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Refream  作者: ria
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17章 光の報せ

翌朝、工房の扉を開けた瞬間、

松田は胸騒ぎを覚えた。

部屋の中にはスタッフが十人ほど集まり、

パソコンの前に群がっていた。

「どうした?」

一人が振り向いて答えた。

「ニュースですよ!“思い出を映す装置”が話題になってます!」

松田の心臓が跳ねた。

大型モニターには、

「人の記憶を再現する新技術──追憶の装置が完成か」

というニュース映像が流れていた。

映し出されたのは、昨夜のテスト映像。

ノイズ混じりの中で、子どもの笑い声が響く。

その横に、黒川の名前と会社ロゴが映っている。

──どうして、あの映像が。

「黒川がリークしたな……」

松田が呟く。

スタッフたちは興奮気味に口々に言う。

「すごいじゃないですか!問い合わせが止まりません!」

「スポンサーも名乗り出てます!」

その中心に立つ佐藤だけが、

何も言わず、画面を見つめていた。

松田が歩み寄り、小声で言った。

「佐藤、これはお前が出したのか?」

「違う。俺も今見た。」

「じゃあ黒川が勝手に……」

「でも、結果的に注目された。」

佐藤は低く言う。

「これで資金が入れば、装置を完成させられる。」

「佐藤、お前……それでいいのか?」

「悪いことばかりじゃない。

 助けを求めてる人たちが、きっとこの装置に救われる。」

松田は言葉を失った。

佐藤の言葉は、どこか祈りのようで、同時に狂気にも近かった。

数日後。

テレビやSNSでは連日「記憶の装置」の話題が流れ続けていた。

賛否両論、熱狂と批判。

「亡くなった家族にまた会えるなんて……」

「現実逃避を助長するだけだ」

「倫理的に問題がある」

そして、

「実際に体験したい」という希望者の問い合わせは

日に日に増えていった。

松田は街を歩きながら、

電光掲示板に映る報道を眺めた。

“VRを超えた没入型装置”

“記憶を売買する時代の幕開けか”

人々は夢中になっていた。

けれどその“夢”が、どこか歪んで見えた。

工房に戻ると、

佐藤がインタビューを受けているところだった。

ライトの下で、落ち着いた声で話している。

「私たちの目的は、人の過去を奪うことではなく、

 “再び向き合う場”を与えることです。」

──完璧な答えだ。

でも、松田は分かっていた。

その言葉の裏に、どれだけの葛藤が隠れているかを。

撮影が終わると、

佐藤が少しだけ笑ってこっちを見た。

「どうだった? ちゃんと伝わってた?」

「うん……うまくやってたよ。」

それ以上、何も言えなかった。

夜。

松田は一人、工房の奥にある端末を開いた。

そこには、黒川からのメールが届いていた。

【件名】今夜、話がある

【本文】“次の段階”に進む準備が整った。

    君も立ち会うべきだ。

松田は数秒間、画面を見つめたあと、

スマホを握りしめた。

「……また勝手に進める気か。」

そのとき、背後から声がした。

「松田、帰らないのか?」

振り向くと、佐藤がいた。

疲れた顔で、それでも目だけは輝いていた。

「黒川のところに行くのか?」

「……行かない。」

「行ったほうがいい。」

佐藤の声には、わずかな哀しみが混ざっていた。

「彼が何をしようとしてるか、俺も全部は分からない。

 でも、俺たちだけじゃ“理想”は形にできないんだ。」

「それでも黒川は信用できない。」

「信用できなくても……“利用”はできる。」

その言葉を聞いた瞬間、

松田の胸の奥で、何かが決定的に壊れた。

「……お前、変わったな。」

「そうかもな。」

佐藤は笑った。

「でも、変わらなきゃ誰も救えない。」

その夜、二人は無言のまま別れた。

同じ夢を追っていたはずの二人が、

今では全く違う光を見つめていた。

翌朝。

ニュース番組のテロップに、

「追憶装置の被験者募集開始」という文字が流れた。

開発責任者──佐藤悠人。

松田はテレビの前で、

その名前を見つめながら呟いた。

「……もう止まらない、か。」

外では、朝日が昇っていた。

柔らかな光がビルの窓を照らし、

まるで新しい時代の幕開けを告げているかのようだった。

だが、松田の胸の中では、

その光が、どこまでも冷たく感じられた。

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