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Refream  作者: ria
12/27

12章 亀裂の音

「なあ佐藤、この試作データ……どこまで進んでる?」

松田の問いかけに、佐藤は一瞬だけ視線を逸らした。

ディスプレイには、VR装置の新しいシミュレーション画面。

数日前、黒川に渡したのと“ほとんど同じ構造”だった。

「まだ安定しない。メモリの部分でエラーが出てる。」

「そうか……」

松田は椅子に座り、モニターを覗き込む。

「すげぇな……映像がまるで、記憶の中みたいだ。」

その言葉に、佐藤の心が一瞬止まる。

“記憶の中みたいだ”――それが、本来の理想だった。

誰かの大切な思い出を、もう一度感じられる装置。

母の笑顔をもう一度見たい。

そう願って始めた夢のはずだった。

けれど今、机の下のポケットには黒川に渡した外付けドライブがある。

罪の重みは、金属よりもはるかに冷たい。

「……松田、もしさ、この装置で“記憶を共有できる”ようになったら、どう思う?」

佐藤は、あえて何気ない調子で聞いた。

松田は少し考えてから、笑った。

「おもしろいけど、危ないな。

 人の心は、触れたら壊れる。

 俺たちがやりたいのは、“再現”であって、“侵入”じゃないだろ?」

その言葉が胸に突き刺さった。

やっぱり、この人は変わらない。

理想を捨てられない。だからこそ、まぶしい。

「……だよな。そうだと思う。」

佐藤は笑い返した。

けれど、その笑顔の裏で、指先が震えていた。

その日の夕方、オフィスを出ようとしたとき、

松田がふと声をかけてきた。

「そういえば、この前、黒川って人が連絡してきたんだ。」

佐藤の背中が固まる。

「資金協力の話らしい。向こうの会社、今は大きいけど、妙にうちのこと詳しかった。

 ……誰かが話したのかなって思ってさ。」

「……へえ、そうなんだ。」

乾いた声しか出てこなかった。

松田は何も言わずに、佐藤の顔をじっと見た。

その目は、責めるでも疑うでもない。

ただ、“信じようとしている目”だった。

「俺さ、昔から思うんだ。

 誰かを信じるって、怖いけど、信じない方がもっと怖い。」

「……松田。」

「だから、佐藤。俺はお前を信じてる。」

その一言で、心の奥の何かが崩れた。

逃げ場を失ったように、胸が痛む。

「ありがとう……」

かろうじてそれだけ絞り出して、佐藤はオフィスを出た。

夜風が顔を撫でる。

街の光が滲んで見えた。

――信じるって、怖いよな。

自嘲気味に笑いながら、ポケットの中のドライブを取り出す。

あのデータがなければ、黒川は何もできない。

捨てようと思えば、今ここで捨てられる。

でも――。

スマホが震えた。

画面には「黒川」の名前。

「……はい。」

『データ、見せてもらった。素晴らしい。

 君の部分設計がなければ、完成はなかった。

 ――次は、試作機の実物を見せてくれ。』

「まだ完成してません。」

『構わない。進捗が見たいだけだ。

 出資契約書も、すぐに用意する。君に、正式な肩書を与えたい。』

その言葉に、佐藤は息を呑んだ。

「肩書……?」

『“共同開発者”だ。松田君の名は出さない。』

通話が切れたあと、

世界が静まり返ったように感じた。

黒川の言葉が、頭の中で何度も反響する。

“松田の名は出さない”――つまり、それはもう完全な裏切りだ。

佐藤はふらりと近くの公園に足を向けた。

ベンチに腰を下ろし、夜空を見上げる。

星は見えなかった。

「……どこで間違えたんだろうな。」

小さく呟いた声は、夜風に消えた。

そのとき、ポケットの中でスマホが光った。

松田からのメッセージ。

「明日さ、朝から一緒にデバッグしようぜ。

 久しぶりに二人でやりたい。」

その文面を見た瞬間、涙が溢れた。

「ごめん……」

誰にも届かない声で、佐藤は呟いた。

指先が震えながらも、スマホの画面を閉じた。

夜の街に、遠くの踏切の音が響く。

まるで、静かに崩れていく“信頼”の音のようだった。

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