無防備に眠りについた。
装備はボロボロで、充血した目に酷い隈がついていた。
眠る前に小さい声でお腹空いた、と呟いているのが聞こえた。
彼のボロボロの格好を見て、ダンジョンから帰ってきたのだと思った。
仲間と逸れ、一人になってしまい、命辛々帰って来たのでは?
酷い隈がついていたので、二、三日はダンジョンを彷徨っていたのだろう。
捕まえた時も、抵抗らしい事を一切していないと聞いている。
牢屋に入って毛布を掛けても起きる事は無く、丸一日彼は眠っていた。
「お疲れ様です。」
交代の剣士が歩きながら挨拶して来た。
「お疲れ様。」
軽く手を挙げて返事をした。
「あれ?誰か入ってるんです?」
牢屋に入っている彼を見て驚いている。
「ああ、まあ、見ての通りだ。ずっと眠ってるから、事情はまだ知らないが…。
この格好からして、命辛々帰って来たんじゃないかと、私は思っている。」
「ああ、でしょうね。彼、ぼろぼろですからね……よく、帰って来れましたね。」
ぐぅぅぅ、と眠っている彼の腹が鳴り、顔を見合わせて、ぷっと吹き出した。
「一番安いパンを買って来てくれるか?」
剣士にお金を渡しながら言うと、剣士は驚いた顔をした。
「ええ?!あの、殺人パンですか?!」
「死にかけたのは、お前だけだ。
ちゃんと水分を摂れば、喉に詰まらせる事は無かったんだ。」
「解ってますよ。じゃあ、ちょっと行ってきます。」
剣士はバタバタと走って出て行った。
「ん、ん~」
彼は背伸びをして、目を擦りながら体を起こした。
ぼんやりしながら、彼は私の方に向きを変えた。
「……おはようございます。」
挨拶をしながら、会釈もしてくれた。
「ああ、おはよう。」
「…あ、ありがとうございます。」
彼は掛けられた毛布を見てお礼を言い、手早く毛布を畳み私に渡してきた。
「買ってきました!」
パンを買いに行っていた剣士が戻って来た。
「あ!起きたんですね。これどうぞ。」
剣士は座っている彼を見て言い、買ってきたパンを差し出した。
「い、いいんですか?」
彼は何故か驚いて聞いてきた。
「え?はい、どうぞ。」
彼はパンを受け取ると、ボロボロと涙を零した。
「え?えと、どうしたんですか?」
剣士は泣き出した彼を見て、おろおろしている。
「あ、ずみまぜん。こんな、物しか、無いですが…どうぞ。」
彼は手を軽く振って、道具袋から何かを取り出そうとしている。
赤紫色の果物【レパルの実】だった。
「え?あの、これはどうしたんですか?」
剣士はレパルの実を受け取りながら聞いた。
「…森で、迷子になった時に、木に登って採った物です。」
森で迷子に……、確かに森には果物が生っている。奥の方に、だが。
レパルの実を七個受け取った剣士は、嬉しそうだ。
「一つくれ。」
私が言いながら手を出すと、剣士は一つ渡してくれた。
「……あのパンを、あんなに幸せそうに食べるの初めて見ます。」
「私もだ。」
彼は幸せそうにパンを食べている。
ちなみに、パンは10Gで、レパルの実は500Gだ。
「昨日、捕まった人が居ると聞きましたが?」
二人の剣士が階段を下りてきた。
焦げ茶の短い髪と瞳を持つ、背の高い男性、治安部隊の隊長【ガイアス】と、
金色の長髪を後ろで一つに括り、緑色の瞳をもつ長身の男性、副隊長【マルス】だ。
「初めまして。治安部隊、副隊長のマルスと言います。」
「隊長のガイアスだ。」
マルスが笑顔で言い、ガイアスは彼をじろじろ見ながら言った。
「初めまして。といれっとぺーぱーです。」
彼が名乗ると、この場にいる四人の視線が彼の頭上に移動する。
「さっさと、済まそうか。といれっとぺーぱー、何でそんな恰好なんだ?」
ガイアスが頭をかきながら聞いた。
彼、といれっとぺーぱーは、今まであった事を話してくれた。
私が想像していたよりも酷い話だった。五日間も迷子になって、よく無事だったな。
「デスゲーム開始時に罠に掛かり、翌日にモンスターに追われて迷子になったと…。」
マルスが確認のために言うと、彼が頷き、マルスは溜息を吐いた。
「んで、やっとの思いで帰って来たら、警邏に捕まったのか…。」
ガイアスが続いて言い、四人が揃って溜息を吐いた。
「武器は、あの剣だけだったんですか?」
マルスは切れ味が無くなった剣を思い出して聞いた。
「はい。武器屋の店主さんが、お勧めしてくれた凄い剣です。
あの剣のお蔭で助かりました。今度、店主さんにお礼を言いに行ってきます。」
彼はニコニコと笑顔で言った。
「……そうですか。あの剣は、お幾らでしたか?」
「1500Gでした。」
彼が満面の笑みで言い、マルスの顔が引きつった。
彼に着替えの服を持たせ、風呂場に案内して来た。
あの場にいた四人は、一つの部屋に集まっている。
「なあ、彼が持ってた剣だが……銅の剣だったよな?」
ガイアスが確認するように聞き、私とマルスが揃って頷いた。
「一体、何処の武器屋でしょうね?彼がお礼を言いに行くそうですから、私も言いに行きましょうかね。ついでに彼がカモられない様に、一緒に行って来ますね。いいですよね?」
マルスが笑顔でキレながら聞いた。
「あ、ああ。俺も一緒に行くからな。
それにしても、銅の剣を1500Gで買わされるなんて…。」
ガイアスは言ってから、溜息を吐いた。
お風呂に入ってさっぱりした彼が、私達に何度もお礼を言ってきた。
この後、彼はマルスと一緒に買い物に出掛けた。
マルスが一緒なら、カモられる事はないだろう。
主人公にとっては、レパルの実よりパンがご馳走。
他の人にとっては、パンよりレパルの実がご馳走。




