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社畜SE、異世界で“世界のバグ”を修正する ~スキルログ閲覧とパッチ適用で最強のシステム管理者になりました~  作者: 村人E


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2/7

まずは原因調査から

 空のひび割れは、一瞬で消えた。


 だが、それを見た村人たちのざわめきは消えない。


「い、今のは何だ……?」

「空が……割れたのか?」

「やっぱり、今年はおかしいんだ……!」


 広場は一気に不安に包まれた。

 さっきまで俺を奇跡の人扱いしていた連中が、今度は空を見上げて怯えている。


 当然だ。俺だって同じだ。


 ただ一人、事情を少しでも理解できそうなのが自分しかいないのが最悪だった。


「お兄ちゃん」


 袖を引かれて振り向くと、さっきの女の子がいた。涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、それでも必死に笑おうとしている。


「お兄ちゃん、ほんとにリノを助けてくれたんだね」


 どうやら倒れていた少年の名前はリノで、この子は妹らしい。


「……まあ、たまたまだ」

「たまたまでお兄ちゃんは助からないよ!」


 即座に否定された。

 その勢いに少し面食らっていると、後ろから杖をついた年配の男が近づいてきた。村長だろうか。質素だが他の村人より幾分まともな服を着ている。


「旅のお方。お礼を申し上げたい。私はこの村の長、ガルドです。どうか、我らの家で話を聞かせていただけませんかな」


 礼儀正しいが、目は笑っていない。

 当然だ。得体の知れない男が突然現れ、子供を治し、空が割れた。怪しまない方がおかしい。


「わかった。俺も聞きたいことがある」


「……聞きたいこと、ですか?」


「ああ。まずは状況確認だ」


 俺がそう答えると、村長は少し首をかしげた。


 村長の家に通された俺は、木の椅子に腰を下ろした。粗末な室内だが、広場よりは落ち着く。

 テーブルの上には温かいスープが置かれた。ありがたい。会社では障害対応中にこんな待遇は受けられない。せいぜいぬるい缶コーヒーだ。


 向かいには村長ガルド、その隣には神官らしい若い女が座っていた。白い法衣に青い刺繍。整った顔立ちだが、こちらを見る目は露骨に警戒している。


「私は神殿を預かる神官、セレナです。先に申し上げますが、あなたが何者であれ、村に害をなすなら見逃しません」


「安心しろ。俺もだいたい同じ気分だ」


「……何ですって?」


「この状況を作ったやつがいるなら、俺も見逃すつもりはないってことだ」


 セレナは黙った。

 敵意はあるが、感情だけで動くタイプではなさそうだ。


 俺はテーブルに肘をつき、二人を見た。


「確認したい。リノが倒れたのは今日が初めてか?」


「いえ……ここ最近、似たようなことは何度かありました」とセレナが答える。「突然熱を出す者、気を失う者、魔法を使おうとして暴走する者。ですが、原因はわかっていません」


「発生時期は?」


「ひと月ほど前からです」


「その直前に、何か変えたか?」


 二人はそろってきょとんとした。


「……変えた、とは?」


「設備、運用、儀式、ルール、何でもいい。トラブルの前には大抵“変更”がある」


 これはほぼ確実だ。

 システム障害の原因の半分以上は、雑な変更管理にある。


 ガルドは腕を組み、うなった。


「村では特に大きな変化は……」

「ありました」


 遮ったのはセレナだった。


 村長がそちらを見る。


「春の祝福です」と彼女は言った。「今年は不作と魔物被害が続いていました。だから、例年より強い祝福を子供たちに施しました。守りを厚くするために」


 俺は内心で舌打ちした。

 変更管理ゼロで本番投入。しかも対象は子供。現場で一番やってはいけないやつだ。


「具体的には何をした?」

「神殿の古い術式を使い、風の加護を与えました」

「その前に子供たちが元々持ってるスキルとの相性は確認したのか?」

「……相性?」


 終わっている。


 俺は額を押さえた。


「つまり、確認してないんだな」

「神の祝福に不整合などあるはずが――」

「あるから倒れたんだろ」


 セレナが言葉を失う。

 強く言いすぎたが、ここは曖昧にしても意味がない。


 俺は意識を集中し、空中にメニューを呼び出した。二人からは見えていないのか、反応がない。


ログ参照

フィルタ:対象地域/直近30日

実行しますか?


 指先で承認すると、視界の右端に文字列が流れた。


warning: local blessing module unstable

error: child_skill_conflict x 12

error: mana_route overflow x 4

warning: unauthorized access detected near shrine node

critical: kernel fragment response delayed


 最後の一行で手が止まった。


 祝福の競合だけじゃない。

 神殿の近くで、未承認アクセス。しかも“ノード”だと?


「神殿はどこだ」


 俺が顔を上げると、ガルドもセレナも驚いた表情をした。


「なぜ神殿を?」

「原因の一部がそこにある」


「一部、ですって?」


「ああ。リノが倒れた直接の原因は、祝福と固有スキルの競合だ。だが、それだけじゃ説明がつかないログが出てる」


「ろぐ……?」


「記録だ。障害記録」


 セレナは信じられないものを見るように俺を見つめた。


「あなたには……見えるのですか。この世界の異常が」


「見えてる。正確には、見せられてる」


 俺自身、まだ信じ切れていない。

 だが現実に、俺の視界にはエラーが流れている。


 その時だった。


 家の外から、悲鳴が上がった。


「た、大変だ!」

「井戸が、井戸の水が……!」


 ガルドが立ち上がる。俺たちも外へ飛び出した。


 村の中央にある石造りの井戸の周囲に、人が集まっていた。

 覗き込むと、水面が不気味に赤黒く光っている。まるで腐った光そのものが滲んでいるようだった。


「さっきまで普通だったんだ!」

「急にこんな色に……!」


 俺の視界に、またウィンドウが開く。


汚染領域を検出

発生源:地下マナ流路

汚染率:18%

原因候補:神殿ノードからの逆流

対応:上流遮断/発生源調査


「……クソ、本当にインフラ障害じゃねえか」


「何かわかったの!?」とミナが叫ぶ。


「最悪なことだけはわかった」


 俺は井戸から顔を上げ、神殿の方角を見た。丘の上、小さな石造りの建物が月明かりの下に見える。


 セレナが唇を噛む。


「神殿が、村を汚していると?」

「正確には、神殿の下にある何かだ」


「そんな……」


「セレナ、気分を害してる場合じゃない。質問を変える。神殿の地下、立ち入り禁止の場所があるな?」


 彼女の表情が止まった。

 図星だ。


「……あります」

「最初から言え」

「神官以外は入れない決まりです!」


「その結果がこれだ」


 井戸の赤黒い光を指さすと、セレナは何も言い返せなかった。


 村長ガルドが低い声で問う。


「旅のお方。あなたは、何をするつもりですかな」


 俺は数秒だけ考えた。

 ここで村を出る選択もある。関われば面倒事は増える。

 だが、すでに俺はこの世界の“管理者候補”にされた。しかもトラブルは目の前で進行している。


 見なかったことにして逃げても、たぶんもっとひどい形で追いつかれる。


「障害対応だよ」


「しょうがい……?」


「原因を潰す。まず神殿に行く。現地確認、ログ回収、影響範囲の切り分け。それから対処方針を決める」


 村人たちは半分も理解していない顔をしていた。

 だが、言っていることの勢いだけは伝わったらしい。


「い、今から行くのか?」

「夜だぞ!」

「丘の神殿には魔物も出る!」


「昼まで待てば被害が広がる」


 それは経験則だった。

 障害は、寝かせても直らない。悪化するだけだ。


 すると、セレナが一歩前に出た。


「……私も行きます」


 俺は眉をひそめた。


「足手まといになるなよ」

「神殿の鍵は私しか開けられません」

「それを先に言え」


「それに」と彼女は俺をまっすぐ見た。「神の家で起きている異常なら、目を背けるわけにはいきません」


 その目には、恐れと責任感が同居していた。

 少なくとも逃げるタイプではないらしい。


「わかった。同行を認める」


「……その言い方、腹が立ちますね」


「現場責任者ぶるのはSEの悪い癖だ」


 俺は丘の神殿を見上げた。

 その瞬間、視界の中央に赤い警告が弾ける。


EMERGENCY

神殿ノードにて権限外プロセス起動

内容:召喚系例外処理

予測結果:魔物発生まで 00:04:58


「……は?」


 カウントダウンが始まった。


00:04:57

00:04:56


 背筋が冷えた。

 障害調査どころじゃない。インシデントが進行中だ。


「セレナ、今すぐ神殿に向かうぞ」

「え?」

「四分以内に最悪の何かが出る」


「な、何を言って――」


「説明してる時間がない!」


 俺は駆け出した。

 丘へ続く石段を蹴り上げながら、心の底から確信する。


 この異世界、運用保守の概念がなさすぎる。


 そして今夜、俺は転移初日にして――

 神殿の深夜障害対応をやらされるらしい。

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