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Re:note  作者: 惣山沙樹
9/15

09

 美咲さんがカレーを食べ終わる頃には、夜八時を過ぎていた。

 ここで単独行動をしたくないというのは全員同じだったのだろう。一階にあるトイレには何人かが交代で入ったが、誰も二階にある個室に戻ろうとはしなかった。

 蓮さんが、リビングに備え付けてあったメモ用紙に何かを書き始めたので、俺はそれを覗き込んだ。


「蓮さん、何してるんですか?」

「考えたんだけどな。夜は全員でこのリビングで寝た方がいい。次の襲撃があるかもしれないからな。そして、二人ずつ見張りを立てる」


 蓮さんが書いたのはこうだった。


零時〜三時 颯太

三時〜六時 蓮

零時〜二時 綾音

二時〜四時 亜里沙

四時〜六時 優花


「ショックが大きい美咲さんと、中学生の瑛太くんは除外。他の五人で交代で起きていよう」

「俺も賛成です」


 ダイニングにいた美咲さんも寄ってきて、ソファに全員が座る格好になった。美咲さんが震える唇で言った。


「拓真を殺した犯人が、まだ外にいるってこと……?」


 そこで口を開いたのが、なんと瑛太だった。


「いえ。ボクは外部の犯行の線は薄いと思います。だって不自然ですよ。スマホがなくなった。電話線が切られていた。ボクたちが来た後の出来事です。あのキッチンからは、コテージの出入り口は見えますよね?」


 蓮さんと美咲さんが顔を見合わせた。蓮さんが言った。


「確かにそうだな。オレたち以外の人間が入ってきたらすぐわかる」


 亜里沙さんが口を挟んだ。


「スマホ探す時に二階の部屋確認したけど、窓には鍵がかかってたよ。二階から入るのも無理だと思う」


 瑛太が続けた。


「それに、この合宿の趣旨を犯人が知っていないとおかしいんです。通常、スマホは肌身離しませんからね。拓真さんが全員のスマホを集めていた、というのを知っていないと、今回スマホがなくなった件は説明できません」


 いつもは瑛太に厳しいことを言わない俺だが、さすがに声を荒げた。


「おい、瑛太。何言ってるのかわかってんのか? それだと俺たち合宿メンバーの中に犯人がいるってことになるぞ!」

「……ボクはそう言ってる」

「瑛太!」


 つい立ち上がりそうになった俺を、蓮さんが手で制した。


「いや、瑛太くんの指摘はもっともだ。その可能性も頭に入れておいた方がいい。全員一緒に行動することは、互いを見張ることでもある」


 美咲さんが叫んだ。


「拓真は誰にも恨まれることなんてしてない! わたしだって違う! だって、その、アリバイもあるし!」


 美咲さんが視線を向けたのは蓮さんだった。


「わたしは蓮くんとずっと一緒にいたよ。だから、蓮くんのアリバイだって証明できる」


 ここからは、それぞれのアリバイを語るのは筋だろう。俺は口を開いた。


「俺はずっと瑛太と一緒でした。ビーチに行った後、スタジオに入って拓真さんと会話しました。変わったところはなかったですね。そこから高台に行って……コテージに帰ってきたら、美咲さんと蓮さんの二人がいました」


 今度は綾音ちゃんだ。


「えっとね、わたし、一人だった時間があるの。岩場で腕を怪我して、コテージに絆創膏を取りに行ったんだ。その時流し台で腕を洗わせてもらったから、美咲さんと蓮さんは知ってると思う」


 蓮さんが言葉を継いだ。


「確かにそう。綾音ちゃんの右腕に切り傷があった。あれは、四時より少し前くらいかな。颯太くんと瑛太くんが帰ってくる前」


 最後は亜里沙さんだ。


「あたしは優花とずっと一緒にビーチにいたよ。あたしに拓真さんを殺す動機なんてないし、優花は初対面だよ? あたしと優花も違う」


 綾音ちゃんが自分の胸をおさえた。


「じゃあ……一番怪しいのは、わたし?」


 すると、瑛太がこう言った。


「共犯の可能性もあります。片方がかばっていたり、二人で犯行に及んでいた場合、アリバイは成立しない」


 蓮さんがふっとため息を漏らした。


「それは、颯太くんと瑛太くんにもアリバイがないっていうことになるけど、いいのか?」

「はい。その通りです」

「フェアだな。中学生にしては上出来だ」


 美咲さんと蓮さんのペア。亜里沙さんと優花さんのペア。そして、一人だった綾音ちゃん。共犯の可能性をあげるとなると、全員にアリバイがない。それに思い当たった瞬間、空気が張り詰め、ビリビリと肌に電気が通ったような感覚になった。

 それを打ち破るように、亜里沙さんがパンパンと手を叩いた。


「はい! 疑うのやめよう! それよりシャワー浴びたいんだけど。夜遅くなる前に入っちゃおうよ」


 亜里沙さんの言う通りだ。日中汗をかいたので、このまま流さずに寝たくはない。蓮さんが言った。


「じゃあ、レディーファーストで。女性陣からどうぞ。オレは最後でいい」


 俺は一つ提案した。


「時間の短縮になりますし、俺と瑛太は一緒に入ります。兄弟で風呂なんて久しぶりだな、瑛太」

「……うん」


 そんなわけで、女性四人の後に、俺と瑛太がシャワーを浴びることになった。


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