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チート部隊は魔法がなくても無双します  作者: ui
第一章 最恐の部隊

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敗北

エルリア王都に、勝利の報告は上がらなかった。

代わりに積み上がったのは、帳尻の合わない数字と、説明のつかない空白だった。


市街戦投入兵力、百二十七名。

確認死者 百十一名。

生存者 七名。

行方不明者、九名。


「――以上が報告になります」


治安局の書記官は、淡々と読み上げ、書類を閉じた。


円卓を囲む幹部たちは、誰一人としてすぐに口を開かなかった。

数字だけを見れば、殲滅に近い。

だが問題は、そこではない。


「生存者が七名……?」


軍務長官が、低く確認するように言った。


「はい。ただし――」


書記官は一瞬、視線を落とした。


「七名全員、戦闘後に離脱。その後、治療施設および収容施設にて保護されましたが、まともな状態とは…。」


円卓の空気が、わずかに沈む。


「行方不明の九名については?」


治安局長が問いかける。


「戦闘終盤、命令系統が崩壊した際に持ち場を離脱。以後、合流せず。

街外縁部までの足跡は確認されています」


「逃亡か」


「可能性は高いかと。ただし――」


「ただし?」


「彼らは、戦闘開始前に撤退禁止命令を受けています」


違反。

敵前逃亡。

本来であれば、処刑相当の罪だ。


だが、その言葉を口にする者はいなかった。


九名が逃げた理由を、

この場にいる全員が、理解してしまっていたからだ。


「……追うか?」


軍務長官が、静かに問う。


一瞬、誰も答えなかった。


追撃は可能だ。

兵を再編し、数を揃え、街道を封鎖すれば、見つけ出せるかもしれない。


だが、その先にあるものを、

誰も想像したくなかった。


術師長が、ゆっくりと首を横に振る。


「不利益が大きすぎます」


治安局長も、同意する。


「市街戦の痕跡は隠しきれません。これ以上の動員は、国内不安を招く」


軍務長官は、しばらく黙考した後、結論を下した。


「本件はここまでだ」


その一言で、すべてが決まった。


行方不明者九名は、

公式記録上「戦闘中行方不明」とされ、

追跡対象から外された。


生存者七名は、

「戦闘後急性精神障害による死亡」として処理された。


そして、

あの部隊についての記述は、

報告書の末尾に、わずか一行だけ残された。


――正体不明。所属不詳。再接触の可能性あり。


それ以上の追記は、許可されなかった。


エルリアにとって、この戦いは

勝利でも敗北でもない。


ただ一つ、確かなことがある。


これ以上関われば、国家が削られる。


そう判断された瞬間、

エルリアでの戦争は、静かに終わった。

 

数日後、

エルリア王都の執務棟にアリス王国の外交使節が訪れた。


白い石で組まれた回廊は、昼でもひんやりとしている。

高窓から差し込む光は柔らかいが、影は深く、

人の声が自然と低くなる造りだった。


エルリアとアリス王国は、六年前に全面戦争を行っている。

勝者はエルリア。

敗者はアリス王国。


その結果として課された条件は苛烈だった。

輸入品の数値目標。

関税。

事実上の経済的従属。


それが、この六年間、

当然の前提として扱われてきた。


今回の名目は、戦後処理に伴う定例の確認。

そして交易内容の多少の改変。


執務室には、香の薄い匂いが残っている。

机の上には、既に何度も読み返されたであろう資料が整然と並んでいた。

エルリア側の外交官は、背筋を伸ばし、表情を崩さない。


話は穏やかに始まった。

街道の修繕。

民間被害の補填。

今後の物流。


どれも想定内で、

どれも形式的だ。


一通りの議題が終わったところで、

使節は、まるで思い出したかのように、

書類を一枚、机の上に滑らせた。


紙が、木の天板を擦る乾いた音がする。


「――関税についてですが」


エルリア側の外交官は、

その紙に目を落とす前に、眉をわずかに動かした。


「現在の水準を、大幅に下げていただければと」


「……ほう」


短い返答。

だが、室内の空気が、わずかに張りつめる。


「そして、数値目標の撤廃も。加えて、アリス王国からの輸出品に関して、

各品目最低価格を設定させていただきます」


読み上げる口調は淡々としている。

まるで、手続きの一部を確認しているだけのようだった。


エルリアの外交官の眉間に、はっきりと皺が刻まれる。


「確かに、戦後この六年間、私たちはあなた方への配慮に欠けておりました。

そのことは、深くお詫び申し上げます。

ですが、貴殿はあくまで“敗戦国”の使節だということをお忘れなく」


声は静かだ。

だが、そこには揺るぎのない前提がある。


「もう、六年前の話では?」


使節は、遮るように言った。

声の調子は、変わらない。


挑発でも、反論でもない。

ただ、事実を並べ替えただけのような言い方だった。


「まあ、これらの内容を今日、明日決めてくれとは言いません」


使節は立ち上がりながら続ける。


「ですが、拒まれた場合――

国交断絶、という形にはならないと思いますよ」


要件が済んだと判断したのか、

使節は軽く一礼し、執務棟の扉を開けた。


廊下から流れ込む空気が、

一瞬だけ室内の温度を変える。


扉が閉まる。


ガンッ。


拳が机に叩きつけられ、

ティーカップの中の紅茶が大きく揺れた。


表面に立った波紋が、

しばらく消えない。


「……たぬきが」


吐き捨てるような声。


だが、その言葉に込められていたのは、

怒りだけではなかった。


説明のつかない違和感。

そして、何かが静かに動き始めているという予感だった。


戦闘から一週間。


第■特殊部隊は、

すでにエルリアの街を離れていた。


街道の途中。

関所でも、宿でもない場所で、

彼らは一度だけ足を止めた。


待っていたのは、

武装していない一団だった。


「アリス王国だ」


代表の男が、そう名乗った。


条件は簡潔だった。

亡命でも、雇用でもない。


「保護する。代わりに、力を貸してもらう」


理由は語られない。

だが、必要とされていることだけは明白だった。


六人は、短く視線を交わす。


すでに、選択肢は一つしか残っていなかった。


彼らは、街道を進む。


エルリアを背に。

アリス王国へ。


それが、

次の戦場になると知りながら。











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