表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/53

危険人物はカモ

別人視点です。

~治安部隊の人達~


血と思われる赤黒いモノを付けている危険人物は、牢屋の中で無防備に眠りについた。

装備はボロボロで、充血した目に酷い隈がついていた。

眠る前に小さい声でお腹空いた、と呟いているのが聞こえた。

彼のボロボロの格好を見て、ダンジョンから帰ってきたのだと思った。

仲間と逸れ、一人になってしまい、命辛々帰って来たのでは?

酷い隈がついていたので、二、三日はダンジョンを彷徨っていたのだろう。

捕まえた時も、抵抗らしい事を一切していないと聞いている。

牢屋に入って毛布を掛けても起きる事は無く、丸一日彼は眠っていた。


「お疲れ様です。」

交代の剣士が歩きながら挨拶して来た。

「お疲れ様。」

軽く手を挙げて返事をした。

「あれ?誰か入ってるんです?」

牢屋に入っている彼を見て驚いている。

「ああ、まあ、見ての通りだ。ずっと眠ってるから、事情はまだ知らないが…。

 この格好からして、命辛々帰って来たんじゃないかと、私は思っている。」

「ああ、でしょうね。彼、ぼろぼろですからね……よく、帰って来れましたね。」

ぐぅぅぅ、と眠っている彼の腹が鳴り、顔を見合わせて、ぷっと吹き出した。

「一番安いパンを買って来てくれるか?」

剣士にお金を渡しながら言うと、剣士は驚いた顔をした。

「ええ?!あの、殺人パンですか?!」

「死にかけたのは、お前だけだ。

 ちゃんと水分を摂れば、喉に詰まらせる事は無かったんだ。」

「解ってますよ。じゃあ、ちょっと行ってきます。」

剣士はバタバタと走って出て行った。


「ん、ん~」

彼は背伸びをして、目を擦りながら体を起こした。

ぼんやりしながら、彼は私の方に向きを変えた。

「……おはようございます。」

挨拶をしながら、会釈もしてくれた。

「ああ、おはよう。」

「…あ、ありがとうございます。」

彼は掛けられた毛布を見てお礼を言い、手早く毛布を畳み私に渡してきた。

「買ってきました!」

パンを買いに行っていた剣士が戻って来た。

「あ!起きたんですね。これどうぞ。」

剣士は座っている彼を見て言い、買ってきたパンを差し出した。

「い、いいんですか?」

彼は何故か驚いて聞いてきた。

「え?はい、どうぞ。」

彼はパンを受け取ると、ボロボロと涙を零した。

「え?えと、どうしたんですか?」

剣士は泣き出した彼を見て、おろおろしている。

「あ、ずみまぜん。こんな、物しか、無いですが…どうぞ。」

彼は手を軽く振って、道具袋から何かを取り出そうとしている。

赤紫色の果物【レパルの実】だった。

「え?あの、これはどうしたんですか?」

剣士はレパルの実を受け取りながら聞いた。

「…森で、迷子になった時に、木に登って採った物です。」

森で迷子に……、確かに森には果物が生っている。奥の方に、だが。

レパルの実を七個受け取った剣士は、嬉しそうだ。

「一つくれ。」

私が言いながら手を出すと、剣士は一つ渡してくれた。

「……あのパンを、あんなに幸せそうに食べるの初めて見ます。」

「私もだ。」

彼は幸せそうにパンを食べている。

ちなみに、パンは10Gで、レパルの実は500Gだ。


「昨日、捕まった人が居ると聞きましたが?」

二人の剣士が階段を下りてきた。

焦げ茶の短い髪と瞳を持つ、背の高い男性、治安部隊の隊長【ガイアス】と、

 金色の長髪を後ろで一つに括り、緑色の瞳をもつ長身の男性、副隊長【マルス】だ。

「初めまして。治安部隊、副隊長のマルスと言います。」

「隊長のガイアスだ。」

マルスが笑顔で言い、ガイアスは彼をじろじろ見ながら言った。

「初めまして。といれっとぺーぱーです。」

彼が名乗ると、この場にいる四人の視線が彼の頭上に移動する。

「さっさと、済まそうか。といれっとぺーぱー、何でそんな恰好なんだ?」

ガイアスが頭をかきながら聞いた。

彼、といれっとぺーぱーは、今まであった事を話してくれた。

私が想像していたよりも酷い話だった。五日間も迷子になって、よく無事だったな。

「デスゲーム開始時に罠に掛かり、翌日にモンスターに追われて迷子になったと…。」

マルスが確認のために言うと、彼が頷き、マルスは溜息を吐いた。

「んで、やっとの思いで帰って来たら、警邏に捕まったのか…。」

ガイアスが続いて言い、四人が揃って溜息を吐いた。

「武器は、あの剣だけだったんですか?」

マルスは切れ味が無くなった剣を思い出して聞いた。

「はい。武器屋の店主さんが、お勧めしてくれた凄い剣です。

 あの剣のお蔭で助かりました。今度、店主さんにお礼を言いに行ってきます。」

彼はニコニコと笑顔で言った。

「……そうですか。あの剣は、お幾らでしたか?」

「1500Gでした。」

彼が満面の笑みで言い、マルスの顔が引きつった。


彼に着替えの服を持たせ、風呂場に案内して来た。

あの場にいた四人は、一つの部屋に集まっている。

「なあ、彼が持ってた剣だが……銅の剣だったよな?」

ガイアスが確認するように聞き、私とマルスが揃って頷いた。

「一体、何処の武器屋でしょうね?彼がお礼を言いに行くそうですから、私も言いに行きましょうかね。ついでに彼がカモられない様に、一緒に行って来ますね。いいですよね?」

マルスが笑顔でキレながら聞いた。

「あ、ああ。俺も一緒に行くからな。

 それにしても、銅の剣を1500Gで買わされるなんて…。」

ガイアスは言ってから、溜息を吐いた。

お風呂に入ってさっぱりした彼が、私達に何度もお礼を言ってきた。

この後、彼はマルスと一緒に買い物に出掛けた。

マルスが一緒なら、カモられる事はないだろう。

主人公にとっては、レパルの実よりパンがご馳走。

他の人にとっては、パンよりレパルの実がご馳走。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ