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Refream  作者: ria
21/27

21章 リプレイの夜

デモ公開から三週間。

「ReLive」は爆発的な話題になった。

有名人やインフルエンサーが次々と体験動画を投稿し、

“泣けるテクノロジー”というタグがSNSのトレンドに居座り続けた。

黒川の会社は新規出資を受け、

全国展開が決まり、次のバージョンでは

“個人記憶のアップロード機能”が実装される予定だった。

だが、松田には喜ぶ気持ちはなかった。

開発室の隅、深夜のモニターに映るデータを見ながら、

心のどこかで警鐘が鳴り続けていた。

――使用者の脳波異常、感情フィードバックのループ発生。

リポートにはそう書かれていた。

“使用者が記憶の中から出てこなくなる”という苦情が数件届いていたのだ。

「……おかしい。同期プログラムは安定してるはずだ。」

松田はモニターをにらみながら、

眠そうな目でキーボードを叩く佐藤に声をかけた。

「佐藤、ユーザーデータ、もう一度チェックしよう。

 脳波の収束値が異常に長い。」

佐藤は小さくうなずいた。

「……わかってる。けど、黒川に報告したら止められる。」

「止められていい。危険かもしれないんだぞ。」

「でも、止めたら資金が飛ぶ。チームも解散だ。」

短い沈黙。

二人の視線がぶつかる。

「松田、俺たち、夢見すぎたんだよ。」

「……まだ夢の途中だろ。」

「そうか? 俺にはもう、現実のほうが夢に見える。」

疲れた笑み。

その瞳の奥には、かつての情熱と同じだけの後悔が宿っていた。

翌日。

社内会議室では黒川が記者たちを前にプレゼンをしていた。

「ReLiveは、人々に希望を与える装置です。

 “過去の幸福”は、未来への力になる。

 私たちは、人間の記憶の可能性を信じています。」

記者たちは拍手を送る。

だが、その会場の外で、一人の女性が静かに泣いていた。

彼女の名前は香苗。

最初期の被験者の一人で、亡くした妹との記憶を何度も体験していた。

だが最近、彼女は「現実の妹の顔が思い出せない」と訴えていた。

「何度も再生しているうちに、本当の記憶が上書きされるんです……

 あの子の笑い声が、機械の音と同じになっていく……」

その映像はネットに流出し、炎上した。

“人の心を壊す装置”――そんな見出しが各メディアを駆け巡った。

黒川は激怒した。

「誰が情報を流した!?」

怒声が会議室に響く。

松田は冷静に言った。

「……真実を隠しても、いずれ暴かれる。」

「真実? 君の“理想”のほうがよほど危険だ!」

黒川は机を叩いた。

「いいか、松田。人は過去に縋ることで生きてるんだ。

 それを奪う権利が君にあるのか!?」

言葉に詰まる松田。

そこへ、佐藤がゆっくりと立ち上がった。

「……黒川さん。

 俺たちは“生きるための記憶”を作りたかったんです。

 “生きられなくなる記憶”じゃない。」

会議室に沈黙が落ちた。

黒川の目が、氷のように冷たく細まる。

「……理想主義者どもが。なら好きにしろ。

 ただし、契約は今日で終わりだ。」

その瞬間、松田たちはすべての資金と権利を失った。

夜、会社を出た二人は、街の隅にある安い食堂で黙ってラーメンをすする。

湯気の向こう、佐藤の頬に涙が光った。

「……俺たち、終わったな。」

「終わってねぇよ。」

松田は箸を置き、まっすぐ佐藤を見た。

「過去を“売る”のが間違いだった。

 次は、未来を“作る”装置を作ろう。」

佐藤はしばらく黙っていたが、

やがて、ゆっくりとうなずいた。

「……そうだな。俺たち、まだ途中だった。」

二人はラーメンを食い終えると、

夜明け前の風の中、再び歩き出した。

ビルの上空、壊れかけた「ReLive」の広告がチカチカと点滅していた。

“思い出を、もう一度”

その文字が消えるたびに、

どこかで新しい何かが始まろうとしていた。

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