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Refream  作者: ria
20/27

20章 記憶をある街の片隅で

都心の駅前に、新しくオープンした体験型展示スペース。

黒川が率いる投資チームの資金で、

VR記憶体験システム「ReLiveリライブ」のデモンストレーションが行われた。

壁一面に設置されたモニター。

「あなたの記憶に、もう一度会える。」

というキャッチコピーが光る。

通りには長蛇の列ができ、SNSには

“亡くなった母に会えた!” “人生が変わる体験!”

という投稿が溢れていた。

成功──そう見えた。

松田以外の全員にとっては。

「すごい反響ですね!」

スタッフの一人がはしゃぐように言う。

黒川は上機嫌でワインを掲げた。

「君たちの理想は、もう社会の中心にいる。

 人は、過去を欲してるんだ。」

その言葉に拍手が起きた。

けれど松田の胸には、冷たい違和感が残っていた。

“欲してる”──まるで依存を煽るような響きだった。

壁のスクリーンでは、

老婦人が亡き夫と踊る映像、

青年が幼いころの兄と再会する映像が流れていた。

涙、笑顔、歓声。

確かにそこに“救われている人たち”がいる。

だが同時に、何かが壊れていく音も、松田には聞こえていた。

夜、イベントが終わったあと。

会場の片隅で、松田は佐藤に声をかけた。

「……お前、本当にこれでいいのか?」

「なにがだよ。」

「記憶を“商品”にしてる。

 あの日、俺たちが話してたこと、もう忘れたのか?」

佐藤は少し黙ってから、疲れた笑みを浮かべた。

「松田。理想だけじゃ、誰も救えないんだよ。」

「違う。理想があるからこそ、救えるんだ。」

言葉がぶつかる。

小さな声だったが、その空気は重かった。

「黒川のやり方じゃ、いずれ人が壊れる。」

「でも、黒川がいなきゃ今の開発費は出なかった。」

佐藤の目の下には深いクマができていた。

この数週間、ほとんど寝ていない。

けれど彼の目の奥には、まだ“あの日の光”が残っていた。

「……俺は、もっと先を見たいんだ。」

「先?」

「過去じゃなく、未来の記憶を作る装置にしたい。

 誰かに会うんじゃなくて、“誰かとこれから会うための勇気”を与える。

 そういうものに、いつか。」

その言葉に、松田は息を呑んだ。

久しぶりに、佐藤の“らしさ”を見た気がした。

だがそのとき、背後からゆっくりと拍手の音が響いた。

「理想論は美しい。だが、資金は現実だ。」

黒川だった。

グレーのスーツに、冷たい笑み。

その目だけが妙に熱を帯びていた。

「未来の記憶? 悪くない。だが、人は未来より“過去”を買う。

 懐かしさこそ、最大の市場だ。」

「あなたはそれでいいのか?」

松田が問う。

黒川は肩をすくめた。

「いい悪いではない。

 私は“生き延びる”ことを選んだだけだ。

 人は過去にすがってしか、生を保てない。」

松田は目を細めた。

その言葉の奥に、かすかな痛みを感じた。

黒川が去ったあと、

佐藤は壁に寄りかかって小さく笑った。

「……あの人、きっと昔、誰かを失ってる。」

「どうしてそう思う。」

「わかるんだ。ああいう目をしてる奴、見たことあるから。」

松田は黙った。

かつての佐藤の友人──優斗の話が、頭をよぎった。

帰り道。

夜風がビルの谷間を抜ける。

ネオンの下で、「ReLive」の広告が淡く光っていた。

“思い出を、もう一度。”

松田はその光を見上げながら、

胸の奥に沈む言葉を噛みしめた。

“もう一度”ばかりじゃ、

人は前に進めない。

それでも、彼はまだ信じていた。

いつか、自分たちの技術が“誰かを過去ではなく未来へ”導ける日を。

そしてそのために、

再び佐藤と、もう一度“夢”を語れる日が来ることを。

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