運命の本棚
四月に入って半月くらい過ぎたころ、部活帰りの男子高校生六人が笑いながら歩いている。その内の一人がふと顔を右に向けるとビルとビルの間の道から人の足が見えている。「見ろよ、こんな時間から酔っているやつがいるぜ」 見つけたやつがそういって他の五人がハハハハッと笑い、足が出ている道を覗きこむ。しかし覗きこんだ六人が見たのは酔っぱらいではなかった。倒れている人を中心に赤い水溜まりが広がっている光景だった。覗きこんだ六人は少しの間硬直した。我にかえった一人が目を反らし慌てて携帯電話で110番通報をはじめた。
「またあの殺人犯か、今月で四件目だぞ」
「ああ、証拠が全くないから容疑者がなかなか定まらないくせに現場にお気に入りって血文字が残されてるから連続殺人って事だけが分かる。嫌な気分だ」
と警察官らしき二人が話している。
その横を中学生くらいの顔立ちをした買い物袋を手に下げた少年とまだ若い吊り目の女性が歩いていく。
端から見ると年の離れた兄弟に見えるかもしれない少年達だが服装のせいで明らかに周りからういている。少年の服装は半袖の白いワイシャツに黒いジーンズというとても微妙な格好をしているがまだセンスが悪いで通る。
しかし、女性の方は左半身の腰から上は黒で腰から下は白、右半身は腰から上が白で腰から下が黒とコスプレのような色合いをした肩の出ないワンピースを着ている。
だがそれより奇妙なことが起こっている、明らかにういているのに何故か周りの人は振り返るどころか目を向けることすらしない。
「久しぶりの肉だ〜、イヤッホ〜」
少年が喜んで笑顔でクルリと一回転する。ちゃんと買い物袋から物が落ちないように調整しているあたりが賢いところだ。
「久しぶりではありません。三日前に食べたじゃないですか」
そんな少年に顔色一つ変えず女性が事務的な口調で訂正を入れる。
「良いの、こうゆうのは気分を出した方が美味しいの」
「そのようなものでしょうか?」
少年は少し不機嫌そうに頬を膨らませて抗議する。それにたいして女性は不思議そうに返答する。
「そうそう、黒羽くん(くろば)」
少年がさっきまでとは打って変わってかなり大人びた口調で吊り眼の女性こと黒羽に話しかける。
「何でしょうか、ネイ」
その変化を全く気にせず先ほどと変わらない口調で少年ことネイに返答する。
「明日はお客が来るから店の扉を開けておいてくれたまえ」
「了解しました。では、何時から何時まで開けましょうか」
「う〜んそうだな・・・夜の九時から十時半位にしておいてくれ」
「了解しました」
ネイの偉そうな口調にたいしても顔色一つ変えず黒羽は答える。そしてそのまま会話をしながら二人はビルとビルの間の裏道に入っていった。
一部だけ平凡を絵に書いたような男、河槙真一は五時に起きる。とりあえずまずはランニングををし、朝ごはんを食べバイトに行く。
人間関係を適当にこなしそしていつもどうり働いて帰ってきて二、三日に一回人を刺しにまた部屋をでて行くそれが真一の習慣だ。
狂った思考になったのは何時からだろうと考えながら、真一は今日も人を刺しに鞄の中に包丁を入れて部屋を出た。
しかし、とあるビルとビルの間にある路地裏の前で立ち止まった。何かあそこに行かなければならないそんな気分になり路地裏に入った。そして一分ほど歩いただろうか、ひらけた場所にたどり着いた。
そこに古ぼけた木の看板がかけられた店らしき年期のはいった木造の建物があった。看板には筆で書かれたと思われる達筆な字で『運命屋』と書かれている。
「・・・何だここは?」
見るからに怪しい雰囲気が醸し出しているが中に何が売っているか気になり引き戸を開けて中に入った。
店の中には大量の本が一本の真っ直ぐな道を形作っておりその奥にある机の側の安楽椅子に中学生くらいの少年が白いワイシャツに黒いジーンズという微妙な格好で座っていた。
「いらっしゃい、運命屋にようこそ。店長のネイというものです」
ネイと名乗った少年がにっこりと笑いながら真一に話しかける。
「当店では貴方の運命を取り扱っております。まあ、詳しい話しは黒羽くんから聞いてくれたまえ」
あっさり説明と丁寧な態度を放棄していつの間にかネイの隣にいた白黒のワンピースを着た女性を指差した。
「はい、こちらではお客様の運命を二択にして販売しております。片方は最良な運命、そしてもう片方が最悪な運命でございます」
黒羽の事務的な話しを聞いて真一は思った。
馬鹿馬鹿しい、どうせ不安を煽って高額な品物を買わせる詐欺だろう。
しかし、話しを最後まで聞いてやろうと何となくだが思ったため口を挟まないでおく。
「さて、貴方は運命を買いますか?」
黒羽が問いかけてくる。一拍おいて真一は核心をつくように問いかけてみた。
「どうせ、詐欺だろう?」
「詐欺ではないぞ、代金は貰って無いからな」
ネイがあっさり答えながら愉快そうに笑う。そして言葉を続ける。
「しいて言うのなら賭け事を見て楽しむディーラーのようなものだ。しかし、今問いかけてるのはこちらだ」
ネイはそう言った後、指をパチンッと鳴らした。すると何も無かった机の上に白い本が二冊現れた。真一が驚いて目を丸くしているとネイが話しかけてきた。
「さあ、どちらを選ぶ?選びたく無いのならさっき来た道を引き返したまえ」
何故だろう迷いが無かった、右の本を身体が勝手に取った感覚さえあった。
「毎度あり」
ネイが笑った。
気が付くと裏道を見たままの状態で立っていた。 さっきのは夢だったようだ。さて気を取り直して刺す人を見つけて刺そう。
少し歩いた。
ああ、見つけたお気に入りを、今日はがたいが良い老人。刺そうあの人を。
丁度裏道に入った刺そう。
走って後ろから刺した。
「オジキッ!」
奥から走ってきたヤクザみたいな人にがたいの良い老人が庇われた。
ヤクザみたい人の腕に包丁が刺さった。
後ろから首に衝撃がきた
あれ?何故か意識が・・・「事務所に連れて行け」
それが河槙真一の精神がまともな状態に聴いた最後の言葉だった。
「彼はハズレを引いたようだね・・・黒羽くん本棚に入れといてくれたまえ」
安楽椅子に座ったネイは今は黒くなった本をパタンと閉じた。
拙い文ですが、全て読んでもらえると幸いです。
この作品は短編として重い話を作りたくて書きました。
短編の為、ちょくちょく書いてゆくつもりなので応援してくると嬉しいです。
それではまた今度会いましょう。




