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Refream  作者: ria
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8章 影を纏った笑み

展示会が終わった夜、会場の照明がほとんど落ちていた。

白いスクリーンに映像の残光が揺れ、テーブルの上には資料と紙コップが散らばっている。

佐藤は片づけをしていたが、どこか落ち着かない表情で手を止めた。

そのとき、背後から低く柔らかな声がした。

「いい展示だったね。……特に、あの“思い出の映像”。」

振り向くと、黒いスーツに身を包んだ男が立っていた。

歳は四十代前半ほど。笑っているのに、目の奥が冷たい。

男はゆっくりと手を差し出した。

「黒川慶一。小さな投資会社をやっていてね。こういう“情緒産業”には興味があるんだ。」

佐藤は名刺を受け取り、目を輝かせる。

「見てくださってたんですか?」

「もちろん。ああいう温かい企画、最近は珍しい。でも……正直、もったいないね。」

「もったいない?」佐藤が眉を上げる。

黒川は軽く笑いながら椅子に腰を下ろした。

「感動ってやつは、売れる。誰もが欲しがる“幻”だからね。

 だけど君たちは、それを小さな箱に閉じ込めている。」

その言葉に、松田が片づけの手を止めた。

「……小さな箱、ですか。」

黒川は肩をすくめる。

「感情も商品だ。泣ける広告がクリックを稼ぐように、思い出も、金になる。

 “人の記憶を再現するサービス”なんて、夢があって実利もある。完璧だよ。」

佐藤は口元をほころばせた。

「……確かに。資金があれば、もっと多くの人に届けられる。」

「そう。僕の会社なら、その資金を出せる。」

松田はその言葉に、わずかに眉をひそめた。

黒川の言葉の端々から、“人の心”より“数字”の匂いがする。

確かに資金は欲しい。だが、胸の奥に小さな違和感が残った。

「お金は大事です。でも……僕たちは、見た人の心が動くことを一番に考えたいんです。」

黒川は笑った。

「心が動けば金も動く。結局、同じことだろう?」

その言い方が、松田には妙に冷たく聞こえた。

「違うと思います。お金が動かなくても、心が残る仕事をしたいんです。」

「理想家だなぁ。」黒川は鼻で笑った。

「でもね、理想だけで母親の薬代は払えない。」

一瞬、空気が凍りついた。

佐藤の目が見開かれ、松田は顔を上げた。

「……なんで、母のことを」

「噂で聞いたよ。君がここで活動してる理由くらい、調べれば分かる。」

黒川の声には、悪意とも同情ともつかない響きが混じっていた。

松田は返す言葉を失い、拳を握る。

「……俺の母のことを金で語るな。」

黒川は少しだけ目を伏せ、何かを考えるように沈黙した。

その表情に、ほんの一瞬だけ――寂しさの影が差したように見えた。

だが次の瞬間、いつもの薄笑いに戻る。

「まぁ、悪く思わないで。僕は単に、才能を伸ばしたいだけだ。

 考えておいてくれ。世の中、理想と金のバランスがすべてだ。」

黒川は名刺をテーブルに置き、軽やかに立ち上がる。

「……君たちの夢、悪くない。ただ“売れる夢”に変えられるなら、もっといい。」

そう言い残して、会場を後にした。

残されたのは、名刺と香水の匂い、そして奇妙な静けさ。

佐藤は名刺を見つめながら呟く。

「……資金、必要だよな。黒川さん、悪い人じゃないかも。」

松田は黙ったまま、スクリーンに映る残像を見ていた。

ぼやけた映像の中で、自分の母が笑っている。

――その笑顔が、どこか遠くへ消えていく気がした。

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