表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カフェの探偵学 ~時間凍結の中で動けない犯人を、コーヒー一杯で論破する方法~  作者: 月祢美コウタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/6

凍結された時間

世界が、止まっていた。

音も、光も、カフェ・ムーンライトに満ちていたはずの温度さえ、ひとつの瞬間に縫い留められている。

湯気の立ち上る途中で固まったカップ。壁に掛けられた時計は、秒針を失ったかのように沈黙していた。


「……これが、時間を凍結させた状態」


陽菜は、言葉を失った。

動いているのは、陽菜とヒナリアだけだった。


「安心して。この状態なら、犯行の痕跡は壊れないわ」


ヒナリアはそう言って、個室の中をゆっくりと歩いた。足音は、ほとんど響かない。音そのものが、空間に吸い込まれているようだった。


「……でも」


陽菜は、伯爵の遺体から視線を離せずに言った。


「どうして、殺されたんでしょう。誰も動けないはずなのに」


「だからこそ、魔法が疑われるの」


ヒナリアの声は、淡々としている。


「異世界には、時間凍結の中でも行動できる術式が存在する。研究段階のものだけれど……理論上は可能よ」


"可能"。

断定ではなく、あくまで仮説。それでも、陽菜の胸はざわついた。


「じゃあ……犯人は、この部屋を歩き回って……」


「そう考えるのが、自然でしょうね」


ヒナリアは懐中時計を軽く弾き、個室の隅に視線を向けた。

そこで、陽菜はそれを見た。


「……影?」


壁に、不自然な影が落ちている。

人の形に近いが、どこか歪だ。肩幅が曖昧で、輪郭がやけに細く――どこか鋭い。まるで、人と物の中間のような――そんな印象。


「誰かが……そこに立っていた、ってことですか?」


「そう見えるわね」


ヒナリアは、肯定も否定もしなかった。

陽菜は影を見つめながら、説明できない違和感を覚える。


「時間を止めて、動けて、そのまま伯爵を刺した……」


「鉄壁のアリバイね」


ヒナリアは静かに頷いた。


「時間凍結中の殺害。外部から見れば、完全犯罪に見える」


陽菜の視線が、テーブルに残されたカップへ移る。


「……でも」


小さな引っかかりが、胸の奥に残っていた。


「伯爵、コーヒーを飲んでいませんでした」


「ええ」


「毒殺なら、飲ませた方が自然です。それに……」


陽菜は、言葉を選びながら続ける。


「刺し傷は正面。争った形跡もない。椅子も倒れていません」


凍結された部屋を、改めて見回す。


「もし犯人が自由に動けたなら、もっと"整えられた現場"にできたはずです」


沈黙。

ヒナリアはすぐに答えなかった。懐中時計を指先でなぞりながら、陽菜を見つめる。


「……なるほど」


それだけ言って、時計の蓋を閉じた。


パチン。


音と共に、世界が動き出す。

止まっていた空気が流れ、カフェの日常が、何事もなかったかのように戻ってくる。


「今は、その考えでいいわ」


ヒナリアは、いつもの席へ戻りながら言った。


「"時間凍結中に動ける犯人がいる" まずは、そう仮定して進みましょう」


陽菜は頷いた。

だが、胸の奥の違和感は消えない。


本当に、犯人は動いていたのか。

それとも――動いていないのに、動いたように見えただけなのか。


カフェ・ムーンライトの夜は、まだ答えを教えてくれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ