表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Refream  作者: ria
23/27

23章 記憶の残響

仮設の倉庫での開発は、ゆっくりと、しかし確実に前へ進んでいた。

古びたVRゴーグルを分解し、センサーを調整し、

中古PCを何台も繋げて、即席のネットワークを組む。

「――起動、いけるぞ。」

佐藤の指がスイッチを押す。

数秒の静寂のあと、

モニターに“Future Memory Engine - α版”という文字が浮かび上がった。

松田は思わず笑みをこぼす。

「やったな。」

「いや、まだ“動いただけ”だ。……ここからが地獄だぞ。」

ふたりは深夜までコードを書き続けた。

寝不足でフラつきながらも、心の中には確かな高揚があった。

数日後。

松田は母の見舞いを終えて、再び倉庫に戻った。

ドアを開けた瞬間、ふと空気が違うのに気づく。

――佐藤が、黙り込んでいた。

モニターには、

青白い映像が繰り返し流れていた。

夕暮れの川辺。

制服姿の少年たち。

笑い合う声。

松田は眉をひそめた。

「……それ、誰の映像だ?」

佐藤は無言のまま、ヘッドセットを外した。

そして、ぽつりとつぶやく。

「……友達だよ。昔の。

 高校のときに……事故で死んだやつ。」

松田は息を呑む。

「テスト中、映像を生成させたら……勝手に出てきたんだ。

 “入力したキーワード”とは関係なかった。

 でも、確かにあいつの声が聞こえた。」

彼の手が震えていた。

コードを通して再構築された“記憶”が、

意図せずして“死者”を呼び起こしたのだ。

その夜、松田は一人でシステムを解析した。

プログラムの一部が自動的に拡張され、

“脳内補完”機能が勝手に作動している。

――人の心が、「見たい未来」を自ら生成していた。

つまり、

AIでもデータでもなく、

人間自身が幻を作り出していた。

「……これが本当に、希望の装置なのか?」

松田はディスプレイを見つめ、

しばらく何も言えなかった。

翌朝。

佐藤がコンビニのコーヒーを手に戻ってきた。

「昨夜のデータ、見た?」

「ああ。」

「……俺、あの映像、もう一度見たい。」

松田は首を横に振る。

「だめだ。あれは不安定すぎる。」

「でも、もしあいつが本当に――」

「佐藤!」

松田の声が鋭く響いた。

「お前まで黒川みたいになるなよ。

 “記憶”を人のために使うんじゃなくて、“自分のため”に使い始めたら終わりだ。」

沈黙。

佐藤は俯いたまま、拳を握る。

「……悪かった。

 けど、もしこれが人を救う技術なら、

 もう一度だけ、試したい。」

その言葉には、悲しみと執念が混ざっていた。

松田は深くため息をつく。

「……一度だけだ。」

その夜、再び装置が起動した。

ヘッドセットの中で、佐藤は静かに目を閉じる。

“川辺の風”“笑い声”“肩を叩く手”

現実には存在しないはずの感触が、確かにそこにあった。

だが、次の瞬間――

ノイズが走り、映像が白く焼けた。

佐藤の呼吸が乱れ、心拍数が上昇する。

松田が慌てて停止ボタンを押す。

「佐藤! 聞こえるか!」

ヘッドセットを外した佐藤は、汗でびっしょりだった。

だが、その顔には涙と笑顔が混ざっていた。

「……見えたんだ。

 あいつ、笑ってた。」

松田は何も言えなかった。

ただ、静かに佐藤の肩を叩いた。

倉庫の外、夜明け前の風が吹く。

空が淡く光り始める。

松田はその光を見つめながら思う。

――この装置は、もしかしたら“奇跡”かもしれない。

でも、同時に“禁断”でもある。

未来を見せることは、人を前に進ませるのか。

それとも、現実から遠ざけるのか。

答えは、まだ見つからなかった。

そして数日後。

「Future Memory」宛に、一通のメールが届く。

件名にはこう書かれていた。

「黒川です。――話がしたい。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ