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チート部隊は魔法がなくても無双します  作者: ui
第一章 最恐の部隊

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MED――第■特別行動隊

砲撃は三日目に入っても止む気配を見せなかった。


連合軍第三歩兵大隊は、夜明け前の濃い霧の中で陣地を維持していた。

前線は地図の上ではほとんど動いていない。

司令部の報告書には、膠着状態と記されるだけだ。

だが現場にいる者なら分かる。これは停滞ではない。

ある種の蹂躙だ。


補給は目に見えて遅れ、弾薬の配分は日に日に厳しくなる。

無線は繋がっても雑音が混じり、肝心な時に沈黙することが増えた。

兵の顔には疲労よりも、別の色が浮かんでいる。

恐怖だ。

それも、敵の姿を前にしたものではない。


いつも異変が起きるのは、夜間警戒の交代時だった。


後方監視線へ向かった伝令兵が、定刻を過ぎても戻らない。

二人一組で行動させていたはずだが、無線からの応答はない。

見張り塔も沈黙したまま。

敵襲にしては静かすぎる。


「…Again.」

(……またか)


中隊長は歯を噛みしめた。

ここ数週間、同じ事象が繰り返されている。

哨戒が消える。補給車列が止まる。

戦闘とは直接関係のない部分だけが、選び抜かれたように機能を失っていく。


前線で大規模な衝突は起きていない。敵部隊が進軍した形跡もない。

それでも戦況は、確実に悪化していた。


「Captain…」

(中隊長……)


副官が声を潜める。

周囲の兵たちは、耳を澄ませるようにこちらを窺っていた。

誰も口にはしないが、全員が同じことを考えている。


――まさか、本当に存在していたとは。


「Don’t say the name.」

(その名前を出すな)


中隊長は短く言った。

それ以上は語らない。語りたくもなかったのだ。


しかし、悲劇は終わらない。

補給線の外れで、爆発が起きた。

火薬庫ではない。車両でもない。爆風は弱く、火も上がらなかった。

それなのに、補給物資の大半が使用不能になっていた。

箱は無事だが、中身だけが壊れている。破壊の仕方が、あまりにも異様だった。


通信兵が、青ざめた顔で駆け戻ってくる。


「The rear unit is… non-operational.Casualties are minimal, but the commanding officers and communications personnel were targeted…」

(後方部隊が……機能停止です。死者は最小限ですが、指揮官と通信要員が重点的に狙われています……)


中隊長は、もう否定しなかった。


「…The ■ Special Operations Unit?

(……第■特別行動隊か?)」


その場にいた全員が息を呑む。

番号の部分は、誰も口にしない。

文書では黒塗り、口頭では欠番。

存在しているのに、確定させてはいけない部隊。


別名、MED。


所属国も、編成も、正確な戦果も分からない。

ただ一つ、前線では共通認識があった。


MEDーMeet Equel Death(出会い=死)ー


近くで陣地の外で短い銃声が鳴った。

砲撃でも爆発でもない、異様に乾いた音。


照明弾を上げる前に、通信が落ちた。

指揮官が倒れ、副官が負傷し、命令が途切れる。


敵影は見えない。

だが、こちらの選択肢だけが消えていく。


「Prepare to withdraw.」

(撤退準備だ)


中隊長は理解していた。

今ここで生きているだけでも奇跡に近いということを。


歩兵隊がぞろぞろと引き換えしていく。

最初の数から半数近くが削られていることに気が付き、中大将はさらに絶句した。



そんな様子を、反対側の丘の上で六人の影が静かに見下ろしていた。


伏せた姿勢のまま、誰一人として無駄な動きをしない。

視線はそれぞれ異なる方向を向いているが、意識は一つに集約されている。

撤退する歩兵隊の列、その後方、補給線の末端。

どこに追撃の必要もないことを、全員が理解していた。



「……終わったな。山城さんを呼んで来い」

隊長の声が水面のように響き渡る。


「了解」

短く応じた通信役が、暗号化された回線を繋ぐ。

その動作に迷いはなく、状況説明も最小限だった。


「部隊、機能喪失。指揮系統なし。補給途絶。戦闘継続は不可能です。」


淡々とした言葉が並ぶ。


狙撃手は照準を外し、銃を下げた。

照準線の先には、もはや“標的”と呼べるものは存在しない。

命令系統を失った集団は、戦闘単位として成立しないのだ。


「確認だけでいいんですね」


「ああ。念のため山城さん以外は俺についてこい」


「はっ」


六人は丘を下り、戦争地帯へと足を踏み入れた。

彼らの任務は、敵を殲滅するだけではない。


この部隊が投入される戦地は、例外なくその後を見据えられている。

将来、民間人が戻れる土地であること。

農地や街道として再利用できること。


だからこそ、地雷になり得る装備や、見えない形で残る危険を徹底的に排除する。

それらも、彼らに課された仕事だった。


戦場は静かだった。

静かすぎるほどに。


その最中、ある廃墟が六人の視界に入った。

半壊したコンクリートの構造物。

過去の戦争で使われ、放棄されたままの施設だ。


隊長が手を上げる。合図はそれだけで十分だった。


間隔を保ち、無言で内部へ入る。

銃は下げているが、警戒は解かない。

これは緊張ではなく、習慣だ。


だが、一歩踏み込んだ瞬間、違和感が走った。


説明できない。

だが、全員が同時に感じ取っていた。


瓦礫ではない。土でもない。

足元にあるのは、石畳。


隊長が即座に手を上げる。


「全員、停止。」


「隊長、これはいったい……」


言葉の続きを、空気が遮った。


音が遠のく。

圧力がかかったように、鼓膜が歪む。


視界の端が揺らぎ、色が抜け落ちていく。

足元には、禍々しい文様のようなものが刻まれていた。


「分からん。安全のため、一旦外に出るぞ」


だが、外に出た瞬間、六人は言葉を失った。


そこに広がっていたのは、荒野でも、瓦礫に埋もれた街でもない。


森だ。見たことのない巨大な植物が生い茂る森。

「なんだ…これ。」


隊員の一人がつぶやく。


そのまま六人は、周りの状況をつかめず立ち尽くすしか出来なかった。



 



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