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ゆうき  作者: 十夜 萌永
1/1

梅雨

「……はあ。」

梅雨。雨が何日も続いて憂鬱だ。紫陽花とか眺めるのは嫌いではないけど。

「どうした。花音ため息なんて、名前と同じくらいめっちゃ似合わねえ。」

「そうだよ。花音ちゃん名前は似合ってるけど、らしくないよ?」

私の左右で私に話しかけるのは、鈴宮勇貴と優貴。(どちらもゆうき。)双子。兄妹。二人とも鏡に映したぐらいそっくり。栗色のサラサラな髪とか(長さは違うけど)、平均軽く越す身長とか(しかもモデルに余裕になれるぐらいの)、中身は天と地ぐらい違うけどねっ……。

兄の勇貴は、口が悪くってシスコン。重度の。自覚はしてない。髪はロン毛だ。邪魔そう。

妹の優貴はおっとりしてて、深窓のお嬢様って感じ。勇貴はシスコンだけど、優貴は違う。ロングの髪がサラサラなびく。

さて、二人のことが出たし私のことも話そうかな。

私は、結城花音。(花音って似合わないってことは知ってるわよ……。)中一。髪は赤茶。セミロング。全てが中の上。二人に挟まれてなければ、もう少しましに見えると思う。

さて、私たち三人は幼なじみだと言っていいと思う。しかも全員ゆうきだしね。

とにかく、事件は始まる。多分、もう少し先だけど。



学校には少し早めにつくように心得ている。特に理由はない。

私の教室は二階。席も窓側。下を見ると、水たまりや紫陽花が見える。よい席だと思う。

「おはよう。結城さん!」

そんないい気分を台無しにするのは、後ろの伊集院夜空。どうも私のことが好きらしい。夜空はないとって読みらしい。伊集院っていう気取った名前に夜空でないとと読む名前からして気に入らない。こいつ自体が気に入らないけど。(下の名前で呼ぶとかねっ!)

「……おはよう。」

同じクラスのよしみで返事をしてやる。

「おお……君に挨拶して貰っただけで一日が明るくなるよ!」

そういうとこが気に入らないんだって分からないかな……。(もらったを漢字で書くとかね。)逆に君を見ただけで私は気分が滅入るよ。本当に。ああ、なんかまだ言ってるよ。

「花音さん!いつになったら告白の返事をくれるんだい?」

何もやらないよ。

「テメエ、花音に話しかけんな!」

ゴンっと良い音がした。伊集院の頭から。

「……痛っ!君!何をするんだ!」

「るせー!それに俺は君じゃねぇ!鈴宮勇貴だ!」

どうやら叩いたのは、勇貴だったらしい。

「ゆうきって言うのが気に入らないんだ!花音さんと一緒じゃないか!」

「はあ?じゃあ鈴宮の方でよべや!」

「呼びたくないね!そもそもなんだい君は!僕が花音さんと話しをしているのに!君も花音さんのことが好きなのかっ!」

「……っバカ!るさい!」

……よく分かんないけど、勇貴が伊集院を退治してくれてる。

右隣が勇貴。後ろが伊集院。救いは、前の篠山君。普通。後ろと右隣が異常だから、普通な人が少なくとも友好的に感じる。

「おはよう。結城さん。……大変だね。」

苦笑を浮かべて篠山君は言う。

「おはよう。まあいつものことじゃない?」

私も苦笑でかえす。紫陽花をみるとピンクだった。紫陽花の色って土で変わるんだっけ?



「大変ね。」

いつも私にそういうのは、一ノ瀬葉月。小柄で華奢な体をしてる。ショートカットがよく似合う。

「もう、伊集院と付き合えばー?」

とんでもないことを言い出した。

「はあ?無理!無理だから!」

「えー、伊集院も中身はアレだけど、見た目はなかなかだし、金持ってんじゃない?あっ、そっか!鈴宮兄妹達を見てるからか。はーん。」

一人で自己完結した。

てか伊集院あり得ないから。あれだ。地理のテストで、百点とるよりないから。真面目に。

「あっ、そういえば知ってる?飼育委員の誰かがうさぎ殺してるって?」

「何それ!?初耳なんだけど!」

私は、文芸部に所属してて小説の題材になりそうなことは、新聞部の葉月に教えてもらってる。

「日に日に、うさぎがいなくなるらしいよー?鍵を開けれんの飼育委員だけだし。逃がすってことはないでしょう?しかもうさぎの遺体もないらしいよ?」

何?遺体がない?いかにもミステリーじゃない!

私は癖でネタ張に書き込んでいた。

「飼育委員かぁ……、誰かいたっけ?」

私は小説に事実を書く上でモットーにしているのは、取材に基づいた真実を書くこと。

「花音のクラスは、篠山君と佐々岡さんね。ちなみにうちのクラスは中山君と鈴宮妹ね。」

「優貴が飼育委員かあ……。」

意外でもない。優貴は動物が大好きだし。優貴に聞くか……。

「優貴ちゃんに聞こうとしても無駄よ。勇貴君が伝えないようにしてるんですもの。」

私の考えてることバレた……?てゆーか、勇貴知ってたのか。出たなシスコン。あの野郎。

「仕方ない篠山君に聞くか。」

ガタンと大きな音を立てて花音は立ち上がって、走り出した。

「んっ。なんか分かったら教えてね。」

葉月はもう見えない、花音にひらっと手を振った。

「おい、一ノ瀬。今の結城花音?すげえ可愛いな。」

「止めときな。あの子は。」

「分かってるよ。鈴宮勇貴が惚れてんだろう……。見るぐらいで殺されないさ。今話してたの、あれだろう。うさぎ失踪事件?まだ知らなかったの?」

「鈴宮兄に、実は花音と鈴宮妹に言うなって言われたんだ。あたし。」

「……言っちゃって大丈夫か?」

「大丈夫。それにあの子が動いた方が面白くなりそうじゃない?」 そう言って、葉月は笑った。



「篠山君いるー?」

「篠山?いないよ?」

休み時間だし、しかたないか。

「なんで、篠山を探してるんだ?花音?」

いつの間にか、勇貴が目の前に立っていた。

てか勇貴やっぱり、なんだかんだ言ってカッコいいから近くに顔があるとドキドキするんだけど!せめてあと五センチ離れて!

「いやー、あのお、これには訳があってえ……。」

ドキドキするから、言い訳も変だ!てか正直に話せ!私!

「……うさぎか?」

ハアーとため息をついた後、勇貴は言った。でも、距離は変わらない。ヤバい絶対顔赤いよ……。

「葉月のやつ……。」

そう言って勇貴は頭をかいた。やっと離れてくれたよ。フウー。

「ねえ?なんか知らない?そのうさぎについてさ?」

なぜか、勇貴は赤くなった。なんだ。風邪か。

「お前調べるの止めとけ。てか頼むから。」

「嫌。」

即答。きっぱりと。

勇貴は少し考えて、

「……その代わり、優貴には内緒な?あと危ないことはするなよ?」

と言ってくれた。出たなシスコン。

「返事は?」

「ラジャー!」

お母さんかよ!って言いたかった。



私は文芸部。勇貴はバスケ部。優貴はテニス部。三人とも違う。

「こーんにちはっ!」

たてつけの悪いドアを力一杯推す。バスケ部とテニス部はもっと滑らかに開くと思う。

第一資料室が文芸部の部室。第二がないのに第一ってついているのが悲しい。

「今日は、花音ちゃん。」

部長の三年生の斎藤香先輩。大和撫子って感じ。物語は、純情恋愛モノ。先輩らしい。

部員は私を入れて七人。この学校では、五人から部活が成り立つ。つまりギリギリ。

「おはよう。結城君。」

「こんにちはー、川島先輩。」

「こんにちは、花音ちゃん。」

馴れ馴れしく肩を叩こうとして私がスルーしたのは、特に肩書きがない、二年生の宇崎厚先輩。実は私は伊集院よりこの先輩が嫌いだ。私が全教科満点を超えるのが永遠に訪れないように。見た目暑苦しいし、ウザいし……。嫌いってオーラ私から出てるのが分からないかなあ?しかも、私が入部したあとに転部してきて、一回も何も書いてない。そして、毎日生傷が増えてんのはなぜだろう。

一方私が挨拶したのは二年生副部長の川島新人先輩。縁なしメガネが良く似合う。勇貴までいかないがかなりカッコいいと思う。川島先輩が書く話は、意外にSFだ。

「今日は三人ですか。」

宇崎先輩はいないものと考える。文芸部は好きなときに好きなだけくる、と言うすばらしい伝統がある。

「ええ、昨日は五人だったわ。」宇崎先輩を抜かして。

「私だけですか、昨日出なかったの。惜しかったなあ。」

「あら、花音ちゃん。花音ちゃんは昨日以外先月皆勤賞でしょう?すごいわよ?」

「そうですかー?」

私と斎藤先輩は最後まで宇崎先輩を無視した。なんか言ってるけど知るか。

私は本題に入った。

「あの、最近飼育小屋から、うさぎが逃げてるじゃないですか?で、噂なんですけどうさぎは死んじゃってるんですけど、遺体がなくって困ってるらしい?とか?」

「……この間聞きたがっていた、この学校のが七不思議話してあげるわ。」

「……花音ちゃん。月をテーマにした僕の小説未発表の読む?」

変だ。明らかに変だ。

そりゃあ七不思議知りたいし、小説も気になる。だけど、今はうさぎだ。

「……いいです。勇貴に聞きます。」

だけど、先輩たちを困らす訳にはいかないから、私は大人しくした。



「勇貴のアホーっ!」

 窓を開けて叫んだ。

「アホは治んないだろうが!バカ花音!」

ほら勇貴が出てきた。

私の部屋には窓が二つあって片方は勇貴、片方は優貴の部屋の窓に面してる。

勇貴は生優しく呼んでも出ないからこうするしかない。本当に双子なのかな?

「そっち行きたいんだけど、ハシゴ出して。」

漫画みたいにヒョイと行ける距離じゃない。現実はハシゴが必要なぐらい離れてる。

「はいはい。お待ち下さい。お姫様。」

勇貴のお姫様は優貴でしょうが。めんどくさそうに、ガチャガチャ音を立ててハシゴをこっちにつけた。

「ありがとうございますー。」

私はハシゴを渡る。何度もやってるから慣れた。ひょいと勇貴の部屋に飛び降りた。

「……汚い。」

心の声が。勇貴の部屋は汚い。私の部屋より。優貴は比べものにならないぐらいキレイだ。一卵性なのに遺伝子は違うのかもしれない。

「すみませんねー。」

ちょっと怒ったのかもしれない。ここは、可愛い幼なじみだから許してもらおう。さて、本題だ。

「あのさ。うさぎの話、先輩達まで口封じしたでしょ?なんで、優貴だけじゃなく私まで聞いちゃいけないのよ!」

「そっそれは、その……、危険だと思ったんだよ!巻き込まれんのが!」

あっ、そっかー。うさぎ殺しなんて聞いたら、私優貴に伝えちゃって、優貴卒倒しちゃうもんね。

「やっぱり、シスコンか!」

「なんか、違う……。正しく伝わってない……。」

何が違うのか分からないけど。

バンッと音がした。後ろから。勇貴が青い顔してガクガクしてる。私は後ろを見た。

「勇貴?花音ちゃんに伝えたくないのは分かるけど、私まで伝えないようにしないで頂戴?」

優貴は笑ってるけど、目が笑ってない。恐い。それに間違ってる。

優貴は私に気づいて言った。

「あら、花音ちゃん。来てたの?勇貴になんかされなかった?」

「まさか、優貴のことが大好きなシスコンの奴に。」

なんか、勇貴が胸押さえてるよ。むせたか?

「私だけよ?飼育委員でうさぎ失踪事件知らなかったの。委員会で恥かいちゃったじゃない?」

「やっぱり?私も知らなかったの!」

勇貴は笑顔で怒ってる優貴に怯えてる。可哀想だけど。

「で、私言っちゃった。私が犯人探してぶっ殺します。って。」

笑顔で言ってる分恐い。

「まさか、本当に殺さないよね?」

恐る恐る聞いてみた。優貴ならやりかねない。意外と護身用に合気道やってたし。

「やだ、せいぜいぶっ飛ばすだけよ?」

……多分文字通りぶっ飛ばすんだろう。

「でも、私一人じゃ怖いし。勇貴に手伝ってもらおうと思って。いいよね?」

「……はい。分かりました。」

「返事が遅いっ!」

「はい!」

勇貴は優貴に逆らえないんだ。なんだかんだ言って。

「はいはいはい!私も犯人探しやりたい!」

私のモットーは取材に基づく事実を書くこと!

「花音ちゃんも?まあ、勇貴がいるし大丈夫か。よし!三人で探してぶっ飛ばしましょう!」

ぶっ飛ばすのは優貴にお任せします。

「花音ちゃん?うさぎ失踪事件ってどこまで知っているの?」

「なんか、日に日にうさぎがいなくなってて、飼育委員が逃がすのはないから殺したんだろうって、葉月が。」

私は葉月から聞いた話を話した。

「花音ちゃん、それにはいくつか違う点があるわ。……まぁ花音ちゃんを思ってのことだと思うけど。事実はこう。一週間前かしら?餌をやりにいったら、うさぎが一匹いなかったの。不思議に思ったらしいけど子うさぎだったから、死んじゃったかもしれないと思ったらしいわ。」

うさぎは警戒心が強くて人間が触ると匂いがするから、そのうさぎを仲間外れにするらしい。大人より子うさぎのほうが匂いがつきやすいらしいし。誰かが触ったのかもしれない。

「そして三日後。またいなくなったの。今度は、血が残ってたんですって。殺されたのはまだ二匹だけど油断ならないわ。」

「……なんで殺したんだろうね?」

私が犯人だったら殺さない。あんな可愛いものを。

「そうなの。それが謎なの。まあ、気が狂ってんじゃないかしら?」

ふーん。

「私、明日から死体を探してみようと思うの。うさぎって結構大きいし、校外には持ってかないと思うの。校内に埋めたんじゃないかな?」

「じゃあ、明日は死体探しか。休日だけど部活ないし。」

そう言えば、明日は土曜日か。

「あっ私駄目だわ。部活があるの。」

じゃあ私と勇貴か。はー。

「まあ、簡単に出ないんじゃない?」

ころころと優貴は笑った。



「出なーい!」

太陽がじりじりと頭に照りつける中、シャベル片手に三時間。

「優貴の言う通りじゃない。……帰ろ!」

私は勇貴に言った。

「確かに出ないな……。シャベルは教室に置いて帰ろう。」

勇貴も諦めた。 少しひんやりしている校舎内。部活をしている音が聞こえる。吹奏楽部、合唱部、演劇部……。意外と校舎内で活動している部活は意外に多い。

「俺、優貴迎えに行ってくる。多分部活終わったと思うし。シャベル頼んでもいいか?」

返事言う前に走って行っちゃった。面倒くさいな……。なんかおごってもらおう。

 扉を開いたら、教室には篠山君がいた。多分部活動中だと思う。

「結城さん、どうしたの?部活?」

「まあ、 そんなとこ。」

 窓の下を見ると勇貴が走ってた。紫陽花は青色になっていた。

「何縫ってるの?」

篠山君は何かを縫っているようだった。窓から勇貴はもう見えなくなった。

「今度の劇で使う衣装。出演者は自分の分を自分で作らないといけないから。」

そういえば演劇部だっけ?

「何の役?」

「不思議の国のアリスの白うさぎだよ?」

――うさぎ?

冷や汗が背中を伝う。とたんに、篠山君の人のいい笑顔が怖くなった。篠山君が手にしているのは、やけにリアルな白い毛皮。

「うさぎの毛みたいね……、その布。」

きっと顔引きつっている。

「そう?努力したかいがあるよ?ベストにするんだ。」

努力って何の……?逃げたい。誰か。

その時後ろの方のドアが開いた。

「花音ちゃん、遅いよ?今、勇貴にジュース買いに行かしたから、早く帰りましょう?あら、篠山君、部活?」

優貴だ。

「優貴、帰ろう。バイバイ、篠山君。」

「え?花音ちゃん?」

私は優貴を引っ張って走り出した。後ろを見ずに。



「……花音ちゃん?」

「篠山君が犯人かもしれないっ。」

校門から少し歩いた所。頭の中が混乱してる。しかも逃げてきたし。月曜日どうしよう……。

「あっ!いた!お前らどこ行ってたんだよ?」

 ジュースを抱えて勇貴がやってきた。

「勇貴……。」

 意味もなく呼んだのは何だろう。

「花音?」

怪訝そうに見てる。

途端、私の頭をくしゃくしゃ撫でた。

「――何か、あったのか?」

心配そうな顔をしている。

私は見たことをそのまま話した。上手く話せない。うさぎが殺される瞬間を想像してしまう。

「優貴なんも見てないのか?」

「ええ。」

二人とも腕を組んで考え始めた。鏡に映したみたいだ。

「……、ひとまず帰りましょう?考えもまとまるでしょう?」

優貴の提案で私達は歩き始めた。



「で?考えはまとまったかしら?」

優貴の部屋。勇貴と同じ広さのはずなのにベルサイユ宮殿だ。(私の部屋は優貴より半畳大きいはずなんだけどな。)

「やっぱり篠山犯人じゃないか?」

それしか考えられないもの。

「でも、死体はどこに埋めたの?」

決定的な証拠よね。

「……やっぱり明日も死体探し?」

ため息が出るけど仕方ない。それしかないもの。

「死体が見つかれば、何か一緒に出てきて篠山君をぶっ飛ばせるものね。」

ぶっ飛ばすことしか考えてないのね、優貴。

「じゃあ、お開きね。また明日も頑張りましょう?」



「花音?ちょいこい。」

優貴の部屋を出たら勇貴の部屋によばれた。

「何よ?」

暑いから早く着替えたいベタベタする。

「何かされなかったか?」

「誰に?」

相手が分からないから。でも、勇貴の顔は真剣だ。

「あの、何もなかったよ?誰とも。そういえば紫陽花の色が青に変わってたんだ。なんでかな?」

変な言葉が口を出た。ああ、なんで紫陽花なんて口走った!

「……紫陽花の色は土の成分で変わるんだ。アルカリ性ならピンク、酸性なら青になる。」

物知りだな。

「土の成分ってすぐ変わるの?昨日はピンクで今日は青になってたよ。」

「は?誰かが炭酸水でも水の替わりにやったんじゃないか?」

炭酸水は酸性か。

「……?ちょっと待てよ?」

勇貴はまた手を組んで考え始めた。何か考えついたのか?

「よし!分かった!」

「は?え?」

分かったって何を?犯人?(篠山君か?)

「うさぎだよ!うさぎ!」

なんで繋がるのよ?

「桜は死体を埋めてあるから紅いだろ?」

怖いわよ……。

「紫陽花は死体を埋めると青くなるんだ――。」



――夜の校舎に忍び込む。ワクワクする響きだけど甘いもんじゃない……。(来るのにどんだけ怒られたか。)

「明日でも良くない?」

ため息と共に出てしまった言葉。だって結構怖い。

「明日も演劇部いるらしいぞ?篠山が来たらどうする?」

「私と勇貴なら花音ちゃんぐらい守れるんじゃない?」

とすかさず優貴。……自分の身ぐらい守れるわよ。

「後ろから、武器持って襲われたら分からないぞ?」

武器って……。まあ暑い中やるよりましか。……怖いけど。

 ガチャンと音がして優貴が鍵を開けた。

「ちょっと、そんなのどっから持ってきたのよ!」

きょとんとした顔で優貴は答えた。

「職員室にかけてあったのをちょっとね。」

手を振って言った。そのちょっとが知りたいのよ。

「……我が妹ながらすごいな。」

そこ感心するところじゃないよね?

電気は付いてないので懐中電灯を付けた。一人一本。

「シャベル取りに行きましょう?」

こんなとこで、優雅に微笑む優貴はやっぱり、大物だ。

歩く順番は一番が勇貴で私、優貴と続く。

「……階段登りまーす。」

「はーい。」

小声で確認。

昼間とは違う顔を見せる校舎。昼は優しい感じだけど、夜は冷たい。知らない所みたい。

階段がギシギシなる。埃の匂いがする。

「ねえ?知ってる?」

優貴が口を開いた。

「この南階段って、上りと下り段数が違うんだって。」

勇貴の肩がビクッと震えた。そういえば、勇貴怖い話ダメだっけ?

「うっ嘘だよな?」

「数えてみれば?」

「優貴、意地悪はそこまでにしてあげたら。」

私は優貴にストップをかけた。なのに勇貴は

「い、いや数える。」

なんて意地はっちゃってさ。



「…十二。」

上りきった。

「はい。勇貴君よく出来ましたー。」

優貴は幼稚園の先生ですか?

「帰りが十三だったりして。」

ケロッと笑顔で言わないで。

階段を上がってすぐに私達の教室がある。優貴は勢いよく音を立てて開けた。

「ほら、早くシャベル取って?」

……優貴はお嬢様ですか?(私は召し使い?)シャベルを取って教室を後にした。



 ちなみに階段は十三段で勇貴は逃げながら走った。



「さあ、掘りましょう?」

紫陽花の前で優貴が言う。紫陽花は青い。

「あっ、ここの土柔らかいぞ。ここか?」

さっきと打って変わって、無邪気に勇貴が掘り始める。

五分ぐらいかな。勇貴が見つけた。

「あった……。」

「えっどこどこ?」

勇貴の肩越しに見ようとした。

「見ちゃいけない!」

勇貴が叫んだけど遅かった。私は見てしまった。

皮を削がれ、腐りかけた肉片。悪臭が漂う。

ああ篠山君が皮を持ってたからか。なんて、どこか冷静な自分は考えてた。

だけど次の瞬間。記憶は落ちた。



そっくりな顔が私を覗きこんでる。

「……目、覚めた?」

優貴が聞いた。ガバッと起き上がると私の部屋だった。あれ?

「勇貴が運んだのよ。」

「……俺以外花音を誰が運べる。」

……悪かったわね。(四捨五入して五十キロ超えたらダイエットしよう。)

「うさぎ……ちゃんと埋めた?」

「うん。」

あのままじゃ、うさぎが可哀想だ。

「でね?花音ちゃん、うさぎと一緒にこれも出てきたの。」

優貴は親指ぐらいで長方形で、濃い赤のものを私に見せた。手にすると、委員会の委員長や副委員長、書記や生徒会の人が持っている。(所属ごとに色が違う)これには「書記」。色は飼育委員会。書記は二名。

「飼育委員で書記は、私と篠山君。」

優貴は制服を引っ張り出して、襟に付いている同じバッチを見せた。

「篠山君で決定?」

二人ともニコッとして頷いた。黒い笑顔で。



学校には校門が開くと同時に行った。篠山君は確か、一番に来てるはず。

勇貴がドアを開けるともういた。

「おはよう。結城さん。」

人あたりのよい顔だけど、私にはとてつもない悪者の顔に見える。

「篠山君?中庭に来てもらっていい?」

ひょいと優貴が後ろから顔を出して言った。優貴ナイスタイミング!

「……うん。今行くよ?じゃあね?結城さん。」

篠山君は意味ありげに私の方を見て笑った。

「あのー?俺無視?」

忘れてた。ごめん勇貴。本当に。

「俺らも行くか。」

もちろん。私は勇貴の手を取って優貴の後を追った。



「で?鈴宮さん僕になんのようかな?」

校舎から見えない中庭。ここまで来てしらを切るつもりか。

てか、中庭の大きい木の影で盗み見してる私達はかなり怪しい……。(誰も来ませんように!)

「私言ったわよね?うさぎを殺した犯人……。」

優貴はそこで言葉をきった。どうした?

ドオォコオン!

「ぶっ飛ばしますって?」

壁にぶつかった篠山君はきょとんとしてる。今の音は篠山君が突っ込んだ音ね?優貴に殴られて。

「俺なんかまだまだ優しくされてたんだな……。」

後ろで勇貴がボソッと呟いた。たまに痣が出来るのはそれが理由ですか?

「勇貴今度何か奢ってあげる……。」

あまりにも哀れだ。

「勇貴に花音ちゃん、いるんでしょ?ちょっと手伝ってよ?」

「え?何を?」

篠山君はロープでグルグル巻きにされてた。三十秒ぐらいで。

目を丸くした私達をみて優貴は言った。

「もちろん、埋めるわよ?」



 あの後は大変だった。深い穴掘って、篠山君入れて埋めて。(ほとんど勇貴だけど)最後に優貴が篠山君の顔に「僕はウサギ殺しです」って貼り紙を貼ってた。

なんか叫んでたけど、中庭は誰も来ない。しばらく反省してください。

「これで篠山君こりたでしょ?」

優貴は愉快そうに笑う。

「多分劇にも出してもらえないな。ウサギの皮どうすんのかな。」

と勇貴。

「先生席替え今すぐしてくんないかな……。」

これは私。だって前後だし。

「大丈夫!勇貴になんとかさせるから!ねっ?」

「分かってるよ。痛いから!」

優貴に背中を叩かれながら答える勇貴。

これにて事件は解決した。



ちなみにこの事件を小説にしたのが載った部誌は飛ぶように売れ、篠山君は先生達にスッゴく怒られた。そして私達三人(特に優貴)にびびって暮らしてる。

ではまたの機会まで。



最後は、ある小説から…

この間とは違う感じです


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