11-捨てる神あれば拾う神あり
研究塔をひと通り見学させてもらった。
もちろんマル秘以外のトコだけど。
意外に中庭とかに薬草っぽいものが植えてあったりして、ウチの村にないヤツとかあって見ごたえありました。
あとは、王都土産買うって口実で貴族街行けないかな。商業街と方角違うから無理かな。迷子のふりしてバックレてみたりしようかな。どうしよう。
…まだ「シエル」に会いに行くの、諦めたくないんだよう。
案内役してくれてる辺境から一緒の研究員さん、えーと名前…、何だっけ。
「レイン君、どうかしましたか?」
「えーっと、お名前、なんでしたっけか。あ、一度聞いてたんですけど、家名の方を忘れてしまってて…。」
嘘だ。フルネーム忘れてる。
そんなときの為の、『お名前を』『え、佐藤ですけど。』『佐藤さん、は知ってるんですけど、下の名前何でしたっけ?』作戦、異世界バージョンだ。
ちなみに研究塔は、お互いファーストネーム呼びがルールだ。偉い人でも下っ端でも、学術論争の前に家名を持ち込ませないように、という配慮だって。もちろん建前だ。
「モローです。ジュール・モロー。」
「あーそうでしたよね。モロー様。すみません忘れっぽくって。」
いかにも真面目で優しい青年なんだけど、どうにも特徴がなくて覚えにくい。
「ジュールでいいですよ。年もそんなに離れてないですし。」
「え、おいくつなんですか?」
「十九です。学園卒業してすぐにここに入って。何年か経ちましたけど、研究塔ではまだ一番の若手です。」
「えぇ、その年齢で研究塔入りって将来有望じゃないですか。」
「ルシアン様やベルトラン様は、在学中に研究塔入りされてますからね。…上には上がいます。」
しみじみ。
有能上司に無茶ぶりされてるタイプですね。わかります。村でもさんざん振り回されてましたもんね。
「モロー様は、貴族、なんですか?」
「ジュールでいいって。モロー家は一応男爵の位を頂いているよ。代々、医者の家系でね。兄が跡継ぎの予定だ。」
「じゃ、貴族街にご実家があるんですね。」
「んー、そうだね。僕は滅多に帰らないけど。」
「…つかぬことをお尋ねしますが、」
「はい?」
「王都の貴族街って、俺みたいな庶民でも入れるんですか?」
ジュールが瞬きをした。
「入れなくはないけど。」
「歩いて見て回ったりとか、できますかね。」
「何かあるんですか?」
「いやぁ、王都観光?」
「貴族街を?商業街じゃなくて?」
「キレイなお屋敷とか見たいじゃないですかー。」
「…。」
やっぱ、無理があったか。
「そういえば、王都に入ってから、街並みをすごく見てましたね。」
「…。」
そうです。そうでした。聖地をガン見してました。
すみません。ヲタクの性なんです。ごめんなさい。
「主任には、レイン君の望みをできるだけかなえてあげて欲しい、って言われてるけど。」
「え?」
「さすがに貴族街の散歩は、ちょっと。」
ですよねー。
「歩きは無理だけど、馬車をゆっくり走らせて、その中から見るだけなら、何とか。」
「本当ですか!?」
マジか。
「そんなに見たい?」
「見たいです!」
「そんなに建築に興味があるのかい?」
いえ、建築には興味ないです。
あわよくば、推しに一目会いたいだけです。
会えなくとも、とりあえず安否確認的なヤツか、情報収集がしたいんです。
「どういう屋敷が見たいとかあるの?」
「え、いや、あの…。」
「上級貴族のお屋敷は見ごたえあると思うけど、近づけないと思うし。」
「あ、いやそんなすごいところは恐れ多くて、ですね…。」
そんなセキュリティチェックがキツそうなとことか、行きたくないです。むしろ。
たしか、「シエル」の父親は伯爵家の次男で、本人は子爵だった気が。騎士爵も持ってたっけか。一応、下級貴族、ってことになるのか?
『ゲーム』の【三周目】だと、魔力暴走を恐れた母親が、わざわざ新しく離れを建てて、シエルを閉じこめてるはずなんだよな。
「えーと、下級貴族のお屋敷で、同じ敷地に、離れが有ったりするようなお屋敷って、ご存知、だったりします…?」
「離れ、ですか。」
急に具体例出し過ぎたか、さすがに。
「…お屋敷と、離れがあって、建築様式が違ってたりすると、一度で二度おいしいというか、一挙両得というか…。」
これは、無理がある。我ながら無理寄りのムリだ。
「離れ付きの屋敷か。」
ジュールは少し考える。不審者の発言を、素直に受け取ってくれてる。ありがたい。
「領地の無い法衣貴族で、隠居した先代が住むとか。」
「へぇ。」
「病人を住まわせている家なら、そういう造りもあるかな。」
「なるほどぉ。」
「うちの父の患者さんなら、いくつか心当たりがあるけど。病人がいる家だと、敷地に入るどころか、あまり近づかせてもらえないと思うよ。」
それは、その通りです。
詰んだ。コレ。
「…あ、でも。」
ジュールが、ポンと手を打つ。
「一軒、心当たりがあるよ。話し相手を探してるって家。」
「話し相手、ですか?」
「そう、小さい男の子でね。なかなか外に出られないから、気晴らしになるならって。」
小さい男の子?え、マジ?
「どんな子なんですか?」
「五歳くらいかな。」
「…へえ。」
「身体が弱くてね。」
背筋が伸びた。
「僕の父が診ている患者さんなんだけど。」
「…そうなんですね。」
「医者同席が条件でね。僕も何度か伺ったことがあるよ。」
ジュールは何気なく続ける。
「ベルトラン様のお孫さんなんだ。」
その瞬間。
俺の脳内で鐘が鳴った。
―― ビンゴだ!




