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第3話:パーティを組もう

――冒険ギルド。


それは大陸を横断し、世界中の人々にロマンと冒険のドラマを与える人類の最前線の一つ。

近隣の魔獣退治から、巨獣の捕獲、果ては魔王討伐に至るまで。


あらゆる金と願いの渦巻く、そこはまさに冒険の心臓部。


現在王国では保険コーポと並ぶ民間最大組織の一つであり、その中枢部は絶大な権力を有しているとも。


「なるほど、絶対に需要の減らない取引の中心部分をがっちり独占してるってわけか...そりゃ建物もこんなにでかくなるわけだ」


そんな巨大組織の提供するサービスの一つが、冒険者登録。


「なあ、ルル」

「どうしたのかな、ライチくん」

「なんで、こんなことになってるんだっけ...」


俺たちは登録書中から取り囲まれるように目線を向けられていた。



――現在ライチとルルがいる街・クワロドは、歴史ある街である。




かつては大陸横断交易の要衝として栄え、迷路のように入り組んだ石畳の路地には、数百年もの間、数多の商人と旅人の足音が刻まれてきた。


今日もこの街は、行きかう人々を静かに見守る。

――低い、けれど透き通った鐘の音が街に響き渡った。


それが合図だったかのように、あちこちで「ガタガタッ」と木製の鎧戸よろいどが開く音が重なる。 窓辺に飾られた赤い花が、差し込み始めた朝日を浴びて鮮やかに燃えていた。




カツ、カツ、と石畳を叩く乾いた靴音。 脇の路地では、店主がホースで勢いよく水を撒き、大きなブラシで街路を掃き清めている。




アスファルトと排気ガスにまみれた東京の朝とは違う、少し湿った石の匂いと、どこからか漂う焼きたてパンの香ばしい香り。




「ほらライチ。ギルドは朝から混むんだから、早く行かないと置いていくよ」


「あ、悪い……。朝の街があんまり綺麗だったから、つい」




俺たちは、ギルドに向かって朝の街を歩いている。




治安さえ気にしなければ、とてもきれいで散歩しがいのある街だ。




――だが。




「服、本当に着替えなくてよかったの?」


「まじ、それな。」




昨日はあまり人通りの多いところに出なかったのであまり気にならなかったが、いざ人通りの多いところに出れば浮きっぷりが半端ない。




周囲を歩く人々は、中世ヨーロッパを思わせるリネンやレザーの服を纏っている。 その中で、ポリエステル100%の、どこか光沢のある紺色のジャージ。 石畳の上で、俺の足元だけがスニーカーのラバーソール特有の「キュッ」という、場違いな摩擦音を立てていた。




だからこそ。


この違和感を消すためにも、まずはこの世界での「市民権」……すなわち、ギルドへの登録を済ませなければならない。




「ルル、あのデカい建物がそうか?」


「そう。この街で一番、夢と現実が交差する場所――冒険者ギルドだよ」


▽▲▽▲



「……うわ、すごい活気だな」




「活気っていうか、殺気でしょ。朝はみんな、実入りのいい依頼クエストの奪い合いだから」


ルルは慣れた足取りで、荒くれ者たちがたむろする掲示板を素通りし、奥の受付カウンターへと向かう。 ポリエステル100%の紺色ジャージを着た俺への視線は、好奇というよりは「ゴミを見るような蔑み」に近かった。この世界の住人にとって、装備を整えていない人間は、ただの「死に損ない」でしかないのだろう。







カウンターの向こう側、退屈そうに書類を捲っていたのは、彫りの深い顔立ちをした不愛想な中年男だった。


「身元不詳の迷い子を一匹拾ったの。仮の登録証を発行して。あと、『判定』もお願い」




「あ?」


受付の男――バドと呼ばれた男が、不機嫌そうに顔を上げ、俺の全身を舐めるように見た。




判定とは、審査のようなものだろうか?




「おいおい、冗談だろ。そんな貧相なナリのが、適性持ちだって?」


「いいから、規則でしょ。はい、これ手数料の銅貨3枚」




「ふん。……いいぜ。そこの黒石に手を置け」




バドが顎で示したのは、カウンターに埋め込まれた拳大の黒い石だった。 表面には文字も目盛りもない。ただ、吸い込まれるような深淵の黒がそこにあるだけだ。




「ライチ、手を。怪しいものじゃないから、大丈夫だよ」




「お、おう...」


(指紋認証みたいなもんか...?)




促されるまま、右手をその冷たい石の上に置いた。




「ま、期待はしないことだ。適性なんてのは、万人に一人の……」


バドの冷ややかな言葉が、途中で凍りついた。

うっすらと、黒石が光りだした。


「……なっ!?」

「え、うそ!?」

「え、なに!?」


「い、色は!?」

「赤か!?青か!?」

「...茶色...?」

「うお熱いっ!」


うっすらと茶色く光り始めた途端、急に熱くなったので反射で手を放してしまった。


「ちょ、手放しちゃだめだよ!」

「え、ごめん!だってびっくりしたし...」



「……バカ、今の光、見てなかったの!?」

ルルが俺の肩を掴んで揺さぶる。その瞳には、さっきまでの余裕は欠片もなかった。

「おい……今、光ったよな?」 「ああ。でも、赤でも青でもなく……茶色?」 「あんな光り方、見たことあるか?」


掲示板の前にいた荒くれ者たちが、一人、また一人とこちらを振り返る。さっきまで目もくれなかったのに、好奇の視線と、品定めをするようなまなざしが注がれているのを感じた。


「茶色...なんか、いまいちだな」

「ど、どうなんだろう...一応、すきるはあるってことだし、良しとしようよ」

「....いや、だめだ。」



一瞬の沈黙。

「...とりあえず、再判定だ。銅貨三枚よこしな」


「……えっ」


――ギルドへの登録、計銅貨6枚。




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